第65話


 最初は嫌だ嫌だと文句を言っていた久々の顔合わせも、終わってみると時間が経つのを早く感じるくらいにはいいものだった。


「大分長居してしまったな」


 周防の言う通り、夜の帳は落ち切って、時刻は21時を過ぎている。店を出ると、家族団欒の音は減り、辺りは静けさに包まれていた。


「では、僕は先に帰らせてもらうぞ。早くしないと電車がなくなる」


 住んでいるところを隣の県に移し、電車で来ていた周防は「また機会があれば」と手を上げ、早々と去っていく。立ち振る舞いだけは立派だ。


「俺もここらで帰らせてもらうか。あまり遅くなりすぎると、弟妹を起こしてしまうからな」


「私も、明日も朝から家の手伝いで早いし、帰らせてもらいます。モモさん」


「ああ、気を付けて帰るんだよ」


 続けて童山と牡丹も、家のあれこれで遅くなりすぎると不味いので、挨拶もそこそこに帰っていく。


 残るはバイクで来ていた大出だが。


「おっと、そうだ龍巳。お前にちょいと話があんの忘れてた」


「? なんだ?」


 周りに聞かれたくないのか、大出はちょいちょいと手招きをする。不審に思いながらも俺は近づいて耳を寄せた。


「周防に聞いた話なんだがよ。最近あいつが住んでる辺りで、ヘルメットかぶった妙な連中が、通り魔じみたことしてるみたいでな」


「通り魔とは、随分と物騒だな。それに、ヘルメット?」


「ああ。なんでもネットで募集かけられて集まったらしくて、お互い顔も名前も知らねぇって連中だ」


「……なるほど。それは、大分やっかいだな」


「だろ?」


 ネットで募っているというのなら、そいつらは未だに数を増やしているかもしれない。


 それに、相手に身分を知られないというのは、思っている以上に罪の意識が芽生えにくいのだ。遊び感覚で犯罪に手を染めてしまう。


「こいつら、遊び半分でやってっから罪の意識がまったくねぇ。顔隠すのも、多分それが狙いなんだろうが……今はまだ子悪党で済んでも、その内調子に乗って派手にやらかすぞ」


「俺も同じ意見だな」


 意外と状況を俯瞰して見れるんだよな、こいつ。そういうところは認めている。


「へへ。やっぱ考え方似てるよな、俺ら」


「……甚だ不本意だがな」


 だから、俺と同意見だったからといって、そんな嬉しそうにしないでほしかった。せっかく見直してやったのに台無しだ。


「まぁ、この街でもちょくちょく見るようになってるらしいし、一応気を付けとけよ」


「ああ、お前もな」


「誰に言ってんだよ……んじゃ、言い忘れてたもんも言ったし、俺も帰るわ」


 話し終えると、大出はヘルメットをかぶってアクセルを噴かし、エンジン音をかき鳴らして走り去って行く。俺はその姿が見えなくなるまで見送った。


「……あいつもあいつで、気を使ったんだろうな」


 言い忘れていたと言っていたが、きっと皆が楽しく話している中、あんな重苦しい話をして雰囲気をぶち壊しにしたくなかったんだろう。


 普段は喧嘩腰で少々荒っぽいが、その仲間想いの心根は、素直に好ましく思う。


 大出も帰ると、残るは俺と春花。そして光だけとなった。


「さて、じゃあ俺らも帰るか、春花」


 光もバイクで来ていたから、必然俺と春花の2人で帰ると思っていたが。


「ああ、悪りぃ龍巳。もうちょいこの子と話してぇからよ、先に1人で帰ってくんねぇか?」


 光がそんなことを言い出す。驚いていないあたり、春花ももとからそのつもりだったんだろう。もう礼も言ったし、2人で色々と話していたはずだが、まだ話し足りないことがあるのかもしれない。


「そうか? なら俺も残るぞ。春花を1人で帰らせるわけにもいかんからな」


「いんや。先に帰っててくれ。お前がいると都合が悪い」


「は? 都合って……」


「いいから。帰りも俺が送るし安心しな」


 ほれ行った行ったと光は背中を押す。春花の方を見ても、ごめんねと申し訳なさそうに笑うだけだ。一緒には帰ってくれないらしい。


「なんなんだ、2人とも」


「気にすんなよ。んじゃ、夜遅いし気をつけて帰れよ」


「あ、あぁ……」


 釈然としないが、まぁ三井夫妻もいるし、光も変なことはしないだろう……多分。


 そんなちょっとした不安を抱えながら、騒がしくもにぎやかなひと時を終え、打って変わって俺は1人寂しく家路につくのだった。


* * * * *


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