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杖を剣へと変化させ、飛んでくる銃弾をすべてを弾き返すと、森の奥へと向かった。
「マスター、リラコはどうすんのさ!」
「すでに治癒魔法はかけてある。でも、簡易的なものだ。俺らで倒すぞ!」
「オッケー! 久しぶりに暴れてやる!」
銃弾を弾き返していたのは避けられないからではない。散布した空間に満ちる魔力で貫く弾丸を捉えれば、軌道がわかり避けること自体はそこまで難しいことではない。重要なのは攻撃を避けることではなく、攻撃の位置を把握することだ。
空間に満ちる魔力で探知できる範囲は集中する時間に影響する。相手が大量の魔力を放出していれば位置は簡単に特定できるが、銃の攻撃ではそうもいかない。攻撃をはじき返している間に、銃から放たれる光を見ていた。
キトラとラビトラは向かいつつ迫りくる銃弾を回避しながら、奥にいる人影を発見し躊躇なく飛び込む。そこにはフードを被った黒いローブを着た三人の人間いた。
「三対二だからって余裕物故くなよ。こっちの力はそんな三丁の銃で止められるほどやわじゃない」
一番近くにいたやつの銃を切断し、間髪いれず蹴りを入れる。それと同時にラビトラも一人を蹴り飛ばした。標的が二分し動揺しているところへ二人は同時に蹴りを入れた。
ハンターキラーと思われる三人は地面に転がり気絶した。
「おいおい、加減しろよ。お前の蹴りは下手すれば体ぶち抜くんだから」
「大丈夫だって。満月じゃないからそんなに威力出せないし」
キトラは倒した三人のフードを取って素顔を確認した。当然顔を見ても知らないものだと思っていたが、その三人にはどこか見た既視感があった。しかし、記憶の中に薄く残っている靄みたいなもので、はっきりと誰かはわからない。
「すれ違っただけか……? いや、にしてはやけに胸騒ぎがする」
「前に倒した悪党とか? 一年もあれば悪の魂は戻るでしょ」
「一年以上前……。いや、記憶にない。本当にたまたま遭遇して倒した奴らで記憶にすらないのか」
その時、別の方向から再び銃弾が向かって来た。
「ちっ、まだいたか。隠れろ」
「もう隠れてるよ」
ラビトラはすでに木の陰に隠れて余裕そうに手を振っていた。
「わかってたなら教えろよ」
キトラも別の木の影に隠れて様子を伺った。
「――珍しいこともあるもんだ。てっきり国元を離れてまだ旅をしているのかと思っていたがな」
低い男性の声が銃弾の放たれた方向から聞こえる。まるでキトラのことを知って言うような口ぶりだ。
「誰だお前。声だけじゃなわからないぞ。顔を見せろ」
「迂闊に出るわけにはいかないだろう。何かしてくるかもしれない」
「そりゃするさ。先にそっちがやってきたんだ。一発ぐらい殴らせろ。親玉なんだろ」
「話に聞いていた通り。いや、昔と変わらないな」
「……もう一度聞く。お前誰だ。俺のことを知ってるやつはそう多くないはずだ。学院の奴か。それとも」
すると、その声の主はゆっくりと暗闇から出てきた。
茶色のテンガロンハットをかぶったガンマンが姿を現す。
「お前は……」
「久しぶりだなキトラ。親父さんが死んだ時以来か」
ラビトラはこの状況がわからなかった。ラビトラがキトラの召喚獣になったのは、キトラが召喚師になったあとのことで、試験を受けるために学院にいた時のことはほとんど知らない。父親が死んだのはそれよりも前だ。
キトラは怒りをあらわにし影から飛び出し男へと襲い掛かった。
「平然と俺の前に現れるとは不用心だなッ!」
「話を聞け」
銃声がこだまする。
この距離なら魔力の中を通る弾丸の軌道は簡単に読める。だが、次の瞬間、キトラの肩を弾丸が貫いた。
「くそっ……」
「マスター!」
「そこの獣娘は出て来るなよ。マスターを死なせたくなければな」
キトラは剣を杖へと戻し、攻撃をしないことをアピールした。
「これでいいだろ」
「そうだな。それなら斬られる心配はない。――せっかく再会したんだ。何か聞きたいことはあるか」
「そんなの決まってる。なぜ……なぜ親父を殺した! お前は護衛役だっただろ!」
キトラの父親エイザックは殺害された。胸に銃痕が残っており、魔法の施され銃弾にも耐えうるほどの強度をもった服はたやすく貫通していた。こんな芸当はそこら辺のガンマンでは到底真似できない。
弾丸そのものに魔力を中和する魔法をかけ、打たない限りは。
このテンガロンハットの男アグニスはエイザックの護衛をしていた。エイザックは数々の論文を出し魔法学会に影響を与えた。それと同時に目をつけられてしまい、研究を邪魔しようとする者たちが現れ、妨害工作も度々発生した。
いつ、息子のキトラを連れ去られたり人質に取られるかわからない。そのため、キトラには優秀な騎士を、自身にガンマンを護衛に付かせた。
しかし、事は起きてしまった。
帰って来たキトラが見た光景は、座ってぐったりとしているエイザックの胸に八つ風穴を空けられた姿だった。それから調査が入りいくつもの目撃情報と証拠が集まり、その全てがアグニスを犯人とするものだった。
「その答えを知ってどうする? 俺へ復讐するか? エイザックのことを嫌っていたお前が俺を殺すのか?」
「父さんのことは好きじゃなかったさ。魔力牢の中に何年も、一日何時間も、研究として閉じ込められてたんだからな。でも、研究から離れた時の父さんは普通の父さんだったんだ」
「その力は結局のところエイザックの生きる研究成果となった。なのに研究者としては嫌いだったなんて都合がいいな。その力なら俺を殺せるかもしれないのに」
「答える気はないんだな……。なら、もう話はいい。やることは決まってる」
「唯一俺を正当な理由で殺せるなそれはキトラだけだろう。だが、俺もただで殺されるわけにはいかない。抵抗はするぞ」
アグニスが銃口をキトラへと向け、引き金を引こうとした時、森の中から凄まじい勢いで何かがアグニスの下へと迫った。
「潜伏させていたか」
茂みから飛び出したのはロウだ。
アグニスの銃弾を交わし手の隠れた袖からは鋭利な爪が伸び、アグニスへと切りかか。しかし、護衛役を任されるほどの実力を持つアグニスはそれを容易く交わして見せた。
「こうなると分が悪いな」
「逃げる気かッ!」
「こいつを倒して追いかけて来い。追いつけるのならな」
アグニスが去ろうとした方向から球が投げられ、地面に落ちると煙を散布し辺り一面を真っ白に染め上げていく。
「まてッ!」
「マスター! 何かが来るよ!」
激情していたキトラは周囲の魔力反応を探知することを忘れていた。ラビトラが野生の直感で気づいた不穏な気配。それは煙の中から現れる。巨大なシルエットが正面に立ちはだかった。
「あれは……ゴーレムか」
周囲の木を超える高さと、茂みをかき分けるように簡単に木々を倒していく力。
その体はゴツゴツとした石で覆われたモンスター、ゴーレムだ。
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