占い師

山田貴文

占い師

 よく当たると評判の占い師に見てもらった。小さなビルの一室。


 占い師は大企業の役職者に見える初老の男性だった。彼は私の生年月日を聞くと大きな図鑑のような物を参照しつつ、手元のシートに何かを書いていった。それを見ても、私にはさっぱり意味がわからない。


 やがて顔を上げた占い師は私に言った。「どのようなことをお知りになりたいですか?」


「まだ私には結婚のチャンスがあるのでしょうか?」 離婚歴のある私にとって、それはもっとも関心のあるテーマだった。残りの人生を一人で過ごすか、それとも新しい伴侶を得られるのか。


「占い以前にご年齢から言って、かなり厳しいのはあなたもおわかりでしょう。会社の定年が近いあなたと若い女性が結ばれるのは至難の業でしょうしね」


 噂には聞いていたが、はっきり物を言う人だ。私は質問を変えてみた。


「では、もう自分の子供を持つことは絶望的なのでしょうか?」 


「これも占い以前にほとんど不可能ですよね。あなたの好みに合うよほど奇特な女性がいて、かなり年の差があるあなたと結婚して子供を産むとしましょう。普通に考えて、あなたは先に亡くなるわけですが、下手すると、まだ子供にお金がかかるうちに奥様は一人になるかもしれない。そんなリスクを取る女性がいるでしょうか?」


 それはその通りなんだけど、そこまで言わなくても。次の質問だ。


「定年後に今と同じ生活水準で暮らす方法はないでしょうか?」


「占い以前に現実をしっかり見つめる必要があります。定年後に今の会社で継続雇用されると、嘱託契約で給与は六割ぐらいになりますよね。さらにその五年後はその雇用も終わり、年金生活に入ります。収入はさらに減るわけです。それをもとに今から生活設計を考えなくてはいけません」


 あたりまえのことばかり言いやがって。ついに私はぶち切れた。


「占い以前を連発されていますけど。私は占いの結果を聞きに来ているのであって、占い以前の話にお金を払っているのではありません。占いはどうだったのですか?それを教えてください」


 手元のシートをじっと見ていた占い師は、顔を上げて言った。


「本当に知りたいですか?」


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占い師 山田貴文 @Moonlightsy358

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