第13話 『実戦』

 暗闇の中、教会裏手の扉が開かれ人影が入っていく。



「ほ、ほんとに来た……」


「それじゃ、いくわよ」



 ソフィアさんの小さな声を合図に森から出ると扉へと向かう。

 静かに扉を引くが開かない……鍵を閉め忘れてくれるほど間抜けではないようだ。



「どうします?」


「大丈夫よ」


≪ウィンドカッター≫


 ソフィアさんが小さい声で呪文を唱えるとキンッという金属音が鳴り扉が開く。音を立てないよう注意をしながら歩いていくと地下に続く階段を見つけた。



「ここのようね……それじゃあリリアちゃん、お願い」


「はいっ」



 そういってリリアは静かに魔法陣を描いていく。現れたのはクマ……だったがなぜかシルクハットに仮面、そしてマントをつけていた。

 クマは手品のように三人分のアイテムを出すとリリアに何かを伝える。



「クマ、クマー……クマクマ」


「えっ、これをつけろって?」


「どうしたんだ?」


「この仮面とマントをつけると相手に認識されずらくなるんだって」


「認識阻害の機能でもあるのかしら……いいわ、時間もないしみんなつけましょう」


「や、やるんですか……!? ってもうつけてるし……なんか妙にノリノリじゃないですか」


「一度こういうのやってみたかったのよ」


「わぁ……ソフィアさん、かっこいい!」


「リリアちゃんも似合ってるわよ」



 俺たちは怪盗のような恰好になり階段を降りていく……そして大きめの扉から声を確認するとソフィアさんが豪快に開けた。



「あなたたち、そこまでよ!!」


「ッ!? な、なんだ貴様は!」



 黒い外装を着た男が三人、そして端には神父がいた。



「ドラゴンから盗んだ卵、返してもらうわ!」


「おやおや、なんのことでしょうか? 彼らには祭具のチェックをしていただいてもらってるだけですよ」



 そう言って神父はこれ見よがしに中央に置いてある箱を指す。



「クマ、クマクマ!」


「うん、わかった。卵はそこじゃありません、あっちの袋です!」


「まったく、教会の人間が嘘をつくとはいい度胸だな」


「ぬぉッ!? いつの間に……な、なぜ頭にぬいぐるみを乗せている!?」



 黒服の男たちはリリアが指差した袋を見るとお互いに頷き神父の前に出る。



「仕方がない、お前は計画を進めろ。こいつらは始末する」


「わ、わかった。ここは頼んだぞ!」



 神父は袋を持ちあげると奥の部屋へと走っていく。



「待て!」


「おっと、見たところガキのようだが来るところを間違えたか?」



 神父を追いかけようとした俺たちの前に一人の男が立ちはだかり、残りの二人はソフィアさんの前で戦闘態勢になっていた。



「二人とも、教えた通り落ち着いてやれば大丈夫よ」


「女とガキ二人で何ができるってんだ、容赦はしねぇぞぉ!?」



 その声を合図に俺たちの戦いは始まった。目の前の相手を注視すると脳裏にあの文字が浮かぶ。


【ものまねし:状態(盗賊シーフ)】



「よし、行くぞリリア!」


「うん!」


「クマー!」



 先に相手が動き出したが俺もすぐに動き前に出る。



「おっ、彼女にいいところでも見せたくなったかぁ? だが残念ながら自分の心配をするべきだったな!」



 男は短剣を抜くと斬りかかってきた――そして同じように反応した俺の短剣と二つの刃がぶつかり合う。

 よし、十分対応できる。というかドラゴンに比べたらしょぼい! いや、油断したら本当に危険なのはわかるんだけどさ!


 正直ドラゴンの爪を掻い潜り、結局直にぶっとばされたことのある身としては……殺気や力の足りなさがはっきりと伝わってくる。

 リリアもブラッドベアーに追い回され殺気を当て続けられたことに比べたら余裕なのか、怯えている様子もない。



「ほう、ガキがちったぁやるじゃねぇか。ならこれはどうだ」


≪スキル:盗む≫



 何度か斬り合うと男が間合いをあける――手をあげたそこには俺の短剣が掴まれていた。



「はっはっは! これでお前の武器はなくなったなぁ?」


「…………あんたも、ちゃんと見て見なよ」



 そういうと俺も男が持っていた短剣を見せる。男は持っていたはずの手を見ると唖然とした。スキルを使われたとき、同じように盗んでやったぜ。



「な、なぜ貴様が持っている!?」


「さぁな、それじゃあ今度はこっちの番だ」


≪スキル:隠れるハイド



「消えた……いや、これは…………俺を騙したつもりか、そこだ!」



 そう言って男は短剣を斜め後ろに振り抜く――――



「クマ―」



 無情にも男の短剣は床に立っていたクマの遥か上を通過した――クマはなぜか、それを誇らしげに見ている。



「残念だったな、こっちだ」


「ッ?! ぐぁ……!」



 斬りつけると男は短剣を落とし後ろに退く。



「今だ!」



 俺の声を合図に魔法陣を描き終えていたリリアが頷く。燃えさかるタカノツメが現れリリアが杖を男に向ける。



「いけー!」


「な、なんだこれは! だが魔法なら……ッ!? なぜ耐魔の服が裂け――ぐぁああああああああ!!」



 男は外装を斬られ燃えるとその場に倒れた。

 な、なかなかえげつないな…………もしかしてやっちゃった? 〇んだ?


 リリアも予想以上の威力にびっくりしたのか、心配そうに俺の元へ駆け寄る。



「こ、この人大丈夫かな?」


「た、たぶん……」


「クーマ、クマー」


「本当? 魔力の流れはちゃんとあるからまだ生きてるって」


「そ、そうか。まぁ相手も相手だったし良しとしよう」



 俺たちは一応だが、万が一やってしまったときの心構えを聞いていた。

 広く様々な職業があるこの世界では、俺たちよりももっと幼い子供が生きるため冒険者になったり殺しをするのは至極当然だという。

 初めはそれを聞いてもさすがにやるのはと思ったが……。


 一つの悪事で万の命が失われる――ソフィアさんは今一つ覚悟を決められなかった俺たちに、その意味をはっきりと言い聞かせた。

 もし俺がドラゴンを抑えられていなかったら? リリアがいないときにブラッドベアーが子供たちを襲っていたら?


 彼らモンスターは本能で動くためまだいいが、人間となると心があるためタチが悪い。一つの油断、優しさが悲劇を生むのだと。



「万が一起きられると危険だ、武器は俺が持っておこう」


「あっちは大丈夫かな?」



 ソフィアさんのほうを見ると様々な魔法を使い二人を相手に凌いでいる。

 確か耐魔って言ってたな……ってことは相性が悪いんじゃ……加勢しなくちゃ!



「そいつらの服、耐魔法を施してるみたいです!」


「なるほど、だから今一つ手ごたえがなかったのね」


「…………あの野郎、ガキどもに負けたのか。だから雑魚を寄こすなって……言ったんだよ!」



 男がこちらに向かって走り出そうとしたその瞬間――氷の棘が男の行く手を阻んだ。



「どこへ行こうとしてるのかしら? 二人とも先にあいつ神父を追いなさい。ここはすぐに終わらせるわ」


「ちっ、こっちだって暇じゃねぇんだ。さっさと終わらせてやるよ!」



 標的がソフィアさんに変わったのを確認すると俺たちは神父が入っていった部屋へと走る。



「さてと、その服があるなら多少本気を出しても死なないわね。覚悟なさい」



 自信に満ち溢れたその言葉は、ソフィアさんが絶対に負けることがないという安心感を俺たちに与えてくれた。

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