第27話
あれは俺が小学5年のころ。夏休みのある日。とにかく暑かったというのを覚えている。
その日は、春花が祖父母のいる田舎に帰省していたため、俺は1人で公園に来ていた。家にいたって息が詰まるし、少しでも気晴らしになればと思って外に出たのだ。
「……なに、しよう」
しかし、公園に来たのはいいものの。いつも春花と一緒に遊んでいたから、1人だとどう遊んでいいかわからない。所在なさげに辺りを見回す。
ジャングルジム。ブランコ。砂場に鉄棒。どれも心を惹かれなかった。
「? あれ、なにやってるんだろう?」
すると公園の端。目をこらすと、遊具の物陰で子猫に砂をかけていじめている、3人の子供たちを見かけた。
たまらず駆け寄る。俺は子供たちの間に入って止めようとした。
「ちょっと、なにしてるんだよ。かわいそうだろ」
「は? なんだ、おまえ。じゃますんな!」
「うわ⁉︎」
しかし、春花との約束もあり、大した抵抗もせずボコボコにされてしまう。
やられっぱなしの俺はしばらくうずくまっていたが、起き上がると、子猫を抱えて移動し、木の根元に腰を降ろした。
「うっ、いった……けど」
殴られ蹴られ、至るところに擦り傷を作り、頬も赤く腫れてしまった。けれど、子猫は守ることが出来た。その代償がこの程度なら、安いものだろう。
「だいじょうぶだったか、おまえ」
「ニャー?」
茶白黒の三毛が、かけられた砂で汚れてはいたが、どうやら大丈夫そうだ。
良かった。ほっと安堵し、胸を撫でおろす。
「なんでやられっぱなしで、やり返そうとしなかったんだ、お前?」
「……え?」
突然、声がした。
振り向くと、真っ白な髪がふぁさっと鼻をくすぐる。そして、しゃがんで物珍しそうに俺のことを見る、そいつの顔がすぐ近くにあった。
「だれ? えっと、おにい……さん?」
色白の肌で中性的な顔立ちだが、女にしては少し背が高い。
夏の日差しを背に受けた、眩いまでの白だった。その眩しさに、俺は目をすくめる。
「ん? ああ、まぁそうだな。通りすがりの正義の味方とでも思っとけ」
「はぁ……?」
おかしな奴。この時は。まぁ今もそうだが、俺は光にそんな印象を抱いた。
「んで? なんで、あいつらにやり返さなかったんだ?」
「はるちゃんと、やくそくしてるから」
「約束?」
「うん。けんかはしないって」
「……ふむ」
光は立ち上がると腕を組み、瞳を閉じて天を仰いで、う~んとなにやら考え始める。俺と腕の中にいた子猫は、ぼぉっとその様子を観察していた。
「そうだなぁ」
光はしばらく唸っていたが、考えがまとまったのか再びしゃがみこむと、俺の瞳を真っすぐに見据える。
「なぁお前。喧嘩と戦いの違いって、わかるか?」
「なんかちがうの?」
どちらとも人を傷つけるのに変わりはない。こいつは一体なにを言っているんだ?
「全然違うな。自分の感情に任せて拳を振るうのが喧嘩。なにかを守るために力を振るうのが戦いってやつだ」
「まもる?」
「あぁ。それは家族でも友達でも、自分の誇りでも信念でもなんでもいい。とにかく、これだけは絶対に守りたいって大切なもののために力を使うのが戦いだ」
俺は首をかしげる。難しくて良くわからなかった。
「わからんか……まぁわからんよな」
光は苦笑いを浮かべて後ろ髪を掻く。
「意味はわからなくてもいいよ。だけどな。いざって時に力がなくちゃ、なにも守れない。そうだろ?」
「……へ?」
「自分の為には力を使えなくてもいい。その代わり、誰かを守るためなら迷わず戦える男になれ。その時の為に、今日から俺が戦い方ってのを教えてやるよ」
「え? あの、ちょっとま――」
公園内に、俺の悲鳴と光の笑い声が響き渡る。
出会いは最悪だったかもしれないが、その時から今の今まで、俺は戦い方以外にも、光に色々なことを教わった。
そして次第に俺は、光に信頼を寄せるようになったのだった。
* * * * *
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