16
空船の停泊場に到着してたキトラは受付の人間にテンガロンハットの男を見なかったかと問いかけると、もうすぐチャージが完了するため町から戻ってきて船のほうに向かっていると答えた。
場所を聞こうとすると不審がられたが、直接話さないといけないことがあると伝えると奥へと通してくれた。
外にいくつも並ぶ巨大な格納庫は大きさによって分かれており、目測でだいたいの大きさを見ていたキトラは、中型の空船が待機している場所へ向かった。すると、格納庫に入ろうとしているアグニスの姿を発見した。
「アグニス!!!」
キトラの声に反応しアグニスはゆっくりと振り返った。
「ほう、まさか本当に追いつくとはな。エイザックと同じで目的への執着心は凄まじいか」
「ここでお前を倒してすべてを話してもらう」
「面白いな。殺す、ではなく倒すか。お前にとって俺は親の仇だろう」
「殺したら話せなくなるだろう。それに、父さんは遅かれ早かれ無事じゃすまない。子どものころだってわかってた。父さんが狙われてる。危ないことをしていると」
「俺から話を聞きだしてどうするつもりだ」
「父さんがなぜ俺に杖を託したのか知りたい。父さんは無意味なことをしない主義だった。俺にだって最低限愛情をくれた。その代わりに散々な目にもあったけどな」
「魔力牢か。なのに、なぜ半端な力しか出ていない? それとも俺を倒すのに全力は必要ないというわけか?」
「これは仇じゃない。尋問するための拷問だ!」
杖を剣へ変化させ、キトラはアグニスのほうへ走った。
「銃をもった相手に正面から挑むとは、無謀もいいところだ。せめて、一瞬で終わらせてやる」
アグニスはキトラへ銃を向けると、すぐに引き金を引いた。狙うそぶりすら見せずに撃つさまは、ガンマンとしてかなりの手練れであることを証明している。
「超変則の弾丸軌道、お前が魔法にも長けていることをすっかり忘れてたさ。だが、こいつで防げる!」
マントを掴み前面を覆うと、マントに触れた弾丸は反射し地面へめり込んだ。
「それもエイザックが残したものか」
「アンチマジックマント、魔法がかけかれた攻撃を拡散させ反射する。お前があの時俺らに結界を張ったおかげで久しぶりにこいつの使い方を思い出したんだ」
「そんな便利な物を忘れること自体おかしいだろう」
「うるさい!!」
「タネが分かれば簡単だ。そのまま撃てばいい」
すでに距離を詰めていたキトラはアグニスに斬りかかる。しかし、巧みな動きで交わされすぐさま銃口を向けられてしまう。魔法がかかっていない弾丸ではマントで弾くことはできない。
「そんなもの! 炎熱魔法、フレイムバレット!」
左手をアグニスへ向けて魔力で作られた炎を弾丸にして飛ばす。
銃の攻撃に比べれば大したことない速さだが、近距離で撃てば回避は難しい。
だが、アグニスはバリアを張ってすべてを防いだ。
「召喚術以外もできるんだな。学院は専門分野ばかり教えるがどこで学んだ」
「学びたいから学んだだけだ! それ以外に何がいる!」
「……どこまでもエイザックと似ているな。だが、お前には大義がない。それでは先を知ることはできないぞ。強化魔法、アーレステンポ」
魔法を発動したことでアグニスの動きは俊敏になり、目で追うのでやっとだ
「これじゃあ当たらない……」
「こっちからは狙い放題だ。命までは取らないでやる。俺を追いかけたら痛い目に合うという深い心の傷を植え付ける!」
背後の回ったアグニスはすでに引き金に指をかけ、一秒にも満たない間に引き金を引くことができる。キトラはまだ後ろに回ったアグニスには気づいていない。目に残る残像を追いかけ、ゆっくりと後ろを振り向こうとしているだけだ。
(あの人が思っていたほど、才能はないのか。なら、ここで終わらせるのが幸せというもの)
引き金を引いた瞬間、目の前に何かが現れた。
弾丸は弾かれどこかへと飛んでいく。
キトラの剣は、すでに杖の形へと戻っていた。
「これは俺の戦いだ。お前らには関係ない」
「そんなこと……言わない約束」
「そんなこと言ってすでに杖に戻してるくせに」
キトラの後ろにはリラコとロウが立っていた。
「期待してなかったと言えば嘘になるな。――アグニス、俺はやっぱり召喚師らしい。一人で戦うにはまだ早すぎた。でも、これならどうだ」
リラコとロウではアグニスの動きにはついてこれない。しかし、一気に三対一へと戦況を変えられたことには間違いない。
「三対一か。だが、これで勝てると思っているのか」
「――いいや、五対一だよ!!」
空から声が聞こえる。
「わあああああ! 落ちてますよーー!!!」
「暴れない暴れない」
身軽に着地したのはラビトラと背中にしがみついているスラーニだ。
「やっと追いついたよ」
「キ、キトラさん無事ですかぁ~……」
「お前こそ大丈夫なのかよ」
「あ、あまり大丈夫じゃありません~……」
一気に状況が変わりさっきまでの殺伐としたキトラの表情はなくなっていた。
仲間が来たことにより冷静さを取り戻し、今はまっすぐと、爽やかなほどにまっすぐとアグニスを見ていた。
「さぁ、この状態で俺らとやれるか?」
「人数が揃ったところで俺のは速さには追いつけないだろう」
「そうだな。エネルギーも満足にないこいつらと全力を出せない俺ではお前に追いつくのは無理だ。でも、俺はこいつらと旅をしてよく知っている。長所も短所もな」
「なら、それを見せてもらおう!」
「いいぜ! リラコとロウはアグニスから目を離すな! ラビトラ――サモンポゼッションだ!」
ラビトラは元気よくうなずきキトラのほうへと走った。
しかし、アグニスはラビトラが何かをすると思い銃口を向ける。
「ロウさん! ラビトラさんを!」
「なんかわかんないけどわかった!」
ロウはすぐさまラビトラに近づき、銃弾を切り裂いた。
「リラコさんはキトラさんの正面!」
「わかった」
次にアグニスはキトラを狙った。しかし、素早いスラーニの指示でリラコに防御されてしまう。マントで防がれると考え魔法のかかっていない弾丸を使用した。
(なんだあの少女は。俺の動きが見えているのか。あまり気は進まないが少し止まってもらおう!)
確実に攻撃を当てるため、アグニスはスラーニへと近づいた。
直後、キトラとラビトラが接触し強い光が広がる。
「眩しいがどうってことはない。少女よ、あまり戦いに慣れすぎるな。命が無駄になるぞ」
アグニスは足を振り上げた。
その時見えたスラーニの瞳は、まっすぐと、アグニスを捉えて言った。
「私はただ、恩返しをしたいだけです!」
光の中からキトラが飛び出す。
まるで雪のように白く柔らかな長い髪の毛。ウサギの耳を模したように髪を赤いリボンで止めている部分が揺れる。白いコートは袖裾がウサギの毛並みのようにもこもことしている。
圧倒的な脚力で地面を蹴り、光の中から飛び出して振り上げたアグニスの足を狙った。
「ちっ、まずい!」
アグニスは咄嗟に飛んでなんとか回避するが、この選択は失敗だった。
「跳躍力はこっちのほうが上だっての!」
空中では移動が難しいため、キトラの攻撃を回避できるかわからなかったが、なぜかキトラはアグニスよりもさらに上へと飛んだ。
「お前どこまで行ってんだ。通り過ぎてるぞ」
「これでいい。ここから勢いをつけるんだ!」
キトラは空中で体を下に、足を空へ向けると、何もないところに魔力で作り出した足場を蹴って勢いをつけて一気に落下した。
「なにっ!? これじゃあ間に合わない」
「命までは取らない。だけど、痛い目には合ってもらうぞ!」
地上へと二人が落ちてくると砂煙が舞いあがり見えなくなってしまった。
「あの、アグニスって人は大丈夫なんでしょうか」
「あれは結構やばいだろ」
「キトラ、やりすぎ」
砂煙が流れると、ギリギリバリアで攻撃を受け止めていたアグニスと、力任せに蹴り壊そうとするキトラの姿があった。
「降参するないまの内だぞ」
「冗談言うなよ。あの子どもがこんなに成長してんだ。楽しくなってきたところだぞ!」
その時、二人を狙って炎の魔法が放たれた。
キトラもアグニスも回避し無事ではあるが、さっきまで二人がいたところには天高く昇る炎の渦が立っている。
「休憩中に何かと思えば、まさかこんなところで先輩の言ってた相手に会うなんて」
格納庫の上には青年が立っていた。白いマントをなびかせた騎士。腰には剣を差し、胸には金色のバッヂが輝いている。
「白い騎士……。お前……ジャック・ジョーズの仲間か!」
格納庫から出てきた男がアグニスに呼びかけた。もうすぐ空船を出すためすぐに戻るようにとのことだ。アグニスはすぐには冷めぬ興奮の名残惜しさを残してその場を去った。
「まて! アグニス! まだ終わってないぞ!」
キトラはアグニスを追いかけようとしたが、目の前に紐のついた剣が地面に突き刺さり、青年は降りてきた。
「だめだよ。僕のこと無視しないで」
「お前に用はない。俺はアグニスを追いかけるんだ」
「そんなことよりさ、君聞いてるよね。先輩から次はないぞって」
「お前らに何かしたわけじゃないだろうが」
「でも、元に戻ってるじゃん。心が」
「いつまでへこんでるわけじゃないからな」
「じゃあ……だめだよ。君は一生へこんだままでいないと。ルーラーの障害になるから」
そういうと青年は剣を引き抜き掴んだ。
「そうなる前に殺す。別に、ルーラーに頼まれたからってわけじゃないけど、そっちのほうがお得でしょ」
召喚師とケモミミでモンスターで魔物な少女たちの百鬼夜行 田山 凪 @RuNext
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