11

 召喚獣を杖に戻し、スラーニと共にギルドに戻ると、夜だというのにライラが元気な笑顔で向かえてくれた。


「お疲れさまです! お怪我はありませんか?」

「大丈夫だ。今は一人か?」

「受付は私一人です。本当は二人だったんですけど、アキノさんが急遽夜は出れなくなって」

「そうか、それは大変だな」

「いえ、ハンターキラーの一件で一時的にクエストを制限してるので人は少ないんですよ。むしろ暇でして」


 すると、キトラとスラーニはお腹が鳴った。


「あっ、私なにか作ってきますね!」

「いいのかよ」

「はいっ! あ、でもそんなに上手じゃないので期待はしないでくださいね」


 そういうとライラは厨房に向かった。

 その間にスラーニを待たせキトラは奥の個室へと向かった。扉を開けるとノブが書類を整理している。


「戻ったか。どうだった?」

「ハンターキラーと思わしき連中と対峙しましたが、とりあえず気絶させて帰り際に拘束しといたんで。罠は俺の仲間が事前に解いておいたんで安全です。あ、それと女を一人逃してしまいました」

「一人ぐらい仕方ないさ。報酬は明日でもいいか? 金庫を閉じてしまってな」

「構いませんよ。……あの、この辺一体でテンガロンハットのガンマンの噂、聞いたことないですか? 悪さをしてるとか」

「テンガロンハット? いや、聞いたことないな。そもそもこの辺にガンマンは少ないし、しかもハットを被ってるなら目立つ。明日ハンターたちに聞いてやろうか?」

「お願いします」


 個室を出るとスラーニはライラの作った料理を食べており、なぜかラビトラたちも一緒になって食事をしていた。


「お前らまた勝手に出てきたな」

「久しぶりに悪党倒したんだからいいじゃん」

「……がんばった」

「ぶっちゃけ僕はそんなに戦ってないけどね」

「キトラさんも食べましょ。美味しいですよっ!」


 スラーニも共に戦ったことで召喚獣たと馴染んでいた。

 新たな仲間を加えてどんな旅になるか、期待をしつつもアグニスの行方が気になるキトラだった。



 翌日、キトラ達は昨日の疲れから少し遅めに目覚めてギルドに向かった。

 ハンターキラーを倒したことで再び運搬クエストが解放され、その他のクエストにも人が集まって選んでいた。


 活気にあふれるギルドを眺めていると、杖の中からロウが言った。


「キトラ、ちょっと外に出ていい?」

「どうした急に」

「気になることがあって」


 キトラとスラーニは見合わせどうしたのかと首をかしげるが、とりあえずロウを外に出してみた。すると、ロウはギルドの匂いを嗅ぎ確信したような表情を浮かべる。


「昨日逃した奴がここにいる」

「ゴーレムの女か」

「うん。でも、食事の匂いに混じってていまいちわからない。何回か嗅いでるんだよ。ここに来た時、最初に運搬ルートを見に行った時も」

「昨日の夜はなかったんだな」

「なかった。だから、ギルドマスターとライラじゃない」

「ならおおよそ見当はついた」


 キトラはロウの手を掴み受付へと向かう。いつも通りライラが笑顔で挨拶をすると、昨日の午前中に出会ったもう一人の受付であるライラの先輩アキノを読んでもらった。


「はい、何か御用でしょうか?」

「あー! お前ハンターキラーだろ!」


 ロウの声がギルド中に響き渡り、ハンターやほかの受付たちが一斉にキトラ達のほうを見た。ライラは何がなんだかわからず動揺しながらキトラに問いかけた。


「え、どういうことですか」

「昨日の夜、俺らはハンターキラーと戦った。準備している姿を見たのは一昨日の夜だ。だけど、ずっと引っ掛かっていたことがある。あのルートは一部の人しか知らないルートだ。なぜ、その場所に罠を仕掛けたのか。なぜ、そこに人が来ると分かっていたのか。そのルートを使っているハンターかギルドの関係者のどちらかになる」

「でも、それだけじゃ先輩がハンターキラーってことにはならないんじゃ……」

「匂いだ。ロウ、この匂いはいつ嗅いだ?」

「昨日と一昨日。昨日はこの人がいる時だよ」


 昨日、スラーニが来る直前のことだ。みんなで料理を頼んだ際にもってきたのがアキノだ。その時、ロウはどこかで嗅いだことある匂いを感じていたが、確信がなく、まさか関わっているとも思っていなかったため言わずにいた。


 しかし、昨日の夜。ゴーレムを使っていたハンターキラーにもっとも近づいたのはロウだ。


「証拠はあるのかしら。匂いだけじゃ何も証明できないわ」

「あくまで匂いは見つけ出すきっかけだ。腕、見せてくれないか?」

「なんで腕を」

「昨日の夜、ハンターキラーの去り際にロウの爪で切りつけた痕があるはずだ。そこまで深くはないが確実に切り裂いた。その腕には傷が残っているはずだ」

「あなたに見せる理由はないわ!」

「はぁ……。じゃあ、少し手荒にいくぞ。リラコ、出てこい」


 杖を軽く振ると、リラコが出てきてカウンターの向こうにいるライラの先輩の腕を掴み腕を捲った。すると、そこには確かに爪でつけられたような傷が残っていた。


「こ、これは……」

「――証拠はそれだけじゃないぞ」


 そう言ったのはギルドマスターのノブだった。


「キトラが拘束したハンターキラーは全員ここのハンターだった。みんな洗脳を受けていたようだがな。その三人の面倒を見ていたのはお前だ」

「ち、違う! 私はそんなこと!」


 ごまかそうとしていたが、間髪入れずノブは書類をカウンターに叩きつける。

 そこにはアキノの経歴に関することがびっしり書かれてあった。


「お前、身分を偽っていただろう。ハンターが洗脳されてたのがわかってから各所に連絡を入れて確認し、空便で送ってもらった書類だ。お前は元々学院の出で、専攻は操術系魔法。モンスターを操ったり尋問の際に使われる魔法だ」


 すべての証拠は出揃った。もうごまかすことはできない。

 アキノはさすがに諦めたようにふるまった。


「あーあ、ここは思ったより居心地が良かったんだけどなぁ~」

「先輩……嘘ですよね……? だって、あんなに親切にいろいろ教えてくれたのに」

「ごめんね。私は嘘つきなの」


 すると、アキノは煙幕玉を地面に投げつけ黒い煙が充満し、その間にギルドの外へと向かった。


「私は嘘つきだけど、ライラのことは嫌いじゃなかったよ。もう、私みたいのに騙されないように気を付けな」

「ロウ、匂いを追え!」

「だめだ、この煙幕玉には感覚を鈍らせるものが入ってる。目と耳以外で追えない!」


 アキノは完全に逃げていった。 

 ここで捕まえればアグニスとの関係を聞き出すことができたが、それは失敗に終わってしまう。


 煙が完全に外へと抜けたあと、ライラを見ると涙を目にいっぱいためていた。


「先輩がハンターキラーだったなんて」


 ライラはまだギルドに来て半年しか経っていない。最初のころにアキノからいろんなことを教わり、ようやく慣れてきたのに、優しくしてくれた先輩が今回の事件の関係者だったことにショックを隠し切れなかった。


「ライラさん……」


 スラーニはそんなライラになんて言葉をかけていいかわからなかった。

 失う辛さはスラーニにもよくわかる。でも、これはスラーニが感じたそれとはまた違うもの。


「ライラ、あいつは何年ここにいたんだ?」

「五年目になると言ってました……」

「もしかしたら、君に会ったから行動したのかもな」

「どういうことですか」

「ライラは人を引き付ける不思議な魅力がある。きっと、あいつは君に触れて変わっていく自分が怖かったんじゃないか? 言ってたろ。居心地が良かった。嫌いじゃなかったって。君の優しさや元気を好きになって離れられなくなる前に、ここから出て行ったんだ」

「でも……」

「悪いことをしているとわかったなら、償わせる可能性もできたってことだ。見つけられない悪はどうしようもないが、見つかったからこそできることもある。いつか、もう一度出会った時には、俺がなんとかしてやる。だから、いつかあいつがもう一度君の目の前に来られるようになったら、いっぱい叱ってやってくれ。悪いことは駄目だってな」


 今回の件は遅かれ早かれノブが気づいた可能性もある。

 被害者が増えればルートは封鎖され、ハンターキラーは襲うルートを変え、変えてもバレるなら、必然的に内部に敵がいるとわかってしまう。アキノはあえてバレやすい方法でやったのかもしれない。


 それでも、やった行為が悪いことには変わりない。

 ライラを悲しませたこと、武器や道具を盗まれたハンターの気持ち、それをいつかアキノには理解させなきゃいけない。


「キトラさん、先輩のことお願いします!」

「ああ、まかせろ。俺もあいつに用があるからな」


 アグニスと繋がっているアキノを見つければ、アグニスの居場所や目的がわかるかもしれない。これからの旅はアグニスを見つける旅だ。


 ギルドを離れて歩を進めたキトラとスラーニ。

 これから何が待っているかわからないが、杖の謎を解く以外の目的ができたことに、キトラは少しだけやりがいを感じていた。


「で、お前はいつまでついてくるんだ?」

「お礼をするまでですっ!」

「昨日助けてもらったんだからそれで終わりじゃないのか?」

「全然ですよ。だって、キトラさんならあの状況でも抜け出せましたよね。私がキトラさんの命を救うまではお礼は終わりませんよっ!」

「こりゃあ長い旅になりそうだ」


 

 





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