第18話
夏海ちゃんや大牙くんたちが、私の恋が実るよう応援してくれている。けど……。
「……あの、皆、ちょっといい?」
私の声に、4人が振り向く。
「その……応援してくれるのは嬉しい。だけど、この気持ちを伝える前に、やらなくちゃいけないことがあるの」
たっくんに、あの時の事をきちんと謝る。そうじゃなきゃ、気持ちを伝える資格なんてない。
もしかしたら、聞いてもらえないかもしれない。許してもらえないかもしれない。
気持ちを伝えても、拒絶されるかもしれない。ううん、きっとそうなってしまう可能性の方が高いだろう。
あの時向けられた彼の視線を思い出すと足がすくんでしまって、これまで長い間謝りに行けなかった。今だって怖い。
けれどこれは、絶対にやらなくちゃならない事。
私は夏海ちゃん以外の3人にも、事の顛末を話した。
「あぁ……なんかあるだろうなとは思ってたけど、んなことがあったのか」
3人は、少し難しそうな表情になる。
「まぁ、たしかにそれは最初にやった方がいいな。すまん。知らなかったとはいえ、ちょいとはしゃぎ過ぎた」
「ううん。応援してくれるのは、すごく嬉しいから」
「なんか、手伝えることはあるか?」
「大丈夫だよ。これは、私1人でやらなくちゃいけないことだから」
「……そうか。まぁ、相談くらいはしてくれ。それくらいなら、いいだろ?」
「うん。ありがとう」
私の話を聞いて、夏海ちゃんと同じように受け入れてくれたのか、4人が微笑む。
「あ、そういや」
ふと大牙くんが、何か思い出して声を上げた。
「気持ちの整理つけんのは時間かかるかもしれねぇけど、タツと……取り合えず話したいなら、放課後に生徒会室の前で待っててみな」
「え?」
「生徒会長に呼ばれたんだとさ。『面白がって付いてくるなよ』って言われたけど、ありゃ俺に対して言ったわけだし、桜井だったら大丈夫だろ」
「う、うん。ありがとう。行ってみるよ」
大牙くんは頑張れよと親指を立てる。
こうして放課後、生徒会室に行くことが決まった。
……けれど、生徒会か。
思い浮かぶのは、彼のお姉さん。朱里さんの顔。もしかしたら、またぶたれるかもしれない。でも、それくらい覚悟している。
後から聞いた話だと、午後の授業中。放課後を待つ私は、いつもより少し強張った表情をしていたらしい。
* * * * *
桜井と少しだけ会話らしい会話ができた、その日の放課後。俺は生徒会室の前に来ていた。昼休み前に姉さんから『放課後、生徒会室に来て。会長が会いたがってる』というメッセージが届いたからだ。
何故だとも思ったが、今日は特に用もないし断る理由もないのでこうして訪れている。ここに来るのは、入学式以来だ。それ以来訪れたことはない。
「待たせているだろうし、そろそろ入るか……失礼します」
あの時は、姉さん以外は入学式の準備に駆り出されていたので誰もいなかった。
だがその時とは違って、今日は人がいるのがわかっている。俺は扉をノックして、部屋の中に足を踏み入れたのだが。
「……なんだ、この状況は」
目の前に拡がる異様な光景に、数度まばたきをした。
「ん? 来客か?」
部屋の奥にいたのは、竹刀を肩に担いだ長い髪の女子生徒。その生徒は、入ってきた俺に気づいてこちらを振り向く。ばっちりと目があった。
そしてその前には、小柄な女子生徒が仰向けに倒れていて、さらにそのそばでは姉さんがしゃがみこみ
、困った顔をして他の2人を見比べている。
学校という平和な空間での、あまりに予想外の展開に、思考が高速で回るがうまく処理できない。呼ばれて来てみれば、いきなり事件現場に遭遇してしまったのだ。俺じゃなくてもこうなるだろう。
言葉を失い、動きを止める俺に、竹刀を担いだ女子生徒はにこやかな笑顔で近づいてくる。
「やぁ、よく来てくれたな。君が朱里の弟くんだろう? 私は――」
「……失礼しました」
人間1人を仕留めておいてこの笑顔。狂気としか思えない。
俺は身の危険を感じ、瞬時にこの場を立ち去る選択をする。このままここにいれば、次の犠牲者は俺になるかもしれない。
開けた扉をそっと閉め帰宅、もとい逃走しようと試みた。
「待て、何故帰る?」
のだが、俺が足を踏み出した直後。背後の扉が開き、先程の女子生徒に襟首をつかまれて失敗に終わった。
「折角来たのだから、茶でも飲んでゆっくりしていけ」
「……あの中で、どうゆっくりしろと?」
「あぁ、あれか。さっきのは、しばらく学校をサボっていたうちの会計に、少々罰を与えていただけだ。気にするな」
気にするなと言われても、それはいくらなんでも無理があるだろう。俺だって、そこまで無頓着ではないのだ。傍で人が倒れている中、ゆっくり茶など飲めるわけがない。
「罰って、もしかしてその竹刀で打ったんですか?」
「ん? そうだが。まぁ、安心しろ。加減はしてある」
面を着けていない人間を竹刀で打つなど、加減してるしてないの問題ではない。
相手の女子生徒に怪我などはないだろうか。気になって、俺は扉の隙間から部屋の中を覗き見る。
「うぅぅ……」
倒れている女子生徒は、いまだに傷むのか頭を抑えて唸っていた。それを心配そうに姉さんが眺めている。あの様子なら、大きな怪我はないだろう。
「言っただろう。加減はしたと。あ奴も、その内立てるようになる。そういえば自己紹介の途中だったな。私は3年の
再び笑顔を見せ、久遠寺生徒会長は手を差し出した。
* * * * *
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