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ギルドに到着し別室でロウの言っていたルートをマスターのノブに伝えると、そこは運搬クエストで使われるルートだと判明した。
しかし、ノブは少々引っ掛かる点があるようだ。
「ここはつい最近新たに作っているルートでな。まだクエストボードで受けることができないんだ」
「じゃあ、どうやってこのルートを使ってたんですか?」
「直接俺に依頼がないかを聞きに来る常連の奴らにだけ教えてたのさ。足場が悪いからそんじょそこらの奴じゃ荷物を庇いながら戦うには難しいからな」
謎は解けないままではあるが、キトラはお腹が空いたため食事にすることにした。
クエストボードや受付がある場所の逆側が食堂になっている。
単に休憩するために使うこともできる。
ラビトラ、リラコ、ロウも食事を食べるようで、すでに杖から表に出てきて席に座っていた。キトラは杖から出る瞬間を見られてはいないだろうかと心配になったものの、周りの視線はそういうものとは違い、不思議な恰好をした人間を見る不審な目に近く、とりあえずは杖から出たことはバレていないと分かった。
別に杖から出るところ見られたからと言って、特段問題があるというわけでもない。単純にその奇妙で、不思議で、現実離れした状況を周りからつっこまれ説明をするのが面倒なだけだ。
キトラも席に座り食事を頼むためメニューに手を伸ばすと、すでに誰かが読んでいたのか年齢は三十手前くらいのお姉さんがやってきた。ふわりと香水の匂いが漂い、ロウはすぐれた嗅覚でその匂いを薔薇であると理解した。
「何になさいますか?」
「えーっと」
キトラは席に座ったばかりでまだメニューをちゃんと確認してはおらず、何にしようか考えていると、三人娘たちはそれぞれ思い思いに注文した。
ラビトラは大盛りのシーザーサラダ、リラコはステーキ、ロウはオムライス。
珍妙に思えるかもしれないが、召喚獣がこの姿になってからの食事というのは元の生態とは大きく変化している。本来、草食生物であった召喚獣もこの姿になると平然と肉を食べるし、その逆もある。
たまたまラビトラは野菜を頼んだが、それは野宿の時に自らがとって来た肉で腹をぱんぱんにしてしばらく肉の気分ではないからだ。リラコは肉を好んで食べる。パワーが出やすいらしい。ロウは卵料理を好む。ただ、熱いのが苦手なため少し待って冷ましてから食べる。
「俺は……パンとスープで」
「マスター、そんなんで力出るの?」
「お前だってサラダだろうが」
「私は大盛りだもん」
「そういう問題か?」
ほどなくして料理がやってくると、ロウ以外はすぐに食べ始めた。
キトラは周りを観察しつつ料理を食べている。これは癖みたいなものだ。いろんな場所へ行くと、時折財布をすられたり、変にちょっかいをかける男がいたり、何か隠していそうな人がいたりと、召喚獣たちの餌に繋がる可能性があるからだ。
それ以外にも観察というのは召喚師として重要な技術である。
使役した召喚獣は基本的に召喚師の指示を聞く。信頼関係あってこそ連携が取れるのだ。しかし、状況をしっかり把握せずに指示を出してしまえば、召喚獣が傷つくこともあるし、むやみに被害を増やしてしまう可能性もある。
観察は召喚師の心得なのだ。
「そういや、ロウが言ってたルートは普通のハンターは知らないならしい」
「そうか、やたら草が多く通りにくそうだと思ってたが、そういうことだったのか」
運搬クエストは荷物を背負ったり持ったりして移動することもあれば、台車を引っ張っていくこともある。今回ロウが見つけたルートは道がまだ整備されていないため、ハンターが背負って物を運ぶことになる。
普段武器を背負っているハンターは、この時は護衛としての役割となり、腰などに武器を装備しているハンターが荷物運びを担当するのだ。基本的に運搬クエストは二人以上で行われるのはこういった都合のためであると同時に、もしも襲われて盗まれた際の防衛と報告が必須なためだ。
「マスターのノブさんには今日のところはそのルートを使わないように言っておいた」
「私たちはいついくの?」
「夕方。暗くなり始めてからだな。ラビトラとリラコは俺と一緒についてこい。ロウは暗くなるまで潜伏してくれ。あとはわかるな」
「ああ、いつも通りだね」
キトラが国際召喚師としての試験を合格したのは五年前、十八歳のころだ。それまでは召喚師の訓練用召喚獣を訓練用の杖で使役していた。そのころはまだ召喚獣が少女になることはなかったが、試験に合格し時から、父親の遺言で「召喚師として認められたらこの杖を使え」と書いていた倉庫の銀の杖を使うようになった。召喚獣が少女になるようになったのはそれからだ。
それからほどなくして仲間にしたのがこの三人娘。
以前はもっと大所帯だったが、理由があり今はこの三人だけだ。
とはいえ、ほかの召喚獣たちもキトラとの契約が切れたわけではない。
「さぁ、飯も終わったしこれからどうするかな」
すると、受付嬢のライラがやってきてキトラに声をかけた。
「あの、キトラさん。お客さんが来てます」
「お客さん? 俺に会いに来る奴なんてろくなやつじゃ……」
そういいながら振り向くと、そこには少女が立っていた。
どこかで見たような、見たことないような、ふわふわとした曖昧な記憶の中からその少女を探そうとすると、少女は言った。
「キトラさん。以前はお世話になりました。私はスラーニ。教会で一年間修行をしてキトラさんにお礼をするためやってきました」
教会、その言葉でようやく思い出した。
スラーニは一年前、山賊に襲われた町で助けた少女だった。
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