第11話 静かな生活
ミューズの回復薬の売れ行きは好調だった。
自然豊かなこの土地では農作業は多く、腰痛、肩凝りなどは万国共通の悩みだ。
安価故買い手も増え、ミューズも助かっている。
「問題は安定供給ね」
薬草は自然のものを取りに行っているので、質は一定ではないし、近場のものは段々減っている。
生活の為にはどこかに就職するか、栽培農家と何とか契約するか。
「そうなると宿屋のキッチンでは足りないし、いつまでも独占するわけにはいかないわ」
売上のためには薬をもっと作りたいが、薬草を買うにも元手がかかる。
泊まるものが少ない時はキッチンも使い放題だが、そうでない時もある。
そうやって色々と悩んでると、宿屋の主人から声がかかった。
「ミューズちゃんにお客だよ、招かれざる客だけど」
「お前が回復薬を売っているというよそ者か」
来客は領主代理としてきた男だった。
軽薄そうで偉そうな態度と表情に思わず警戒をしてしまう。
一平民のミューズは礼を損なわないよう頭を垂れた。
「領主代理様、ご挨拶が遅れてしまい申しわけございません。ミューズと申します。不慣れな生活に慣れるためにと働いていましたら、ご挨拶の機会を失っておりました。どうか寛容なお心でお許し頂きたいと思います」
丁寧な挨拶を心がける。
「何だ、その言葉使い。もしかして貴族なのか?」
「いいえ。緊張してこのような言葉遣いになってるだけです。領主代理様にお声かけされるとは思っておりませんでしたので。それに貴族はこのような短い髪をしておりません」
ミューズは身元がバレないようにと願いながら、頭を下げている。
「まぁ、このようなところにくるのは訳アリしかいないか。では、顔を上げろ」
短く切りそろえられたぼさぼさの髪と、青い両目。
胸は晒しで巻いて貧相な体をみせつける。
大きな胸を好む殿方は多いと聞いていたからだ、自衛になるかときつく押さえている。
肌も手入れは出来ず、数日で荒れてしまった。
料理が出来ないため、栄養も偏り、痩せてしまった。
「見目がよければ屋敷で雇おうかと思ったが、そうでもないな。貴族にも見えん」
ふんと吐き捨てられた。
こちらとしてはそう言われたほうが有り難い。
「余計な事をしなければここにいるのを許可しよう。ただ領民に危害を加えるなよ」
「わかりました」
ミューズはそう言って男を見送った。
「あれは領主の息子でオーランドっていうんだ。横暴な放蕩息子さ。良かった、何もなくて。女好きだからそのまま連れてかれるんじゃないかとヒヤヒヤした」
どうやら女癖が悪いらしい。
「これからは日暮れも早まるし、女一人で森に入るのは危険だ。そろそろどこかの薬屋に所属した方がいいだろう。腕前は皆が認めてるし、誰かが側にいた方がオーランドも手を出しにくいから」
ミューズの事を案じてくれているようだ。
「そんな、私なんかに手を出すなんて」
「こんなに可愛いんだ、心配だよ」
近所の者は知っている。
ここに来た時のミューズはとても綺麗な装いをしていた。
どこかの貴族のものだとは言葉使いや所作でわかっている。
オーランドも口ではああいいながらも気になってる様子だった。
「うちでよければ来てもらえるかな? そんなに給金は出せないけども」
一つの薬屋が手を挙げてくれた。
所属先があれば薬の信用度も上がる、今のところ口コミで噂が広がるのみだったので嬉しい。
「ありがとうございます、ぜひ頑張らせていただきます」
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