10

「こんな化け物相手にしてられないわ!」


 女性はゴーレムをエネルギーに戻し自身の杖へ収納すると、その場を去ろうとした。しかし、ロウが追いかけ鋭利な爪で切りかかる。


 腕の表面を切りつけることに成功したが、再び煙幕を巻かれて行方はわからなくなる。


「ごめん、見失った」


 すでにキトラとリラコは分かれており、キトラの表情に疲労の色が見えていた。


「まぁいいさ。それにしても久しぶりにやったが結構きついな」


 キトラとリラコがサモンポゼッションをすることをわかっていたラビトラとロウは、隠れていた場所から出てキトラの下に戻った。


「せめて合図くらいしてよね。それに巻き込まれたらひとたまりもないんだから」

「しょうがないだろ。急だったんだから」

「で、どうするの。さっきのやつ追いかける? 何か因縁があるみたいだったけど」

「追いかける。そしてなんで親父を殺したか洗いざらい全て聞かせてもらう」


 アグニスと会ってすぐ寄りは、キトラは冷静さを取り戻している。

 だが、キトラが父親のことに関してここまで感情的になるとはラビトラも知らなかった。


「ねぇ、マスターは私たちにまだ言ってないことあるでしょ」

「……ああ」

「それ、いつか教えてくれる?」

「今言っておこう。俺は父さんが死んだこと自体はそこまで気にしてない。たぶん、いつかは誰かに殺されてた。ただな、殺した奴がわかっていて、そいつが謝らずにのうのうと生きているのは許せない。筋は通してもらう」

「そっか。ならよかった」

「なにがいいんだ」

「憎悪とか復讐とか、そういうのだけじゃないってわかったから」

「例えそうだとしたら、お前らは巻き込まない。一人で行く」

「知ってる。マスターはそういう性格だから」


 アグニスの下へと向かおうとしたキトラ達の前に再び人影が現れた。

 

「ハンターキラーか!」

「またこけちゃった……。あっ、キトラさん! やっと見つけました!」


 それはスラーニだった。

 リラコが向かった方向で激しい音が聞こえたため、何かあったのかとやってきたのだ。


「無事みたいですね。よかったです!」

「悪いな、一人にして」

「えっ?」

「なんでもない。ほら、いくぞ」

「行くってどこに行くんですか」

「いけ好かないガンマンのところだ」

「あ、まってください!」


 キトラ達を見つけたて安心したスラーニであったが、走り出したキトラたちにまた離されてしまった。


 アグニスは森を抜けた先にある丘の登っていた。そこにキトラと召喚獣たちが到着する。


「見つけたぞアグニス!」

「ほう、もう倒したか。思ったより早いな」

「あんなゴーレムで俺の足止めできると思うなよ」

「なら、これで足止めをしておこう」


 アグニスが指を鳴らすと、キトラ達を囲む結界が現れた。


「封鎖結界か! リラコ、壊せるか」


 リラコは思いっきり結界を殴ってみるが、衝撃は結界全体に広がり全方向からエネルギーとしてキトラ達に襲い掛かった。


「あっぶねぇ……」

「連打してみる」

「いや、待て! そんなことしたら!」


 リラコは結界を何度も殴ってみるが、やはりびくともしない。力で壊すことはまず不可能だった。後ろを振りむき謝ろうとしたリラコだったが、キトラ達が息を切らしてその場に座ってることに首をかしげた。


「どうしたの?」

「お、お前のせいだよ……」

「無茶しないでよね……」

「潜伏してればよかった……」

「なんかごめん」


 そんな姿にアグニスは笑いをこらえられなかった。


「お前ら面白いな。こんな状況でコメディアンみたいなことをするとは思いもしなかった」

「こんな状況ってお前が閉じ込めんだろ。どうせ逃げるまでの時間稼ぎなんだろ」

「それはどうかな?」


 アグニスは即座にホルスターから銃を引き抜き、結界に向かって銃弾を放った。すると、結界を貫通しキトラの肩を貫く。


「ぐっ……」

「こっちからの攻撃はし放題なんだ。このままお前ら全員を殺すことだってできる。考えてもみろ。追われる危険性があるのなら、殺しとく方が得だろ」

「間違いない……。でも、そう簡単に殺されるかよ」

「俺の弾丸は確実にお前を貫く。その結界は長持ちはしないがお前を殺すのにそう時間はかからん。終わりにしようか」


 アグニスは再びキトラへと銃口を向ける。すでにトリガーに指はかかっていた。

 召喚獣たちはどうするべきかと考えていたが、この状況を打破する方法を三人はもっていなかった。


「マスター、どうするの?」

「僕らの力を解放してもこれは壊せない」

「全員でサモンポゼッションを使うしかない」


 ラビトラはそれに対し強く反対した。


「そんなことしたら体が壊れるよ!」

「生き残らなきゃ、何も意味はないだろうが」


 その時、銃声が響き渡る。

 しかしそれはアグニスの物ではなかった。

 キトラがアグニスのほうを見ると、銃は結界の目の前に落ちていた。

 銃声は後ろからだ。その方向を見てみると、そこにはスラーニの姿があった。


「あ、当たった……。キトラさん! 当たりましたよ!」

「お前……」

「というかこれどうなってるんですか!? えっと、拘束系の結界魔法だから……確かこんな風に」


 スラーニは手に魔力を込めて結界に触れると、結界はガラスが割れるように壊れていった。


「よかったぁ~。知らない魔法だったら解けないところでした」

「それも姉さんから習ったのか?」

「はいっ。私は治癒、防御を主に教わりましたが、魔法解除を覚えれば捕まった時に便利だって」

「こんなところでも姉さんの力に救われるとは。父さんは俺よりも姉さんを研究するべきだったろうに」


 異常な命中精度で銃だけを落としたスラーニを見て、アグニスは内心驚いていた。


(あの少女、偶然かそれとも才能か? 俺でさえもあの歳で銃だけを落とすなんてできなかったぞ。……面白いかもしれない)


 その時、影が地上を覆いつくした。

 空を見上げるとそこには空飛ぶガレオン船が近くに迫っていた。

 

「悪いな、時間切れだ」


 アグニスは空船から降ろされた縄梯子に捕まり、空へと昇っていく。


「おい、まてっ!」

「お前が俺を追いかけてくるなら好きにしろ。もし、俺を倒せたなら、あの日のことをすべて話してやる」

「……くそっ!!」


 こうして、ハンターキラー対峙は終わりを向かえたが、倒さなければいけない相手も明らかになった。

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