13
男たちは十人の集団で三人は車両の前方に残り、七人は前から列車の中へと入っていった。
「全員同じ場所からか。厄介かもな」
「どうしてですか?」
「仮にこの列車に戦える人間がいるとして、一つの車両にそう何人も乗ってないだろ。一人二人を倒しても、残りの奴らが乗客を人質にする。そうなれば状況はもっとややこしくなる」
ただでさえ狭い場所で、さらに周りに人がいる状況なら簡単に戦うことはできない。特に長い武器なら操るだけで大変だ。その上戦わなければいけない相手が複数いるとなれば、普段の力を発揮することはできないだろう。
単独制圧能力がないことを理解した行動にキトラは少し感心していた。
「あ、こっちの車両に来ますよ」
七人の男たちがキトラたちのいる車両に入ってきた。乗客を睨み付けながら、金目のものはないか、武器を持っていないかと確認している。
「ねぇ、スラーニちゃん。武器隠した方がいいんじゃない?」
「あっ、確かに!」
スラーニは茶色の革製のベルトをはずしてどこへ隠そうかと悩んでいるうちに、男たちの一人がキトラたちの方へと向かってきた。急に動いたスラーニに反応したのだろう。
スラーニは慌てて椅子の下に銃とナイフを装備したベルトを投げると。
「痛っ!」
と、声が聞こえるが、気にする暇もなく男が声をかけてきた。
「おい、そこの子ども。お前何か隠さなかったか?」
「え、いや、別に……」
「怪しいなぁ~」
男がじろじろとスラーニを眺めていると、横にいるラビトラが顔を近づけてきた男にデコピンをした。
「何しやがるんだ! てか、なんだその悪趣味なカチューシャは!」
「はぁー!? いま悪趣味って言ったなぁ! これは本物の耳なんですけど!」
「んなわけあるかよ。不思議ちゃんは十歳で卒業しろよ」
「なにこのむかつく盗賊! ねぇ、ぶっ倒していいよね!」
恰好を馬鹿にされたラビトラは怒りを露わにし今にも襲い掛かりそうだった。
「面倒ごと起こすな」
「子どもを侍らせてなに静観してんだロリコン魔法使いめ」
「誰がロリコンだ! 好きでこうなってんじゃねぇよ! 勝手にこうなるんだよ!」
止めるべきはずのキトラさえ怒ってしまい収拾がつかなくなり、スラーニはどうすればいいかと困ってしまった。
「お前ら! ごちゃごちゃとうるせぇ……」
「「なんだと!!」」
勢いに任せてキトラとラビトラは男を殴ってしまい、床に倒れて男は気絶した。これがきっかけで残りの六人は全員ナイフを手に取り臨戦態勢となった。
「あーあ、マスターが殴ったから面倒ごとになったよ」
「お前のほうが先に当たったろ」
すると、スラーニの座っている座席の下からロウが頭を押さえながら出てきた。
「なんでこんなとこに!? あれ、頭どうしたんです?」
「さっきスラーニの銃が頭にぶつかって来たんだ。結構痛かった」
「ご、ごめんなさい! でも、どうして隠れてたんですか」
「盗賊がやってきた段階で杖で呼び出されたんだよ。相手がスラーニに仕掛けてくるようなら切れって。でも二人が怒ったから全部台無し。結局正面突破じゃん」
「リラコも出て来い!」
呼び出されたリラコは状況を見てため息をつきつつ、大体のこと理解した。
「スラーニ、私が前にいるから動かないで。そうすれば怪我をしないから」
「わ、わかりました!」
キトラは杖を引き寄せ鞭へと変化させると、男たちに言った。
「先に行っておく。一人も逃がさないぞ」
そのあとに起きたのは御想像通り一方的な戦いだ。狭い場所とはいえ武器の扱いに長けるキトラと、自由自在に動けるラビトラとロウの前に、男たちは成す術もなく列車の外へと放り出された。
「すっきりした。あとは外の奴らだな」
キトラは窓から外に出て、そのまま列車の前方で待つ三人の下へ向かった。
「中に入ってきた奴らはもう倒した。いい加減そこをどいてくれないか?」
「なんだと!? まだ入って数分しか経ってないのに」
三人の内二人は動揺し、キトラの言葉が嘘だと思おうとしたが、キトラの後ろのほうで転がる仲間たちの姿を見て青ざめた。しかし、真ん中にいる男は動揺せず、ゆったりと馬から降りた。
「フゥー! すごいねぇ~。君は何者だい? 見たところ警備隊でもなさそうだし、国家直属の魔法使いって雰囲気もない。俺らと同じニオイ。流浪人のニオイだ」
男は首から下げていたテンガロンハットを頭にかぶり、キトラへと近づいていく。アグニスと顔は似てないが、似たような服装をしていることにキトラは嫌悪感を覚える。
「いい目をしているじゃないか。厳しい試練を潜り抜けた目だ。やはり、俺らと似ている」
「お前らみたいな盗賊と一緒にしてほしくないな」
「そういうなよ。この大空の下ではすべては平等。誰が何を手にしようと同じさ。世の中には自分だけで物や金を独占し悦に浸る者がいるが、俺らはそんな奴らによって縛られた物や金を解放する。素晴らしいだろ」
「いや、それは普通に盗みだろ」
「そんな風に言う奴らもいる。だが、言葉は捉え方。花にも刃にもなる」
「……やばい。さっきよりも面倒くさくなってきた」
「俺の名はキッドだ。君の名を教えてくれ」
「……キトラだ」
名前を聞いた瞬間、キッドは素早くホルスターから銃を引き抜きキトラへと向けた。同時にキトラも鞭を剣へと変化させてキッドの喉元へと近づける。
「フゥー! いいねぇ、刃のように鋭い目つき。興奮しそうだ」
直後、列車の後方で轟音が鳴り響き列車全体が大きく揺れた。
「なんだ!」
キトラは後ろを向くと、列車の一番後方にある貨物車両のほうに鎧を身に纏う七メートルの巨人が立っていた。関節部は露出し、肌は土色で、目は黄色くぎょろりと不気味なほどに大きく、黄色で染まり真ん中に小さな黒目がある。
連結部分に近づき強引にねじ切ると、貨物車両を抱え去ろうとした。
「ジャイアントナイトか! でも、なんでこんなとこに」
「驚くのも無理はなさいキトラ。あれは俺らの仲間が操る召喚獣。この地方にはいない珍しいモンスターさ。でも、それを知っているってことは君、結構知識と経験がありそうだね」
「集団で前からやってきたのは後ろへの警戒をなくすためか。盗賊なりに考えたってわけだな」
「知恵と経験と勇気。人間が生きる上で必要な三つの心得さ」
ラビトラとロウは客車の窓から列車の上へと飛び乗り後ろを見て驚いた。
「七メートルくらいかな」
「僕らが見たことあるやつのほうが大きかった」
「ねぇ! マスターどうする?」
キトラは深いため吐き捨て返事をした。
「やるしかないだろ。徹底的にな」
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