第72話 『厄介事』
周りでは海賊船とこの船に乗っている魔術師たちが魔法の打ち合いをしているがなんとも分が悪い。一隻に対し周りを囲まれているため火力も分散してしまっている。
そして手薄になったところに海賊船が急接近し梯子が掛けられ――そこからはあっという間だった。
空いた場所から次々と乗り込まれ手薄になれば遠くから魔法が打たれる。海のモンスターしか想定していないのか、いつの間にかこの船は海賊に占領されてしまった。
この手際のよさ、ずいぶん前から計画していたのかもしれない。
「ねぇ、レニ君……」
「ん~?」
「これからどうなるの?」
「だいたい人質とって金品要求して終わりじゃないのかなぁ」
海賊は乗客を甲板に集め女性や子供を人質にとっている。俺たちは足早く人質側に入り込み大人しくしてたため、害はないと判断されていた。
「いたか?」
「いや、どこにも見当たらない」
「どこかに隠れてるな……おい、そこの女を連れてこい」
海賊のリーダーと思わしき人間は人質から女性を選ぶと男たちの前で剣を抜いた。
「この船に王女が乗っているはずだ、そいつを差し出さねばこの女の命はないぞ」
「ひっ……た、助けて……」
「や、やめろ! そのお方は隣国の貴族だぞ!」
「なら早く王女をだせ」
「いったいなんのことかわからん! 金ならいくらでも出すからそのお方を解放しろ!」
「レニ君……あの人を助けないと……」
リリアは焦りながら俺に声をかけてくる。だが俺の頭はいつになく冷静だった――今の俺たちは無害なガキ、ここで動けば海賊たちに敵と認識され攻撃を受ける。俺だけであれば問題はないがあのときのように何が起こるかわからない。
――ならば、
「いいのか? 助けなくて」
「俺たちには関係ないからな」
「クゥー……」
「レニ君……」
そして女性に剣が振り下ろされそうになったそのとき、後ろから慌てたように女性がでてきた。
「お待ちなさい!」
「お、お嬢様、今出ていかれては……」
成人したばかりくらいの女性で後ろでは付き人のように頼りなさそうなお爺さんがついている。
「おやおや、お嬢さんが何用で?」
「あなたたちの目的は私でしょう、その方を離しなさい」
「私たちの目的はサーニャ姫、あなたが本物であるのならば証拠を持っているはず」
女性はペンダントをとりだし男に見せる。
「ほ~これは間違いなく王家の紋章……まさか本物だったとは」
「これでわかったでしょ、早くその方を解放しなさい」
「いいでしょう、そのかわりあなたには来てもらいます」
サーニャ姫って砂漠の王子と婚約してたっていう……なんでこんなところに……。
「お、お嬢様なりませぬ!」
「ごめんなさい、あなたにはいつも迷惑をかけるわね」
海賊たちはサーニャ姫を連れ出すとすぐに引いていく。船内は大騒ぎになっていたが、姫がさらわれたことというより貴族たちが自分たちの安全を我先にと騒いでいる。
付き人はお爺さん一人だけだったのか付近は俺たち以外に誰もいなかった。
「レニ君、助けにいかないと」
「俺たちの目的は水の都だ。何事もなければそれでいい」
「まぁ僕はついていくだけだからどうするかはまかせるよ。だけど後々厄介になることも考えれば、今のうちに恩を売っておくのもありなんじゃないかい」
ふむ、確かに水の都についてから騒がれちゃゆっくりもできないな。いつも面倒そうにして口をださないミントが珍しくいいことをいうとは……何か企んでるのか?
「……仕方ない、助けにいくか」
「ほんと!?」
「とりあえず話を聞くから、リリアは人に見えないところで追跡用にクマを出しておいてくれ。念のためルークもついていけ」
「う、うん。わかった!」
「クゥ」
リリアとルークが走っていくと俺は項垂れているお爺さんに話をかける。
「爺さん、あの姫様を助けにいってやる。そのかわりなんでこんなところにあんたと姫様だけいるのか教えてくれ」
「き、君は……いや、もう無理じゃ…………」
「諦めるなら別にいいけどさ、俺だって好きでいこうってわけじゃないんだ」
お爺さんは黙っていたが俺も面倒になり立ち去ろうとしたとき、お爺さんはポツリと呟いた。
「……本当に、助けてくれるのか」
「姫様がまだ生きてればだがな」
「た、頼む……どうかお嬢様を救ってくれ」
「その前にまずどうして一緒にいるのがあんただけなのか、それを聞いてからだ」
「お嬢様はもうすぐ結婚予定だった……それが突然破棄され、心を痛めた王様とお妃様はすぐに別の婚約相手を探したのじゃが、お嬢様はしばらく静養したいと私と二人だけで国を離れていたんじゃ」
「さすがに一国の王女を爺さん一人に任せるのもどうかと思うが」
「お嬢様のどうしてもという希望でな……儂は昔からお嬢様の世話役じゃから、気が楽という意味で選ばれたのかもしれん……」
「なるほどなぁ、ところで姫様が狙われた理由とか心当たりはある?」
「わからん……婚約も破棄され、今や何も権限など持ってはおらぬというのに……」
あの海賊たちは金品もとらず姫様だけをさらっていった――何かしらのメリットがなければそんな危険を冒してまでやらないと思うし……あとはまぁ直接聞いてみるしかないか。
「準備できたよー!」
「クゥ~」
「クマクマー」
「げッ!? あいつはこの前の…………」
「クマ? クマー!」
リリアたちが戻ってくるなり、ルークの上に乗ったクマはミントがいるであろう場所を指すとリリアに教えていた。
「うん、大丈夫。あそこにいるのは仲間だから」
「クマクマー」
「そ、そこは僕の席だからな!」
「よし、全員揃ったか」
「ほ、本当に君たちだけで大丈夫なのか……」
「爺さん、すまないが小さい船を一つ借りてきてもらえないか。それとなんでもいいからあの子が持っていたものを貸してくれ」
さすがに姫様の付き人の願いを聞かないわけにもいかないだろうから、予備の船の一つくらいもらえるだろう。案の定しばらくしてお爺さんが戻ってくると、木で作られた小型船を一つもらうことができた。
「それと、これはお嬢様が小さい頃から大事にしていた髪留めです」
「ちょっと借りるぞ。クマ、これについた魔力を追えるか?」
「クマ―…………クマッ!」
大丈夫なようだな、俺は爺さんに髪留めを返すとボートに乗り込む。
「ミント、このボート魔法で動かせるか?」
「これくらい余裕さ」
ミントはお爺さんしかいないからか姿を現しボートの一番前に乗った。
「こ、これは妖精……?」
「クマも案内よろしくね!」
「クマ!」
「あ、あの……お連れの従魔はどうなされるので?」
「あぁそれなら大丈夫。ルーク、待たせたな」
「クゥ!」
ルークは翼を大きく広げ何度か動かすと軽く走り出し飛び上がる。お爺さんはそれを口を開けたまま見ていた。
「さて、それじゃ出発だ」
「れっつごー!」
「ドラゴンに妖精…………あの少年たちは何者なんじゃ……」
俺たちは呆気にとられたお爺さんに見送られ海賊たちの船を追った。
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