借金地獄から逃れる為にこの世を去った俺は、人格転移した奴隷少女の願いを叶える。

Louis Land

第1話 逃亡

「なぁお前、そろそろ金返してくれよ」


 落ち着いたジャズが流れる小さな喫茶店の角席で俺と向かい合って座り、シワひとつ無い綺麗なスーツと若干の呆れ顔でそう言うこいつは、幼稚園以来の親友だ。気さくで明るく、よく笑う。学校では活発なグループに属しながらも、控えめな俺と関わってくれていた。


 コミュニケーションが苦手で弱気な俺は、こいつが居なかったらイジメの対象になっていた可能性だってある。地味でも平和な学生生活を送れたのは、こいつのお陰だ。


 こいつは有名な国立大学を出て一流企業に就職し、決してイケメンとまでは言えないものの、25歳にして超美人な奥さんを持っている、いわゆる勝ち組だ。


 一方俺は、3歳の頃にダメ親父の不倫が原因で親が離婚し、ダメ親父のもとで暮らしていた。


 ダメ親父は俺に家事を押し付けて、たまに意味もなく殴られる事もあった。


「法律が無きゃ邪魔なお前を殺してる」


 そんな事を言われた日には涙が止まらず、死んでやろうかと思ったほどだ。


 しかし死ぬ勇気も無い俺は、少しでも早く独り立ちする為に奨学金を借りて地方の公立大学へ入学した。


 もちろん俺の事だから煌びやかな大学生活などある訳もなく、しかしダメ親父の居ない素朴でも幸せな日々を送った。


 大学卒業後、就活に挫折した俺はフリーターになって一人暮らしを始め、出費がかさむような趣味も無かったため、貧しいながらも最低限の生活を送れていた。


 そんな生活が数ヶ月続いた頃、知人から地下マンションの裏カジノを紹介され、その日に一万円が百万円に変わった。


 その日から俺の人生が狂い始めた。


 一度味わった勝利の味が忘れられずに、何度も何度も裏カジノへと足を運んで一ヶ月が経った頃、俺は一千万円以上も勝っていた。


 それで奨学金を完済し、フリーターもやめて酒とタバコとカジノに心酔した。


 その頃の俺は、カジノで生計を立てられるのだとをしていた。


 それからは少しずつ負けが続き、気が付けば儲けが0を下回っていたが、それでも俺は運のせいだと信じて止まず、また勝てば良いのだと考えてカジノに通い続けた。


 昼に起きて酒を飲み、タバコを吸ってカジノへ向かい、毎日少しずつ負けが続く。もちろんたまには勝つ日もあったが、そんな生活が2年ほど続いた頃、俺は総じて一千万円以上も負けていた。


 それらの元手は友人や知人、消費者金融などからのもので、収入のない俺は合計で二千万円以上の借金を抱えていた。


 今思えば、イカサマを使って最初は大きく勝たせて依存させ、その後で搾り取ると言う単純明快な手口だったのに、大勝の快感がその思考を消し去ってしまっていた。


 こうして借金地獄に陥った俺は周りからの信頼を失い、脅迫まがいの取立てに怯えながらも相変わらずカジノに依存し続けていた。


「ごめん。今月中には必ず返すよ」


「はぁ、そう言って帰ってきた事が一度もないんだ。いい加減にしてくれよ」


「……ホントにごめん」


 俺がいつも通りの空っぽの謝罪をすると、親友は深くため息をついて店を後にし、俺は一人、ブラックコーヒーの水面に映る自分の顔を見つめて深く目を瞑った。


 俺、何で生きてんだろう。


 生きてたって良い事なんか一つも無いし、むしろ誰かに迷惑を掛けるだけ。もう彼だって親友とは呼ばれたく無いだろうし、友達だった人から来る連絡は全て返金の催促ばかり。


 俺が悪い事くらい分かってるけど、金が無きゃ生きていけねぇ世界がおかしいんだ。

 当たり前のように働き、見ず知らずの資本家たちに人生を捧げ、小さな幸せを見つけながら生きていく……。そんなの俺には無理だ。自分が損して誰かが裕福になるなんておかしな話じゃないか。…………なんて、何もできねぇクセにプライドだけは一丁前の正に社会不適合者だ……。


〈法律が無きゃ邪魔なお前を殺してる〉


 じゃあ何で俺なんか産んだんだよ……!

 お前ら両親のエゴで産んだんなら最後まで責任取れよ……!

 何で俺の意思で生まれて無いのに働かなきゃならねぇんだよ……!

 何でこんなにも苦しい思いをしなきゃならねぇんだ……!!

 こんな世界…………!!


「お客様、大丈夫ですか?」


 若々しい女性店員の優しい声に顔を上げると、俺の頬を涙が伝った。


「えぇ、大丈夫です」


 これ以上、誰かに迷惑を掛けないように精一杯の笑顔を作って席を立った。

 俺の精神は、食い荒らされた木の如く隙間だらけで、そよ風にさえ折れてしまう寸前だった。


「そんな……。泣いているじゃないですか。私で良ければ相談に乗ります」


「いえ、本当に大丈夫です。お気遣いありがとうございます。では、を急ぎますので」


「ちょっと、待って下さい!」


 そう呼び止めてくれる声を背に、急ぐようにして店を出る。

 雲一つ無く晴れ渡る空を見上げると、眩しい陽の光と共に希望が差し込んで来た。


 そうか、簡単な話じゃないか。この地獄から抜け出す事なんて。


 先程までの涙は何処へやら、俺は爽やかな顔をしてホームセンターへ向かい、なるべく頑丈な網とロープを買った。


 それから海崖へ向かい、持てるくらいの重さの岩を見つけて網で包み、ロープで俺の体と結び付ける。


 そして岩を抱えた俺は、何の躊躇ためらいも無く海へ飛び込んだ。


 地面に打ち付けられたかのような衝撃を背に受けた途端、一瞬で肺の空気が吐き出され、岩と共にどんどんと海の底へと沈み行く中、海水に肺を侵される苦しみさえもが救済に思えてならなかった。


 これで良かったんだ。


 お金を貸してくれた人たち、返せなくて本当にごめんなさい。

 俺なんかが産まれて来てごめんなさい。

 この世界に俺は似合いません。

 どうかこれ以上の迷惑を掛けない事を償いとさせてください。


 来世があるとするのなら、せめて親の愛を受けられますように………………。

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借金地獄から逃れる為にこの世を去った俺は、人格転移した奴隷少女の願いを叶える。 Louis Land @Hmuuupoz

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