第6話琴線に触れた
「では次に進むわね……って中々話が先に進まないわね」
じろりとエレナーデに睨まれる二人。
ジュリアンとティアはソファーの上で姿勢を正す。
話が先に進まないのはジュリアンとティアが事あるごとにちょっかいを出し合うからだ。
(あまりふざけていると先生の雷が落ちるからそろそろ真面目に聞こう)
(そうですね。私も英雄を怒らせるほど肝っ玉は大きくありませんからね)
「……二人とも聞いてるからしら?」
「「はい! 聞いてます!!」」
ちょっとでも動こうとするとエレナーデの鋭い眼光が射貫く為、全く動くことができなかった。
「今から最も重要なことを言うわよ?」
「「はい! どうぞ!」」
「……はぁ、急に息ピッタリになっちゃって……まあいいわ」
やれやれと頭を振ると、キリっとした真面目な表情を作った。
「今回の依頼内容は姫は全く知らないわ。それどころか姫に勘付かれてもいけないの」
「「え? どういうことでしょうか?」」
「…………もう息を合わせなくていいわよ」
「わかった」
「わかりました♪」
「はあ……もう……」
せっかく作った真面目な表情がこうもあっさり崩されてしまう。Sランク冒険者で英雄であろうとも子供には敵わぬこともあるのだ。
「先生、なんで姫に勘付かれちゃいけないの?」
「それは姫にもプライドがあるからよ」
「ああ、勇者特有のアレですね」
「なるほど」
勇者は崇められる存在となった現在。それはそれは大事に育てられたためか、ちょっとアレな性格に育つのである。
傲慢で自信家で見栄っ張りで意地っ張り。そのくせ実力はあるのだから誰も何も言えないのである。
「守ってもらわなくても自分で何とかできるって考えてるんですね」
「まあ、実際にその実力はあるのよね」
「元勇者である姫はどれくらいの強さなのか先生は知ってる?」
「姫の実力は知らないけど、前代の勇者なら知ってるわ。正直言ってかなり強いわよ。さすが英雄の子孫ってところかしら。神の領域には達してないものの、それに準ずる実力はあったわね」
「それはすごいな……」
「先代というと50年前に亡くなってますよね? それからしばらく勇者は現れなかったから……え、ということはエレナーデさんって──」
言い終わる前に背後に回ったエレナーデがティアのこめかみをグリグリとしだした。
「何か言ったかしら?」
「いたたたたたたた!!! 何も言ってないですー!!」
「……琴線に触れちゃったね」
その後は何も言わずにエレナーデの説明を聞いていた。
ジュリアンの任務内容は以下の通り。
10日後の入学式までに女性のいろはをティアから教わること。
女学院の寮に住むこと。(姫も同じ寮)
姫と友達になること。(一緒にいる時間が長ければ長いほどいい)
エグソイア教団員をすべて捕えること。(もし無理なら殺しても可)
女性恐怖症を治すこと。
絶対に男だとばれないこと。
特に男だとバレれば学院で大騒ぎになってしまう。
「依頼をこなせなくなることが一番ダメだから気を付けてね」
エレナーデは念には念を込めてそう言った。
「もしバレたら僕はどうなるんだろう?」
「きっと簀巻きにされたあとに魔獣の餌となるでしょうね」
ジュリアンの呟きにティアが答える。
(本当にそうなりそうだから怖ろしい)
ジュリアンは残り10日間、必死に女性について学ぼうと心に誓うのだった。
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