15

 列車は貨物車両をおいたままドットクロスに向かった。入れ替わりで警備隊が来たため貨物車両の中身は時期に運ばれることだろう。


 ドットクロスの駅に到着し、キトラとスラーニは空船の停泊場へと向かう。

 

「立派な町ですね。この前の町よりも大きいですし」

「魔法によっていろんな機械が出来て盛んになってきたからな。ここはローリングホールの中では大きな町だ」


 ここはまだスラーニがいた町や以前のギルドがあった町と同じでローリングホール国の領土内にある。と言っても列車で三十分西に進むとすぐに隣の国だ。


 建物が多く道はしっかり舗装されており、住人も多く、空船、列車、馬車、など移動手段も多い。


 停泊場は駅から徒歩で十分程度。すでに十二時になっているため時間はなかった。キトラは駅を出ると同時に走り出し停泊場へと向かう。


「あ、ちょっと待ってください!」

「ラビトラを置いておいた。あとからついてこい」

「え、ラビトラさん?」


 後ろを振り向くとすでにラビトラが立っていた。


「マスターって目的を見つけるといつもああだからね。一緒に旅してると疲れるよ。こっちだってエネルギーがいっぱいあるわけでもないのに」

「ラビトラさんたちはエネルギーを食べてるんですよね、なくなったらどうなるんですか?」

「別に死んだりしないよ。でも、戦うことはできなくなる。こうやって外に出てるだけでも消費するし、戦うってなればもっと。全力を出せる時ってのはいっぱい魂を食べた時かキトラが魔力を十分に分けてくれる時くらいかな」

「でも、前はもっといろんな召喚獣がいたんですよね」

「キトラは今、全力を出せないんだよ」

「えっ、あんなに強いのに」

「ドローベルと繋がってる白い騎士に魔力コアへ呪いをかけられたの。それで、一定以上力を出しちゃうと体が壊れちゃう。たぶん、アグニスってやつを見つければ父親のことがわかるのもあるんだろうけど、そのまま白い騎士に近づければ探し出せるって思ってるんじゃないかな」

 

 ラビトラは話した。

 キトラがローリングホールズに戻るきっかけとなった出来事。

 学院に報告を上げずに旅を続けていると、突如白いマントを羽織る青髪の騎士に襲われた。襲われる前から異常な頻度でモンスターに襲われていたキトラは、魔力で召喚獣を維持しつつほとんど眠れない状況で戦いを続け、疲弊していたところにさらに戦いを強いられた。


 疲れているとはいえそんじょそこらの相手に負けないと思っていたキトラは、青髪の騎士と正面から戦うが、その結果は惨敗。


 決して勝てない相手ではなかった。しかし、疲労による判断の鈍さと、体の重さ、魔力の量、召喚獣のエネルギー不足。さまざまな要因が重なり手も足も出なかった。青髪の騎士が強いのは確かだが、それ以外の要因があまりにも多すぎたのだ。


 雨が降る崖の側で、青髪の騎士は見下すように倒れるキトラを見て言った。


「ルーラーはお前を殺せと指示はしなかった。だからここでは殺さない。だが、いずれお前が我々に反旗を翻したとき、次はこんなものでは済まさない。まあ、まともに反抗する力もなくなるだろうがな」


 顔を隠した二人の白マントの女騎士はキトラを抑えつけた。


「離せ! お前らは何者なんだ!」

「お静かにお願いします。封をする場所を間違えてはあなたの命を奪いかねませんから」

「元気なのは良いことですけどね。しかし、少々度が過ぎる。これで止まってもらいましょう」


 女騎士がキトラの額に指先を振れると、体が一切動かなくなった。


(な、なんだこれは……。魔力の流れが完全に止まってる……。杖を呼び戻すこともあいつらを呼び出すこともできない)


 動けない中、驚いた瞳を見て二人は小さく笑った。


「お人形みたいで可愛らしい。こうしてしまえばあなたも従順ですね。はぁ~、このまま持ち帰れたらいいのに。お部屋でたっぷりと可愛がってあげたい」

「駄目ですよ姉様。ルーラーの脅威になる可能性があるんですから。でも、その気持ちは私もわかります」

「では、ルーラーの脅威にならない場所で出会ったならいいってことですね。近いうちにそうしましょう。――では、あなたに呪いをかけます。私たちを倒せないよう、ルーラーの脅威にならないように」


 胸の中央に見えない烙印を埋め込まれ、キトラの力は封じられた。

 

「波が立たないというのは俺としてはつまらない。名を教えてやろう。俺の名はジャック・ジョーズ。復讐したければ俺を探せ」


 三人が去った後、無慈悲にも雨はひどくなった。

 指一本さえ動かせず、雨に濡れた体はあっという間に冷えていき、次第に呼吸さえも乱れていく。弱く震えた呼吸を必死に繰り返し、ほんの少しだけ魔力が回復し、杖を引き寄せた。


「まだ……出せないか……。このまま終わるのか……」


 その時、複数の足音が聞こえる。さっきの三人とは違う騎士たちが近くにやってきて、女騎士が馬から降りるとキトラへと急いで近づき体を抱えた。


「キトラ! 大丈夫か!」

「……ハームントさん。なんでここに」

「ホワイトナイツの情報を追って各地を巡ってたんだ。そんなことよりどうした。ボロボロじゃないか」

「白い騎士たちにやられて……。俺、魔力を封じられたみたい。父さんがなんで俺に杖を渡したのか知りたかっただけなのに……。俺は、自分のことを知ることさえ許されないのか」

「もう喋るな! すぐ医者のところに連れて行ってやる。全員警戒を怠るな。無事にキトラを町まで送り届けるぞ!」


 ハームントは子どものころにキトラの護衛に付いていた女騎士だ。キトラより十歳離れていて、エイザックが殺された時、十二歳のキトラを脅威から守ろうと、エイザックからの報酬がないとわかっていながらも側で支えてあげた。

 

 その後、ハームントの騎士団にいる魔法解除が得意なメンバーが烙印を消そうとしたが、術者本人でなければ解けないようになっており、何もできなかった。


 完全に魔力が使えなくなったわけではなく、以前ほど一度に出せる量が減り、溜められる量にも制限がかかっている。なまじ生活に支障がないのがキトラにとってつらいものとなった。


 傷心のキトラは召喚獣たちを解放しそれぞれの場所に戻るか自由に過ごすように指示を出した。全員いろんな思いはあったがキトラの下を離れた。ラビトラとリラコとロウはキトラについていき、キトラの力が回復するまでは自立したままで過ごした。


 ようやく力が取り戻せたころ、キトラはスラーニと出会ったのだ。


「そんなことが……」

「もし、アグニスってやつがあの白い騎士たち同じくらい強かったら、今のマスターじゃ倒せない。それはマスターもわかってるはず」

「じゃあ、どうして」

「目の前の目的に進んでいないとね、また考えちゃうんだよ。白い騎士にやられた時の事を。ただの敗北じゃない。逆らえない烙印を押されて生かされた。それはとてもつらいこと。だから、せめて旅の目的だった杖のことだけに集中したかったんだよ」

「……早くキトラさんに追いつきましょう。無茶する前に」

「うん。わかってる。スラーニちゃん、背中に乗って」

「いいんですか?」

「走ることに特化してるわけじゃないけど、普通の人よりは速いから。飛ばすから落とされないようにね!」


 ラビトラはスラーニを背負うと、自慢の脚力で建物を飛び移りながらキトラを追った。


 


 

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