第14話 『竜の力』

「もう逃げ場はないぞ、観念しろ!」


「ほう……ここまで来たか。だが一足遅かったな」


「何ッ?!」


「クマクマ!」


「えっ? あれは……レニ君、卵が!」



 卵を見ると左右に揺れ、次第に動きが早くなると亀裂が入る。



「ついにこのときがきた。竜の巫女などいなくとも私がドラゴンを支配し、そしてこの国をも支配してやる!」



 卵が大きく揺れ殻の一部が吹き飛ぶと、中から幼くも立派なドラゴンの顔が現れた。眠りから覚めるように目を開く。大きくあくびをし勢いよく翼を広げると周りを囲んでいた殻は吹き飛ぶ。


 生まれたばかりだからもっとひな鳥のような感じを想像していたが……すでに力も強いようだ。



「おおおぉぉ美しい…………見よこの姿を、この溢れんばかりの魔力を! ワイバーンなど比較にならん!」



 ドラゴンの子どもは目の前の神父をジッと見つめている。卵から生まれた生物は一番最初に見るものを親と認識すると聞いたが、まさかドラゴンも……!?



「お前たち、運がよかったな。歴史が変わる瞬間をその目で見るがいい」



 そういうと神父はドラゴンの頭に手をかざす。


【ものまねし:状態(テイマー)】



「ま、まずい! あれを止めるんだ!」


「もう遅い」


≪スキル:テイム≫



 神父の手に光が宿り……バチッと火花が散るような音がなると神父の手が弾かれ光が消えていった。



「な、なんだと!?」


「グルルルルル……」



 ドラゴンの眼は手をさする神父を見つめ、次第に鋭くなっていく。そして……



「グアアアアアアアア!!」


「ひっ……! ぎゃあああああああああ!」



 ドラゴンは神父の首元へ噛みつく。そして神父が暴れ転ぶとドラゴンは器用に飛び立った。



「ひっ……ひいいいぃぃ」



 壁にもたれた神父はわずかにそれたのか首の根本を手で抑えた。対面ではドラゴンが獲物を追い詰めるように見下ろしている。



「リリア、証人を死なすわけにはいかない、ソフィアさんが来るまでなんとかするぞ! クマはソフィアさんを呼んできてくれ!」


「うん!」


「クマー!」



 俺は神父の前に出るとドラゴンと対峙した。


【ものまねし:状態(ドラゴン)】



 よし、これなら少しは持つだろう――そう思った瞬間、溢れんばかりの魔力が身体を巡り暴れ回る。



「なんだこれ……」


「グアアアアアアア!」



 ドラゴンは俺の隙を逃すまいと飛び掛かってきた。手に持っていた短剣で防御するとドラゴンは短剣へと噛みつく。そして、その強力な咬合力で徐々に刀身を破壊していく。



「くそっ、なんて力だ」



 なんとか力をいれ押し返し短剣から手を放すと、そのままドラゴンは短剣を嚙み砕いた。とりあえず俺に意識をうつさせたのはいいがどうするこの状況……。



「レニ君避けて!」



 その声に反応しリリアを見るとすでにタカノツメを出していた。炎の爪はドラゴン目掛け飛んでいくが、ドラゴンは素早く回避すると、そのままリリアの元へ飛んでいく。



「リリア危ない!」



 ダメだ、間に合わない……!


≪アイスウォール≫



 突如氷の壁が現れると、止まることが間に合わず激突したドラゴンは地面に落ちる……そしてふらふらと立ち上がると頭を振り、痛がるというより苦しむようにその場で暴れはじめた。



「ふ~間一髪ね」


「ソフィアさん!」


「あっ……ありがとうございます」


「後衛だからって油断しちゃダメよ。しかしこの状況……どうしたものかしらねぇ」


「クマ、クマクマ! クマ―!」


「えっ?! この子、魔力が溢れっぱなしで危険だって言ってます!」


「無理やり孵化させたからかしら? このままだとまずいわね……」



 この子を死なせたりしたらそれこそ親ドラゴンが怒り狂うだろう、そうなれば村どころか国すら危うい……何か方法はないのか。



「クマ、クマクマ」


「本当? クマがあのドラゴンの魔力を超える魔力で抑えればいいって言ってます!」


「ソフィアさん、なんとかできませんか?」


「難しいわね……子供だから私でもなんとかなってるけど……この子、純粋な魔力量では私よりも多いみたい。それに力も徐々に強くなってきてる」


「ふふふふ……これで何もかも終わりだ、どこの誰だか知らんが残念だったな! はーはっはっはっは!!」



 そういえばあいつ神父はなぜドラゴンをテイムできると思ったんだ? 決して魔力量に自信があるタイプでもなさそうだし。



「ソフィアさん、テイムの条件ってわかりますか?」


「えっ? えぇ、判明してる範囲でだけど一つは相手よりも上回る力で従えること。もう一つは相手から受け入れてもらうことよ」


「…………わかりました、一つやってみたいことがあります! なんとかドラゴンをあの神父の見える位置で拘束してもらえませんか?」


何か・・あるのね? わかったわ」



 ソフィアさんが神父の元へ走り出すと、ドラゴンは羽ばたきながら大きく動いたソフィアさんへ標的を定め、突っ込んでいった。



「ひっ!? こ、こっちにくるなああああああ!」



 ソフィアさんは神父を跳び越えるとそのまま空中で呪文を唱える。


≪ストーンバインド≫



 ドラゴンは神父の手前で周りから伸びてきた無機物の触手により拘束され地面へと落下した。



「そんなに長くはもたないわ、急いで!」



 俺は走りながら神父を見ると自分の鞄に手を入れる。


【ものまねし:状態(テイマー)】



 拘束され尚も暴れるドラゴンの元へ辿り着くと顔の前に手を出す。一か八か……こんなやり方しかないがこの子を助けるためにはきっとこれしか方法がない。

 拘束していた触手の一つが壊れドラゴンは俺の腕に噛みつく。牙がめり込み骨が悲鳴をあげていく。



「あなた何やってるの!?」


「ぐっ……大丈夫……!」


「グルルルルル……」



 すぐにドラゴンはある気配・・・・に気づいたのか、顎の力が急激に弱まる。



「こんなやり方でごめんな」


≪スキル:テイム≫



 あいている手をドラゴンにかざし――ドラゴンとの間に光が出ると、ゆっくりと強くなりそして消えていった。



「……クルルルルルル」



 ドラゴンは甘えたような声で鳴くと俺の腕の傷を舐め始める。これは……成功した?

 なんとなくだが、ドラゴンが謝っているような意思が伝わってくる。



「な、な、な、なぜこんな子供が……まさか、竜の巫女の末裔だとでもいうのか!?」



 うろたえる神父に対しソフィアさんが前に立ち塞がった。



「あなたには色々と聞くことがあるわ、覚悟しておきなさい」


「くっ……いくら貴様が強かろうと裏の連中を相手にはできまい。私を見逃せば手は出さないように言ってやる、どうだ、いい取引だろう?」


「あら、裏なら大歓迎よ」



 そういってソフィアさんはつけていたマスクをはずす。



「お、お前はまさか……破杖の魔術師!?」


「そんな昔のことは言わなくてもいいのよ」


≪スリープ≫


「おふっ…………」



 神父が眠る直前、俺は意識から神父をはずした。一緒に俺も寝たらシャレにならんからな。


【ものまねし:状態】



 よし、とりあえずこれで一件落着か。問題はあの親御ドラゴンさんにどう説明したものか……正直に言うしかないんだろうけどね。

 卵が返ってきたと思ったら子供がすでに孵ってて人間にテイムされてました――ってこれ、怒るで済まないんじゃないの?

 そんなことを考えているとリリアが駆け寄ってくる。



「レニ君、腕、腕は!?」


「んっ……あれ、いつの間にか治ってる」



 次の瞬間、あのときと同じ眠気が俺を襲う。力の入らない体をリリアに預けなんとか口を開く。



「すまん……少し……寝……る……」


「えっ? ちょっ……レニ君、ねぇ大丈夫!?」



 ソフィアさんがこちらに気づき慌てて来るのが見えたところで俺の意識は途切れていった。

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