6
日も暮れ始めキトラたちは森の方へと向かった。ロウが先頭を歩き件のルートへ案内している。ハンターキラーたちとの戦闘の可能性を考え、ラビトラとリラコは直前まで体力を温存するため杖の中に入っている。
「あの、キトラさん」
「なんだ?」
「そのハンターキラーって危ない人たちなんですよね。どうして自ら向かってるんですか?」
「
「ギルドのためではなく?」
「あのギルドに特に思い入れも何もない。偶然のめぐりあわせだ」
キトラは冷たいというより淡白というほうがしっくりくるだろう。
強い正義感に突き動かされるわけでなく、世界を平和にしようなんてのも考えていない。目的のために現れる障害と、利用できるものを利用しているに過ぎない。
スラーニはキトラのそういう性格をアネルから何度か聞かされていた。
君を助けたのも別に命の尊さを重んじているからではないと。
でも、スラーニは不思議だった。
世の中に悪党なんてのはいくらでもいる。なのに、アネルの話を聞く限り、キトラが狙うのはいつも大きな被害を生む悪党ばかり。その方は召喚獣たちの力をたくさん得られるというのならそこまでなのだが、スラーニはそれ以外の何かをキトラに期待していた。
「ここが入り口だ」
ロウは森を指さした。
入口となっている新ルートの道は入るところだけ木を根元から掘り起こし入りやすくはなっているが、奥に行けば行くほど足場は悪くなる。十メートル先はすでに草が覆い茂っていた。
「ロウはこっちの様子をみながら潜伏。ラビトラとリラコは出て来い」
昼から夕方まで杖に籠っていたラビトラは出てきたと同時に大きなあくびをしつつ背伸びをした。リラコも軽くあくびをしていた。。リラコはちょうどスラーニの真後ろに出てきたため、振りむいたスラーニは驚きしりもちをついた。
キトラよりも背が高く寡黙なため、子どもからすればその迫力は計り知れない。すると、リラコは手を差し伸べた。
「ごめん。驚かせちゃった」
「あ、いえ。こちらこそ大げさにおどろいちゃってごめんなさい」
差し伸べられた手を掴もうとした時、それを見たキトラは慌てていた。
「あっ! ちょっとまてスラーニ!」
「えっ? ――うわあああああ!!!」
リラコは力がとてもつもなく強い。
そして寝起きの力のコントロールが極端に下手だ。
キトラは魔法で対応しているが気を抜けば突き飛ばされ壁にめり込んだ経験もある。リラコは善意で手を差し伸べたが、力がありあまりスラーニを天高く投げてしまった。
「な、なんで飛ばされてるのー!! しかも、腕痛い!」
「あーあ、めっちゃ飛んでる……。ラビトラ、受け止めてやってくれ」
「寝起きなのにいきなり仕事増やさないでよね」
「……ごめん」
ラビトラは力強くジャンプしスラーニを受け止めてふわりと地上へ着した。
これこそがラビトラの真骨頂。ジャンプ力と脚力、それに落下時の速度を落とせる。半ば放心状態でラビトラにしがみついていたスラーニは、何が起きたのかしばらくよくわからないままだった。
「わ、私どうなったんですか」
「リラコに空まで飛ばされたんだよ。そんなに珍しいことじゃない。俺もリラコの寝返りで突き飛ばされて壁にはまったことあるし」
「私も起きたら空の上だったことあるよ」
「ね、寝起きのリラコさんには近づかないようにします……」
ロウはキトラたちより先に森の中へ入ろうとした時、何か独特の匂いを感じ取っていた。どこかで嗅いだことあるような匂いだったが、どこで嗅いだかまでは詳しく覚えていない。
「どうした」
「いや、なんでもない。先行くよ」
「一応気を付けろよ」
「わかってるよ。へまはしないから」
そういうとロウは森の中へ駆けていった。
「私たちもいかないんですか?」
「少し待ってからだ。ロウの位置は杖を握っている間は把握できる。あいつが俺らから距離を置いて監視できる位置に付いたら森に入るぞ」
その間に太陽はさらに沈み、すでに薄く星空が見え始めていた。
運搬ルートで利用されるため、凶暴なモンスターが闊歩しているわけではないが、夜の森というのは不気味だ。スラーニは暗くなり表情を変えた森に少し恐怖を感じていた。
「怖いなら帰ってもいいんだぞ」
「い、いえ! ここまで来たんです! 帰りません!」
「安心してよっ。もしもの時は私が助けてあげるからさ」
子ども相手にラビトラはここぞとばかりにお姉さんアピールをかますが、キトラはじーっと見ながら言った。
「前にモンスターに追いかけまわされてリラコに助けを求めてたのは誰だったかな~」
「う、うるさい! あの時は本調子じゃなかっただけ! 満月ならいいけど、私はロウと違って夜になると強くなるわけじゃないからね!」
「そういうことにしといてやるよ。おっと、ロウの準備ができたらしい。いくぞ」
キトラ達は暗くなった森へと進んだ。
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