14

 リラコは窓からを顔を出しキトラに問いかけた。


「どうする? 私、行こうか?」

「いや、リラコはスラーニの側にいてくれ」

「でも、力強そう」

「まぁ、なんとかなるだろ。前見たやつよりも小さいし」

「マスターがそういうなら」


 そういうとリラコはスラーニを抱えて椅子に座った。


「えっと、リラコさん? 別に抱えなくてもいい気が……」

「守りやすいから」

「あ、そうですか……。すごく子ども扱いされてる気がするなぁ。まぁ、子どもなんだけど」


 キトラも列車の上に登りジャイアントナイトを眺めた。

 

「あれだけ強力な召喚獣なら近くに術者がいてもおかしくないな」

「私たちみたいな例外ってことはない?」

「盗賊ごときが遠隔で召喚獣を完全にコントロールをするのは無理だろ。それだけの才能があるんなら学院に通って資格取って普通に稼ぐ方がてっとり早い」


 召喚獣は術者との距離によってコントロールの精度に乱れが生じる。

 キトラの召喚獣は魂を食らうという特異な力により、自立して行動するが、一般的な召喚獣は術者が呼び出したい時に意図して呼び出すもので、遠隔で指示をする場合、術者と召喚獣を繋ぐ見えない魔力の鎖である魔拘鎖マジックリードが弱くなってしまう。


 魔拘鎖を安定させるために、召喚獣は本来の力を自身で出すことはできず、その分を術者の魔力で補うのだ。


「僕らこれからどうするの? 前はラビトラが一撃でやったじゃん」

「そういえばそうだったな。ラビトラ、またやれるか?」

「ムリムリ! 前は満月だったから腹をぶち抜いたけど通常時はムリだって」

「それもそうか。じゃあ、ここは俺とロウで行く」

「ちょっとまって。僕はあんなでかいのとやりあえる力はないから」

「一人じゃだめでも俺とならできるだろ」


 キトラとロウはジャイアントナイトの前に立ちふさがった。

 唸るような声で二人を威嚇する。


「この前やったばっかなのに大丈夫なわけ?」

「一人ずつならな。ロウ、サモンポゼッションだ! あ、優しく頼む」

「注文はなしで」


 キトラはその場に片膝をつくと、服をひっぱり方を見せた。すると、ロウは牙でキトラの肩を甘噛みした。二人は光に包まれ一つへとなる。

 

 黒い毛並みの衣に身を包み、牙は鋭く、目も吊り上がり、髪の毛は逆立ったようにとげとげとしている。


「さぁ……いくぞ!!!」


 ジャイアントナイトは貨物車両をその場に落とし、キトラへと襲い掛かった。

 鈍足なジャイアントナイトに対し、ロウとサモンポゼッションをしたキトラは俊敏な動きで翻弄していく。


「やっぱり前のやつよりも大したことないな。なら、すぐに終わらせてやる!!」

 

 サモンポゼッションは憑依させる召喚獣次第でキトラの性格も変化する。

 それは今の召喚獣たちの性格というよりも、野生の本能にしたがったものに近い。

 今はオオカミのロウとサモンポゼッションしたため、獲物を見つけ徹底的に追い詰めるという部分が反映されている。


「隙間だらけなんだよッ!!!」


 ジャイアントナイトの鎧は粘着質な肌に無理やり金属をくっつけているだけであるため、関節部は露出し、今のキトラにとってはジャイアントナイトの鈍足さも相まって格好の的だった。

 

 素早く関節部を切り付けると、大量の血が噴き出しジャイアントナイトはその場に倒れた。直後に光となって術者の杖に戻ろうとした。


 キトラはサモンポゼッションを解き一息ついた。


「追いかけないの?」

「あとはあっちに任せればいい」


 そのころ、スラーニたちがいる客車の一つ後ろで、怪しげな男が赤黒い杖を持って汗をかいていた。


「ジャ、ジャイアントナイトが一瞬で……。そんなはずは……。この杖で強化していたはずなのに」


 そこへラビトラがやってきた。


「おじさん、さっきのモンスターの術者でしょ」

「えっ!? いや、なんのことだか。君は外の男の仲間か? だったら助かったよ。怖くて震えが止まらなかったから」

「ふ~ん。でも、どうして杖持ってるのかな?」

「こ、これは……そうだ! 何かあったら魔法で俺も止めようと」

「……やめた!」


 ラビトラは後ろを向いた。

 男はいまが好機と考え、静かに立ち上がり懐に忍ばせておいたナイフを抜いてラビトラに襲い掛かる。


「私、尋問とか苦手でさ。だからやめた。面倒ごとが苦手なマスターの性格うつっちゃったよ。――最初からこうすればいいってね!」


 ラビトラは振り返りながらそのまま男を蹴り飛ばした。窓ガラスが割れて男は外へと追い出され地面に体を打ち付けた。


「ゲホッ! な、なんだあいつ! あんな馬鹿みたいな見た目してるのに超つえぇ。今のうちに逃げないと……」


 はいずりながらその場を去ろうとしたが、誰かが立っていることに気づいた。


「光、その杖に戻ったの見てたけど」

「お、俺はキッドとは関係ないんだって」

「なんで名前知ってるの?」

「……あっ!」

「暴れたらどうなるか。――わかるね?」


 ロウは袖で隠れている手から爪を伸ばし、男へ見せびらかした。日差しを反射し怪しげに光る爪の前で、男はただうなずくしかなかった。


 キトラはキッドのところに戻りジャイアントナイトを倒したことを伝えると、キッドは大きく笑った後に、ゆっくりと自身の馬のほうへと戻っていく。


「逃げんのかよ。せめて後始末していけ」

「逃げるんじゃない。君たちと戦うためには銃一丁では心配だからな。ジャイアントナイトをあんな一瞬で倒すなんてクレイジーすぎるだろ。なら、俺もクレイジーな武器ちゃんを用意しなくちゃ。ゲラ、ワラ、二人はキトラが何かしてこないか見張っておくんだ」


 しぶしぶゲラとワラは馬から降り、ナイフを取り出しキトラに少しだけ近づいた。


「う、動くなよ……」

「な、なぁゲラ兄」

「なんだよこんな時に」

「キッドの兄貴、あの銃以外に武器持ってたっけ?」

「確かに。身軽さが売りのキッドの兄貴があいつを倒せるほどの強力な武器を持っている姿なんて……」


 その時、キッドの馬は走り出した。キッドを乗せた状態で。


「お前らのリーダー逃げていくぞ」

「なに!? 兄貴ー! どこ行くんだよ!」

「俺らを見捨てないでおくれー!」

「さらばだ! クレイジーな召喚師くん! 俺は決断するのが早いのさ! またどこかで会おう!」


 草原の向こうまで消えていったキッドをキトラ達もゲラとワラもただ見ているしかなかった。


「俺らどうすりゃいいんだ」

「ゲラ兄。これってまずいんじゃ……」


 ゲラとワラはお互いを見合わせ、素早く地面を頭につけた。


「「申し訳ございませんでしたー!!! 俺らにもう戦う意志はありません!!!」」


 あまりにも清々しい敗北宣言。

 これにはキトラ達も呆気に取られてしまった。


「ねぇねぇ、マスター。どうする?」

「どうするって言われてもな……」

「僕はなんでもいい。さっさと行こう」

「私も賛成」

「そうだな。でも、その前にとりあえず聞いておこう」


 キトラは杖を剣へと変化させ土下座をする二人の目の前に突き刺した。


「アグニスという男を知っているか」

「ア、アグニス? いや、聞いたことないぞ。あ、聞いたことないです」

「本当か? お前のリーダーみたいにテンガロンハットをかぶってる男だ。この地域にガンマンは少ない。あのキッドってやつはアグニスの仲間じゃないのか」

「キッドの兄貴はサウスドハイムの町出身で、そもそもガンマンだった。俺とワラもそこからやってきた。金稼ぎでいろんなところ移動してるだけでキッドの兄貴以外に指示してくる人間はいない」


 ゲラの声色と表情から嘘をついている雰囲気は感じない。

 だとすれば今回の戦いは完全に巻き込まれただけ。

 無駄に魔力を消費したとキトラは思っていたが、ゲラは思い出したように言った。


「そういえば、俺らこの前ハンターキラーに依頼されたんだ。少女をつれた変な召喚師を捕まえろって」

「そいつどんな奴だ。もしかして薔薇の香りのする女じゃなかったか」

「薔薇……あの匂いは薔薇か。確かにそうだ。それに女だ。あの、もしかしてその召喚師って」

「たぶん俺のことだ。で、俺のこと捕まえるか?」

「いやいやいや! もう俺らにそんな意思はない。全部洗いざらい話すさ。昨日の夜その女に頼まれて、運が良ければここを通る列車に乗ってるかもしれないって言われたんだ。いつも通り列車を襲ったらたまたまあんたがいただけで」

「俺を捕まえたあとの動きはどうするつもりだったんだ」

「ドットクロスで落ち合う予定だった。空船のチャージが昼までかかるって話だったからそれまでに捕まえたら報酬をもらえて、間に合わなければ話はなかったことにって」


 キトラは剣を引き抜き杖へと戻すと列車のほうへ戻っていく。

 

「おい、もういいのかよ」

「ああ、もう聞きたいことは聞いた。あとは行くだけだ」


 キトラは自身の予想が当たっていたことに喜びを隠せず笑みを浮かべていた。

 父親の仇、そんな上等な理由を掲げるつもりはない。だが、きっちり筋を通してもらう。すべてを話してもらう。エイザックのことがわかれば、杖の謎も解けるかもしれない。


 キトラの探究心は胸の中で高鳴っていた。



 

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