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 ギルドの扉を直すために木材を調達しそれをリラコに運んでもらった。

 リラコ一人では不安なためラビトラにも同行してもらう。二人に任せたが内心キトラは不安だった。


 キトラが扉の直し方を考えていると大柄な男にちょっかいをかけられていた受付の女性がやってきた。


「あの、さっきはありがとうございます!」

「いや、いいんだ。扉、壊して悪かったな」

「いえ、こっちこそすみません。助けてくれたのに扉まで直してもらうことになっちゃって。ちょっとマスターの機嫌が悪かっただけでいつもは優しい人なんですよ」

「何かあったのか?」

「それがですね……」


 女性は近くにマスターがいないことを確認してから話始めた。


「最近、ハンターキラーがこの辺でも現れたんです」

「ハンターキラー?」

「クエストに行くハンターを狩る盗賊です。ハンターは武器や道具をたくさん持っていくこともありますから、武器や道具はそれなりのお金になります。それで、最近このギルドのハンターさんたちも被害を受けてて」

「そりゃあ大変だな」

「このままだと最悪ギルドを閉鎖しないといけません」


 ギルドは仲介料や訓練場の貸し出し、ハンター訓練、宿の提供、食事などからお金を集めて運営している。大きなギルドは国からの支援もあるが、ここは支援を受けてはいない。とはいえ、それなりにハンターはいるので仲介料も多く、特に困ることはなかった。


 しかし、最近現れたハンターキラーは狡猾で、クエストに向かう途中のハンターの移動する道を下調べして、事前に罠を仕掛け装備を強奪していく。日に日に被害件数は増えていき、クエストは中断。依頼主との信用問題にもつながるため、ギルドとしては早めに手を打っておきたいところなのだが、現状どうすればいいかわかっていない。


「怪我人でも出てるんですよ。素直に装備を渡せば何もしてこないらしいのですが、ハンターになる人は腕に自信のある人も多いです。だから、立ち向かった結果……」

「怪我をして帰ってくると」

「はい……」


 女性の悲しそうな表情を見ているとこのまま無下にするのもさすがに悪いと思ってしまう。それと同時に、しっかり被害が出ているのなら立派な悪党であるとわかる。なら、召喚獣たちの餌にしてしまおうと思ったキトラは言った。


「なぁ、ハンターキラーを倒す依頼を俺にしてくれないか」

「えっ、でも危険です! 屈強なハンターも被害にあってるんですよ」

「こう見えても俺、それなりに強いから。あと、仲間もいるしな」

「……いいんですか?」

「ああ、任せてくれ。俺はキトラ。召喚師として旅をしている。人助けなんてカッコいいことは言わない。しっかり報酬をくれれば仕事はするよ」

「じゃあ、そのようにマスターに伝えておきます」


 女性はギルドの奥へと行こうとしたが、戻ってきて言った。


「あの、私ライラです! 本当にありがとうございます」


 まるで太陽のような笑顔を見せ、ライラはマスターに伝えに言った。


「こっちが木材調達している間に可愛いこと雑談とはいい身分だねマスター」


 いつからそこにいたのか、すでにラビトラとリラコが戻ってきていた。

 ラビトラは腕を組み雑談に花を咲かせていたキトラへと冷たい視線を送っている。


「そうじゃないって。お前らにとってもいい話だ。エモノ、ほしいだろ」


――――


 その日の夜はギルドの宿に泊まらせてもらうことになった。

 前報酬としてタダで泊まることができた。

 金銭的には不自由ないとはいえ、いろんなところへとこれから移動するなら節約は大事だ。


「んで? どうすんのさ」


 ラビトラはベッドに横になった状態でキトラに問いかけた。

 キトラは窓際のテーブルで酒を飲みつつ答える。


「さぁな、正直何にも情報がない」

「なにそれ、そんなので大丈夫なの?」

「まぁ、なんとかなる」


 グラスに入れた酒をテーブルに置き、大きなあくびをすると、ベッドのほうへと移動した。


「寝るから杖に戻れよ」

「今日は私がベッドでねるもーん」

「じゃあ、俺はどこで寝るんだよ」

「別にどこでもいいんじゃないの。草の上でも寝れるんだし」

「あれも結構辛いんだぞ。ったく、ベッドで寝てもいいけど邪魔するなよ」


 キトラは指を鳴らすと部屋の明かりが消える。

 ラビトラがベッドのど真ん中を占領しているため、キトラはわずかに空いている端っこで横になりすぐに眠りについた。


「はぁ、召喚獣とは言えこっちも女なのに、一切気にしないなんてね」


 ラビトラは漏らすようにそういうと端によってキトラに寝る場所を少し譲った。

 

――――


 キトラは謎の寝苦しさで目を覚ました。体は窓のほうを向いており、窓の外はすでに明るくなっていることがわかる。今日はギルドへいきマスターと話して対策を立てる予定だ。

 

 準備をするため体を起こすとすると、全く体が動かない。


「逃がさない……このままつぶしちゃうよ~」


 頭の真後ろからラビトラの声が聞こえる。

 恐る恐る自分がどうなっているかを見ると、ラビトラにがっちりとホールドされており、しめつけの強さが徐々に強力になっていく。


「ちょ、おま! これ離せ!」

「一瞬だから……」

「寝ぼけてないで起きろ! あーもう仕方ない! リラコ、出て来い!」


 すぐそばに立てかけてある杖が光り出し、リラコが召喚される。

 しかし、リラコもまだ爆睡中だった。


「うっそだろ……。いや、マジで冗談じゃすまないって」

「さあ、いくよ~」

「いでででっ! 起きろぉーーーラビトラーーー!!!」


 ほどなくして目覚めたラビトラは何食わぬ顔で窓を開け、外からの心地よい風を浴び背伸びをしていた。


「やっぱベッドで寝るのがいいね」

「こっちは最悪だったけどな……」

「こんなかわいい子と一緒に寝られたんだからいいじゃん」

「殺されそうになってんだこっちは!」


 すると、窓から人影が素早く入ってきた。

 三人とも特に驚くことはない。

 入って来たのは三人目の召喚獣であるロウ。オオカミの召喚獣だ。

 耳は頭の上にあり、紺色のつんつんとした髪が特徴的で、服装は大きめのフード付きの服を着ており、お腹の辺りにはポケットがある。ロウはいつもそこに手を入れている。ショートパンツから生足が伸び、腰の下辺りからはふさふさの毛が生えている。


「朝からにぎやかだな。よく眠れたか?」

「最悪の目覚めだったけどな。で、そっちは何か情報得られたか?」


 ロウは夜の活動を得意とする。

 昼間よりも視覚、聴覚、嗅覚が敏感になり、力も速さも夜のほうが増すのだ。

 昨晩、ロウはキトラの指示で町の外でハンターキラーに繋がる情報がないかを捜索していた。


「森にいったら罠を仕掛けている人間がいるのを見た。全員黒いローブで顔まで隠していたがたぶん奴らがハンターキラーだろう」

「ほかに特徴は?」

「見た目の特徴は一切ない。黒一色だったからな。道は覚えてる」

「なら、ギルドのマスターに頼んでその道から行かせてもらおうか。みんな、ギルドに行くぞ」


 壁に立てかけてある杖を取り、光を放ち全員を杖の中へと戻した。

 毎度キトラは不思議に思うことがある。

 みんなは杖の中でどうなっているのだろうと。


 ただ、今はそんなことよりもハンターキラーを捕まえるのが先だ。

 朝飯も食べるため、キトラはまっすぐギルドへと向かった。

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