第17話 『報告③』
「で、いったい何をどうしたらこうなるんだ?」
「あ、タイラーさんこんにちはー」
「タイラーさぁぁあああん! 遅いですよぉーーー!!」
俺たちは城に問題なく到着した……そう、到着したのはいい。街に降りるなんて論外だし中庭も出てきた衛兵たちがいっぱいで無理、ということで屋上に降りたんだが……。
降りるなり衛兵がどんどん押し寄せてくる。そしてドラゴンが面白がって俺を宙づりにしたまま降ろさなかったのだ。
『お、少しはできそうな人間がでてきたな』
「できそうって……彼はS級の冒険者だぞ」
『お主たちの基準などしらん』
「とりあえず、いい加減に降ろし……って、痛ったぁ! うぅぅ……もう少し丁寧に頼むよ」
『なかなかの魔力の持ち主もいるようだな』
ドラゴンが衛兵たちの後ろを見ると、後ろの人物に気づいた衛兵たちはすぐに道を開けた。奥からソフィアさんと王様がこちらに歩いてくる。
「武器を降ろせ、全員下がっててよい」
「まったく……あなたたちはいつも楽しませてくれるわね」
「えへへへ、楽しかったです!」
そういうとリリアはドラゴンの背から降りる。たぶんだが……ソフィアさんは楽しそうだねと言ったわけじゃないと思うぞ。
「儂はこの国の王、ヴェザールと申す。此度の件、幾年かの約束を守れず弁解の余地もない……この通りだ」
王様が言い終えると、タイラーさんとソフィアさんも隣に並び三人が膝をつき頭を下げる。
『こ奴らは頭を下げれば済むと思っておるのか』
「そんなわけないだろ、一国の王と英雄二人が頭を下げてるんだ」
『ふん、面倒なものだな。我の言葉を伝えよ』
「ちょっと待ってくれ。王様、ドラゴンの言葉を伝えます。誤解のないようそのまま伝えますが、万が一無礼があったとしてもお許しください」
「構わぬ。今更儂らにできることなどないのだ」
そして俺は二人の通訳として間に立った。
『弱き王よ、これで一度ならず二度も助けられたわけだな』
「……返す言葉もない」
『本来であれば皆殺しにしてるところだが今回は我も助けられた側である。特別だ、この者たちに免じて許そう』
「ま、まことか!」
『だが次も同じことが起きたらどうするつもりだ。何か考えておるのか?』
「はい……この国でも屈指の実力者、ソフィアとタイラーを筆頭に」
そのとき、ドラゴンは咆哮をあげる。その声に衛兵たちは怯えソフィアさんとタイラーさんは王の前に立ち臨戦態勢をとった。
『ふん、この程度でまともに動けるのは二人だけとは……お主らのほうがよっぽど肝が据わっとるわ』
「おいおい、あんまり無茶なことはしないでくれよ……あ、今のは俺がドラゴンに言っただけです! 気にしないで!」
焦る俺をよそにドラゴンはソフィアさんとタイラーさんを見る。二人もまたしっかりとドラゴンを見返していた。
『何かあれば、お主たちが我の元へ来い。王自身でもよいぞ、これるのならばな』
「そっちに何かあったらどうする?」
『我がこの城に出向いてやる。だが勘違いするな、何もできぬようであればそのときはすべて焼き払う』
「それが可能と?」
『人の身でありながらその魔力……プライド、いや、自負心か。随分世界を見てきたようだが強者と出会わなかったようだな。もったいなき事よ』
その言葉を聞いても、ソフィアさんとタイラーさんは顔色一つ変えずドラゴンから目をそらさなかった。沈黙のなか大きな腹が鳴る音が聞こえる。
「クゥークゥー」
「お腹空いちゃった? そういえばお昼まだだったね」
『……長くなってしまったな、我は帰る』
「あ、おい! 子供はつれていかないのか」
『契約者はお主だ、それに帰ろうと思えば帰ることもできるだろう……世を見させるためにも子はお前たちに任せる。頼んだぞ』
契約したって言っても成り行きでなっただけで……って!
「そうだ、宝を見せてくれる約束だっただろう?!」
『むっ……目ざとい奴め……明日の朝だ、迎えにくるから待っていろ』
ドラゴンはそう言い残すと飛び去っていった。
「また明日来るって……とりあえず、ご飯にしよっか?」
「うん!」
「クゥ!」
ドラゴンが去っても緊迫した空気が抜けない屋上にリリアたちの元気な声だけが響いた。
* * * * * * * * * * * *
「ここにいたんだ」
昼食の後、俺はドラゴンとの約束を紙に書き起こすと間違いがないかひたすら質問が繰り返され、気が付けば夜になり夕食を食べ終え一息休憩を入れていたところだった。
月もよく見え、城から見下ろす城下町は賑やかな明かりを灯している。
「言いそびれたけど……俺、旅にでようと思うんだ」
「…………うん」
リリアは短く返事をすると、それほど驚くようなそぶりを見せずジッと空を眺めていた。
「村に戻ったらさ、みんなにお世話になったって……突然ごめんって伝えてくれないか」
「……私も行く」
「えっ?」
「私も、旅に出る」
「な、いきなりどうしたんだ!?」
驚きリリアのほうを見るが、変わらずジッと空を眺めている。
なんで突然……旅にでるなんて今までそんな素振りすらみせなかったのに。
「お婆ちゃんから聞いたの。私の両親はどこかで生きている――会いたければ、旅にでなさいって」
「そんな無責任な……」
「私も最初はそう思ってた。でもお婆ちゃんは言ったの、お前の両親はお前を捨てたんじゃない。お前のために、こうするしかなかったんだって」
「理由は聞いたのか?」
「ううん、私が知ってしまうと何かが変わるといけないから話せないんだって。だから、直接会って話を聞こうと思ったの」
「でも……一人じゃ危険だろ」
「それでも行かなきゃ。魔法も使えるしなんとかなるって。それに、レニ君だって一人で危ないのは変わらないよ」
そう言ってリリアは笑顔を向ける。
「えっ、いや、俺は男だし……(それに38歳だし)」
「
…………確かに、いくらドラゴンだと言ってもまだ子供だ。ましてや相手に左右されてしまう俺の職業では守る手段はほとんどない。何も言えず悩む俺にリリアは続けていった。
「だからね、私と一緒に旅に出よう!」
「えっ?」
「元々両親の手掛かりなんて何もないの。唯一もらったのも鞄だけだったし……だから、レニ君が行きたいって思ったところについていくだけでも十分だよ」
「リリアはそれでいいのか?」
「うん!」
ここまで言われたらさすがに一人で行けなんて言えない……むしろ今回のリリアは大活躍だった。
「まったく……仕方ないな。まるで婆さんに言いくるめられた気分だ」
「いいの!?」
「ダメだと言っても一人で行くんだろ? それにリリアが言うように、俺一人じゃドラゴンを守れない。力を貸してもらうよ」
「やったー! あらためてよろしくね!」
「あぁ、よろしく頼むよ」
リリアを一人で行かせるより二人のほうが安全だろう。俺の旅も目的の場所が決まってるわけじゃないしな。
こうして俺の旅は一人から二人と一頭になった。
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