第71話 『船旅』

「わぁ~これが海…………ねぇあの大きいのは何だろう!?」


「あれは船といって、あれに乗って海の上を移動するんだ」


「へ~海ってすごく広いんだね! ずっとあっちまで何もみえないもんなぁ」


「砂漠以上に広いかもしれないな。どれ、俺は水の都までの船がないか調べてくるよ」


「もう少し海の近くに行っていい?」


「あぁいいぞ、せっかくだしルークも一緒にいってこい」


「クゥー!」



 リリアとルークは初めてというのもあり砂浜で波を相手に大はしゃぎだ。ドラゴンと少女が砂浜できゃっきゃしてるのもこの世界じゃあの二人くらいだろう。



「ミントも混ざってきていいんだぞ」


「冗談でしょ、僕はもう子供じゃないんだ。早く船を探しにいったら?」


「そうか? じゃあ俺といくか」


「一応言っておくけど海が嫌いなわけじゃないからね。今は船を探すことが先決だって言ってるんだ」


「わかってる、落ち着いたらゆっくり休もう」



 船着き場までいくと大小様々な船があり、商人や漁師が荷物を運んでいた。



「あの~すいません」


「ん、なんだ?」


「俺たち、水の都まで行きたいんですけど船って出てます?」


「たちって、坊主一人じゃないのか」



 ミントのやつ、いつの間にか消えやがったな……まぁそのほうが楽でいいか。



「向こうに旅の連れがいるんです」


「そういうことか、水の都ならうちの船がこれから向かうところだが乗っていくか?」


「本当ですか! あの、俺と同じくらいの女の子と…………もっと小さい子と従魔の四人なんですが、料金ってどのくらいになります?」


「それだと大人三人分の金額になるがどうする? うちの船はでかいから少し高いが、その分安全は保証するぞ」


「それじゃあお願いします」


「わかった、もうすぐ出航だからお連れさんを呼んできてくれ。あっちの奥にあるでかいやつだ」



 あれは豪華客船くらいでかいな……。ちょっと見栄を張りすぎたか? まぁ安全を買ったと思えばいいか。急いでリリアとルークを呼び船へと乗り込む。


 船員に話を聞くとこの船は色々な場所を寄ってきており、ここで補給を最後に水の都へといくとのことだった。船内は部屋を割り当てられており、ほかにもたくさんの客が乗っている。俺たちは従魔もいるため全員で大きめの一室を案内された。



「わ~広いお部屋~」


「クゥー!」


「ここなら快適に過ごせそうだね」


「混んでて都合がつかなくてな……別室は無理だった、すまん」


「前にも一緒に寝たことあるんだしこれくらい平気だよ! それにほら、お着換え用の部屋まであるしお風呂だってついてる!」



 リリアはルークと一緒に部屋中を調べ回っている。前ってそれ……ドラゴンの巣穴で寝たときのことか。一応屋外(?)だったから俺の中ではセーフだったんだが……。

 年頃の女性と同じ部屋ってのは色々と問題がありそうだが、まぁルークとミントがいるし大丈夫だろう。



「荷物を置いたら甲板に出てみるか。たぶん、また違った景色が見られるぞ」


「本当!? 早くいこう!」


「僕もせっかくだから見に行くよ。姿は消しておくけど近くにいるからね」



 テンションが上がりっぱなしのリリアと内心行きたいのかそわそわしてるミントを連れ、俺たちは甲板へと出る。混み合ってはいたが、少し待っていると順番なのか徐々に譲ってもらい一番前へと着く。



「お~……」



 映画なんかで船からの映像を見たことはあったが実際に見たのは初めてだ。辺り一面何もなく海だけが広がり、空では鳥たちが自由に飛びまわっていた。



「「…………綺麗だなぁ……あっ」」



 同時に同じことを言ってしまったリリアは軽くはにかむような笑顔をみせた。

 次の人たちが待っているため長くはいられないがなんとも言えない気持ちだ――たぶんこれが心を打たれるってやつかもしれない。ルークも器用に前足を手すりに乗せ海を眺めていた。



「よし、順番もあるしそろそろ移動しよう」


「うん!」



 後ろに戻り、またしばらく海を眺めているとミントの声がする。



「ねぇそろそろご飯にしない?」


「そういえばとっくに昼を過ぎてたな」


「そういえばお昼ご飯まだだったね。もう驚いてばっかりでお腹空いてることも忘れちゃってたよ~」


「クゥ~」


「よし、食堂もあるみたいだしいってみよう」



 食堂にいくと空いており人もちらほら見える程度だ。ルークもいるため部屋で食べないといけないかと思っていたが、席さえ空いてれば従魔も一緒に食べていいとのこと。

 さすが高いだけあってその手の客にも気配りができてるってわけか。


 メニューをいくつか頼み席で待っていると料理が運ばれてくる。ミントも料理の前では人目につこうが関係ないのか姿を現していた。



「うん、美味しいけど君が作ったほどの驚きはなかったかな」


「この料理も十分うまいし味覚の違いかもしれないぞ」


「私も美味しいとは思うけど……レニ君が作ったのとはちょっと違う気がするなぁ」


「ククゥ~」



 なぜか全員、俺が作った料理を絶賛するがここの料理が決してまずいわけじゃない。たぶん味覚の違いだろう。なんだかんだ言いながらも料理を食べていると、何やら慌ただしくなり食堂内に声が響く。



「か、海賊だ! 魔法が使えるものは手伝ってくれ!」


「海賊? レニ君、なんか大変みたいだし私たちもいったほうが」


「リリア、口にソースついてるよ」


「えっ? あ、ありがとう」


「ねぇデザートはないの?」


「色々あったからあとで注文してみるか」


「あ、私も食べたい――ってそれより海賊だって!」


「あ、リリアとルークは初海賊だったな、せっかくだしあとで見に行くか」


「それは確かに……って、そうじゃなくて! みんな慌ててるしきっと悪い人たちなんでしょ!?」


「そうだな、金品財宝を奪ったり探しにいったり、強盗と冒険家が混ざったような忙しい連中だ」



 心配するリリアをよそに、ミントは俺の言葉に付け足した。



「まぁこの船がダメならダメでなんとかするしかないよ。今は食事中、ちゃんと食べなきゃ」


「クゥクゥ」



 俺たちは食事が終わると念のため荷物を取りにいったん部屋へ戻った。甲板に出ると案の定というか予想通りというか……数隻の船が周りを囲み船員と客が慌ただしくいい争っていた。

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