第12話 『裏の裏のをかけ』
「ママ―くまさん―」
「あらあら、可愛いわね~」
何度聞いた言葉だろうか、隣を歩いているリリアはなぜか嬉しそうにしている。
リリアいわく、クマは卵の魔力の残滓を追っているらしい。だから最短距離で追うというより、後を追いかけるように道を辿っているとのこと。
こうして歩くこと数十分、俺たちは王都の中に入り、そしてまた王都を抜け、外れにある大きな教会の前へと辿り着く。
「クマ―クマクマ」
「うん……わかった。ありがとう」
「クーマー」
リリアに何か伝えるとクマは俺の頭をぽんぽんして消えていった。
「ここで魔力は途切れているみたいです」
「本当にうまくいくとは……」
「教会……まさかこんなとこまで裏が関わり始めてたなんてね」
「これからどうします? とりあえず王様へ報告に戻りますか?」
「いや、下手に動いて気づかれるとまずい。とりあえず中に入って探りをいれる」
「二人は私たちに合わせてちょうだい」
「わかりました」
「う、うまくできるかなぁ」
「大丈夫よ。旅をしていて初めて教会へ立ち寄ったと思えばいいわ」
「は、はい! 頑張ります!」
合わせるっていうのはコツを掴むまではとても難しい(と思う)。その場のノリとか空気とかって言うけど、目的をはっきり理解していなければなかなか成立しない。
要するに……今回の俺たちは全員探偵だと思い込めばいいわけだ!
「それじゃあいくぞ」
タイラーさんとソフィアさんが並んで前を歩き、俺とリリアは二人の後ろを歩く。
教会の中へ入ると
「何か御用でしょうか?」
「俺たちは旅をしてるんだが子供たちは教会が初めてなんだ。礼拝させてもらってもいいか?」
「今のお時間でしたらご自由にしてもらっていいですよ」
「わかった、あとすまんが手洗い場をお借りしたい。子供がさっきから腹が痛いって言っててな」
そういってタイラーさんは俺の顔を見る。なるほど、そうきたか。
俺は急いで内股になると、お腹を両手で抑えながらシスターにお願いした。
「ごめんなさい、さっきからお腹が痛くて……う~」
「まぁ大変! ついてきてください」
「二人は座って待っててくれ、ほら行くぞ」
俺とタイラーさんはシスターに案内され手洗い場へと向かう。
「こちらになります」
「ま、間に合ったー!」
俺は急いで手洗い場の中へと入る。そして外から聞こえるタイラーさんたちの会話に耳を傾けた。
「酷いようでしたらお薬をお持ち致しますか?」
「大丈夫、いつもの食べ過ぎだろうから俺が付いてるよ。悪いが連れの二人に、少し長くなりそうだと伝えてくれないか」
「わかりました。それじゃあ私は先に戻りますので何かあれば周りの者にお伝えください」
足音が遠くなっていく……。
「そのまま聞け、俺はこのまま探ってみる。ある程度時間が経ったら礼拝堂まで戻ってこい。俺がいなかったらうまくごまかしておいてくれ。わかったら一回ノックしろ」
俺はその言葉を聞くと一度だけノックした。すると先ほどまであったタイラーさんの気配が消えた。
ある程度とかどのくらいかわかんないけど……トイレだしまぁとりあえず体感15~30分くらいか? 遅すぎてもあれだし……あとはタイラーさんが間に合わなかったときのいい訳か。
そんなことを考えながら時間を潰していると外から声が聞こえてくる。
「いや~神父さまもこれで司教……いや、うまくいけば王になれるやもしれませんな」
「ふっふっふ、まさかいつかのドラゴン襲撃にあいつらが関わっていたとはな」
「しかし本当にあの者を信用していいのでしょうか?」
「なぁに、卵が孵化すればあとはこちらのものだ。契約さえしてしまえば誰も手は出せまい」
「それもそうですな!」
足音と声がだんだんこちらへ近づいてくる。まずい……これは非常にまずい。
「私は用を足してからいく、お前は先にいけ」
「かしこまりました、それでは後ほど」
足音が遠くなりもう一人の足音がこちらの扉に近づく。
「む? 誰かいるのか」
「はぁ~すっきりした~~~!」
俺は鍵をあけ扉を勢いよく開いた。
「誰だ貴様!?」
「あれ、その恰好は神父様?」
「こ、子供? いやそれよりも……君、さっきの話を聞いていたのか」
「俺、お腹痛くてそれどころじゃなかったんだよ、いや~食べ過ぎてお腹パンパン! すごいデカいのがでてさすがに自分でもびっくり! 神父さん、臭ったらごめん……話って、何かあったんですか? みんなを待たせてるから手短にお願いね!」
「……いや、なんでもない。早く行きなさい」
「はーい!」
あっぶねー! なんとか勢いで乗り切れた……見た目が子供ってのもよかったな。
礼拝堂に戻るとソフィアさんの元にタイラーさんは戻っており、シスターとリリアが会話をしていた。
「みんなお待たせー」
「きたか、それじゃそろそろ行くとしよう」
俺たちは教会を出ると四人一緒に王都の宿屋へと向かう。道中、親子のようにしてろと小声でタイラーさんに言われたため俺とリリアはそれっぽく振る舞った。
リリアは村の子供たちとおままごとをしていたのか、なかなかの演技力だ。俺も負けていられないとバカをしていたら宿屋についていた。
「どうだ、反応はあるか?」
「もう大丈夫みたいね」
「どうかしたんですか」
「教会からずっとつけられていた」
「……だからあんなことしろって言ってたんですね」
「あんなバカをしろとは言ってないがな。まぁそのおかげで相手さんも警戒を解いたみたいだ」
「レニ君、急にやり出すんだもん。私どうしようかと思っちゃった」
「リリアちゃんも良い演技だったわよ。本当に娘かと思っちゃうくらい可愛かったわ」
そういってソフィアさんはリリアの頭を撫でるとリリアは照れながらも、ごまかすように話をそらした。
「そ、それより! この後はどうするんですか?」
「そうだな、まず俺が調べた限り間違いなく教会が絡んでいることはわかった」
「そういえば俺もトイレにいるとき話を聞いたんですが」
俺は聞いた会話を説明するとタイラーさんは確認するように頷く。
「やはりか、俺は教会の帳簿から不透明な金の流れを確認した。あとはゴミ箱から差し出し人不明の手紙もな。細かく破いてあったから処分する直前だったんだろう」
「私も地下の中に一つだけ不自然な魔力を探知したわ。ドラゴンの魔力とは違えど、隠すことも考えれば間違いなくあれよ」
「みんなすごい……私、シスターさんとお喋りに夢中だったのに」
「あなたが気をひいてくれてたおかげなのよ。それにクマさんの魔法が大活躍だったじゃない」
「そうだ、嬢ちゃんの魔法がなけりゃ未だに机の上で頭をひねっていたかもしれん」
結果も大事だが、そこまでの道標や過程がなければ結果はでない。なにより一番活躍したであろうクマがかわいそうだ!
本当は頭にクマを乗せ王都中を歩き回った自分を褒めてほしいが……それをいうのは野暮だろう。
「さて、つけられていたことを考えると時間もない」
「今更だけど、あなたたちも力を貸してくれる?」
「えぇ、もちろん」
「いい顔だ、それじゃこれからのことを説明するぞ――――」
こうして俺たちが動き出したのは翌朝、まだ陽が昇る前だった。
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