第16話 『報告②』

「此度のこと、国を代表し感謝する。過去の儂の甘さが招いた結果とは言え……君たちには大変な思いをさせた」


「頭をあげてください! もとはと言えば俺がした約束ですし、それにまだ完全に解決したわけじゃありません」



 王様が一般人に頭を下げるなんて知られたら一大事だ。もうこれ以上の騒ぎは勘弁願いたい。



「君たちに提案がある。今回の件に関して正式に功績を称え報酬を与えたいと思うのだが何か欲しいものはあるか?」



 前世だったらいくらでもお金がほしかったが……この世界にきて、これから・・・・を考えたらそんなにいらないかな。

 もらいすぎても邪魔になりそうだし、あとは貴族とか? なったらそれこそ面倒だ。



「うーん、今のところないですね。それにちゃんと問題を解決してからじゃないと不安ですし」


「私も特には……」


「王様、こいつらだって無事に終われば何か思いつくかもしれん。急かさなくてもいいんじゃないか」


「ふむ、確かにのぅ……ならばお主たちが出ている間にこちらで考えておこうかの」


「それはいいわね。でも変なものにならないよう、私たちと相談しましょうか」


「わかっとるわかっとる。勲章なんぞ子供がもらってもいらんだろうからのぅ……二人の像でも立てるか? いっそお主ら四人の英雄として歴史にでも」



 そういって王様たちは笑い出した。なんだこの王様キングジョーク……洒落にならんわ。



「あの、それよりドラゴンの居場所ってわかりませんか?」


「あぁそれなら安心しろ。この城から遠方の山脈に住んでいる」


「馬車だとふもとまで三日くらいよ、約束の日までは余裕があるから安心して」



 いくら約束まで時間があるといってもドラゴンは気が気じゃないはず。それに早く解決したとなれば許してもらえる可能性も高い――あくまでそんな気がするだけだが。



「少しでも早いほうがいいと思うので、すぐに出ることは可能でしょうか?」


「馬車を手配すれば明日にでも出発できるわ、ただ……」



 ソフィアさんはタイラーさんを見るが、タイラーさんは首を横に振った。



「すまんが俺たちは裏の対応で動くことができん。ここで逃がしたりしたらお前たちの苦労も無駄になってしまうからな」


「山のふもとまでは馬車と護衛をつけられるけど、そこから先はドラゴンの縄張りだから入れないのよ」


「それじゃあ行けるとこまで馬車をお願いしてあとは歩きます」


「わかったわ。モンスターはその子の気配で襲ってくることはないだろうけど、注意は怠らないようにね」


「あの辺りはすでに雪が降り始めとる頃じゃ、物資はこちらで準備をしよう」



 こうして翌日、俺たちは城を発つとドラゴンのいる山へと向かった。




 * * * * * * * * * * * *



「よし、そろそろ休憩にしよう」


「ふぅ疲れた~……あなたはまだまだ元気そうね」


「クゥ!」



 朝から小まめな休憩を挟みつつ登ること数時間――雪は軽く積もっていたが、ところどころ地面が見えていた。これくらいならば雪崩の心配はない、それに天気がいいのも救いだ。非常時用にもらった回復薬と食料は、ドラゴンの子供につけた鞄に詰めてある。

 そして寒さ対策で外装を受け取っていたのだがこれがすごいのなんの。



「寒さ避けになるっていってたけどここまで寒くないとは」


「うん! ちょっと暑くなってきちゃった」



 リリアは白い息を吐きつつ服をパタパタする。そして何かに気づくとフードをはずした。



「わ~綺麗……こんなに登ってきたんだ」 


「絶景だな。俺たちがいた村と似てるようで全然違う」


「レニ君は、これが終わったらどうする?」


「そうだなぁ俺は――」



 突如辺りが暗くなり、強風が吹き荒れ砂埃を巻き上げると何かが地面を揺らす。



「きゃッ!」


「リリア!!」



 すぐにリリアの手を掴み引き寄せ自分の体を風除けにする。



「クゥ! クゥ!」



 ゆっくり目を開けるとそこには巨大な翼を広げドラゴンがこちらを見下ろしていた。

 あのときと同じドラゴンの眼……だがそこには以前あった殺気はなかった。


【ものまねし:状態(ドラゴン)】



『懐かしい気配を感じて来てみれば…………』


「や、やぁ元気だった?」


「クルルルル」



 子供のドラゴンは元気に俺とドラゴンの間を走り回る。




『孵ったのか』


「すまん、卵のまま返したかったんだけど色々あって……」


『ふむ、あとで話を聞こう。それよりもどうやって従えた?』


「それも含めて話せば長くなるというか……」


「レ、レニ君ほんとに話せるんだ」


『むっ? お主は話せぬのか』


「な、なあリリアはこのドラゴンが言ってることわかる?」


「う~ん、わかんないなぁ」


『やはりお主が変わってるのか……おい、ここで話すのも面倒だ。我の住処へこい』


「俺たち登ってきたばかりなんだ。少し休ませてくれないか」


『飛べぬのか? あの小さき者とは違うか……仕方がない。乗れ』



 そういうとドラゴンは身を屈め背中に乗るように促す。



「いいのか。リリア、ドラゴンが住処に連れてってくれるから乗れってさ」


「私たち食べられちゃうの!?」


「違う違う、ゆっくり話がしたいから来いって。ほら待ってくれてるから乗るよ」


「う、うん」


『お前はついてこれるな?』


「クゥ!!」



 子供が翼を出し羽ばたく。問題なく空を飛び回ってるのをみるとドラゴンは大きな翼を動かし空を飛んだ。



「うぉぉおおおおお! リリアしっかり掴まってろよ!」


「うん! あ、王都があんなにちっちゃーい!」


「クゥー!」



 二頭のドラゴンと一緒に空の散歩を楽しんでいるとあっという間に山奥にある洞窟に着いた。



『なんだ、きょろきょろと』


「いや、ドラゴンといえば宝とか宝石を溜めておくって話があってね」



 ゲームだと、ドラゴンを倒せば伝説の宝とかを入手することが多かったからもしかしてと思ったんだが……さすがにあるわけないか。



『なんだその話は。宝なぞ人間が勝手に価値を決めただけで――そういえば面白いものがあるな』


「なんだって!?」


『いや、そんなことはどうでもいい。話を聞かせろ』


「じゃあ話を聞いたらその宝を見せてくれ!」


『宝というほどでもないが……いいだろう』



 俺は隠すことなく王都であったことを話した。変に嘘をつきドラゴンの怒りを買うより、誠心誠意で話せばきっとわかってもらえるはずだ。決して宝につられたわけではない(早く見たいけど)。

 説明してる間、ドラゴンの子供は暇になったのかリリアにちょっかいを出し二人で仲良く遊んでいる。話を終えるとドラゴンは大きく頭をあげた。



『よし、今からその者らを殺しにいくとしよう』


「ちょ、待って待って、落ち着いて!」


『何を慌てている? お主が見つけてくれたのだ、借りは返さねばな。安心しろ、約束だ。村には手を出さん』


「いやそうじゃなくって!」


『なんだと言うのだ?』


「ほらあれだよ……えーっと…………そう! 人の国でも法律ってのがあってさ、そいつらもちゃんと裁かれるから!」



 その言葉を聞きドラゴンはジッとこちらを見つめ――そしてゆっくりと語りかけるように口を開いた。



『なぜ我が弱き者に手を出され、弱き者に裁きを任せねばならぬ?』


「それは法律で」


『そんなものは人間お前たちが勝手に決めたものだろう? なぜ我が従わねばならぬのだ』



 本当にその通り、だけどそれをするとどうなるかを俺は知っている。



「あんたの気持ちはわかる。だけど、もし関係ない人が犠牲になれば、人はまた復讐にやってくる」


『ならばその者らだけを殺せば問題なかろう?』



 ごもっとも。本当にその通りなんだが、一つだけ人間の厄介なところをわかっていない。



「最初はそれでいいかもしれない、だけど……後から人はこう思うんだ。『あんな危険なモンスターは退治するべきだ』と」


『ふむ、それこそ弱き者たちの考えそうなことよ。ならば最初からあの辺りを根絶やしにするか』


「だから待てって! そんなことしたってほかのところから何度でもやってくる! それに人間だって黙ってやられはしない、また子供がさらわれたらどうするんだ!」



 ドラゴンはその言葉を聞くと怒りをあらわに牙を剥いた。そんな俺たちを意図してか、それとも意図せずなのかわからないが、リリアたちの楽しそうな声が聞こえてくる。



「クゥクゥ!」


「きゃっ! やったなー……こらー!!」


「クルルルル!」



 その姿をドラゴンは黙って見守っていた。そう、俺だってこんな平和が続けばいいと思ってる。だけどそれを壊そうとする人間がいるのも確かだ。



「今回の件に関しては完全にこちらが悪い。今後はもっと厳しいルールを作るから、ここはなんとか譲ってもらえないか」


『…………ならば王に合わせろ。お主が間を持てば話すことも可能だろう』


「えっ、まぁそうだけどいきなりは」


『ほらいくぞ、お前たちもこい』


「クゥ? クゥー」


「待ってー、どこ行くの……えっ、飛ぶって? ドラゴンさんまた乗せてくれるんだ、ありがとう!」


「あ、リリアちょっと待っ」



 リリアはすっかり慣れたのか、ドラゴンの背に乗り俺に手招きしている。

 乗ったら王都に行っちゃうんだよ、王都直行便なんだよそれ。さすがに王様だって予定ってものがあるだろうからまずは相談してからじゃないと――。



『グズグズするな。まったく手のかかるヤツだ』


「うわッ!?」


『よし、しっかり掴まってろよ』


「まっ……まじかああああぁぁぁ!!」



 ドラゴンはフードに牙をかけると俺はゲームの景品のように宙づりで運ばれていった。

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