第4話 『伝説の終わり、伝説の始まり』
「今日は村のみんなにいい知らせがある。ついに森に住んでいた魔女を追い出すことができた。それもこの方のおかげだ」
あのピンク色の髪は……。老人と子供が手を繋ぎ歩いてくるとお辞儀をした。
「知ってる者もいるだろうが、このお方は昔村を救ってくれたことがある。そして先日村に寄った際、魔女の退治を申し出てくれたのだ」
「ほっほっほ、これも何かの縁と思ってのぅ。ここらで隠居生活でもさせてもらえると嬉しいのじゃが」
「助けてもらった恩を返すにはまだまだ足りないと思うが、どうだろうか?」
そういうと大人たちから賛同の声があがる。
子供たちはまだよくわかっていないのか、森で遊べるの? と言い合ったりしていたが、一部の
「あの子って森からでてきた子だよね……」
「もしかしてあのお婆さんの子だったのかな、どうしよう怒られちゃうよ~……」
そんなことを話している子供たちとは裏腹にニールは珍しくおとなしかった。
「それとこの子はリリアちゃん、みんなも仲良くするように」
「よ、よろしくお願いします……リリアといいます」
そういうと丁寧にお辞儀をする。
あっ、目があった。一応小さく手を振っておくか。なんか嬉しそうにしてるし気づいてくれたようだ。
「それじゃあ急ですまなかったがこれで解散とする。住む場所が決まるまで森の中にある家を使ってもらうが、もう魔女はいないからみんなも安心してすごしてくれ」
そして解散となり各々が家に帰ろうとするなか、俺は母さんに引き留められた。
「レニ、あんたはリリアちゃんに村を案内してあげて。私たちは少し話をしていくから」
「わかったよ、それじゃあ行こっか」
「お、お願いします! おばあちゃん行ってきます!」
妙に感じる大人たちの視線に見送られた俺は、リリアちゃんを連れその場をあとにした。
「しっかし驚いたな~お婆さんは何を考えて……」
「あの……め、迷惑だったかな?」
「あ~大丈夫、そういうことじゃないんだ。それよりどこから案内したものか――」
考えながら適当に歩いていると突然俺たちの前にニールが出てくる。初めの印象が最悪だったリリアちゃんは後ずさるように俺の背後に隠れてしまった。
「……お、おいレニ!」
「ニールか、どうした?」
「…………か、顔、ゴメン……それと、き、君も! 勘違いして、鞄も……本当にゴメン!」
それだけいうと走り去っていった。妙におとなしいと思ったけど本人なりに反省していたようだ。さて、
「――っとまぁ、あいつも根は悪い奴じゃないんだ。よければ徐々にでいい、仲良くしてくれないか。それとそろそろ服を離してもらえると助かる」
後ろで服をぎゅっと掴まれている俺は振り返ることもできず、言葉をかけることしかできなかった。
「……ッ! ごめんなさい!」
「大丈夫、さてと次はどこに行こうかな~……そうだ、薬屋のおばちゃんのとこでもいこっか。あの人もなかなか面白いんだよ」
こうして村の案内と同時に、魔女の伝説は突如、終わりを告げることとなった。
~それから三年後~
「でさ~、父さんも父さんなら母さんも母さんなんだよ……あーは言ってもすぐ仲良くなるし、ほんと大人って大変だよねぇ」
「確かにのぅ、そのあたりも歩み寄ればこそなんじゃが」
「ほんとだよもう……で、婆さん今日のお茶はどうだった?」
「まずまずじゃの。どれ、次は儂が淹れよう」
「ん~何が違うんだろ……やっぱり心なのか? 最後は淹れる人の気持ちで決まるってやつなのか」
「ほっほっほ、若いもんが何を言うとるんじゃ」
秋晴れのような天気が続きこれも終われば雪が降るという季節、俺は婆さんの家へ入り浸っていた。ここはお茶が美味しいだけでなく、婆さんの昔話はとても面白く興味深いものが多い。
リリアはというと、村の子供たちとも仲良くなりしばしば外に遊びに行くことが多くなった。もちろんニールともちゃんと和解することができ、今では普通に遊び話すことも当たり前になっている。
「ほれできたぞ」
「ん~この香り……やはり婆さんが淹れた茶は違いますなぁ」
そして俺がお茶を啜ろうとした瞬間、扉が勢いよく開かれ泣きじゃくる女の子が入ってきた。
「うぇぇええええん! 誰かああああぁぁぁ!!」
「おやおやどうしたんだい、怪我でもしたんか?」
「ひっく……っ……モンスターが出たの…………リリアお姉ちゃんがみんなを逃がすって……うぇぇええええええん!!」
「なんじゃと!?」
「お、落ち着いて! ほかの子は? 君以外にもまだいる?」
「うぅん……私が最後……みんな村に戻った…………お姉ちゃんが誰かに知らせてって……」
「そっか、無事でよかった。今から俺がリリアお姉ちゃんを助けに行くから、何か目印になるようなものがなかったか教えてくれないか」
「え、えーっと……おっきな石がいっぱいあるとこ……」
「大きな石……森の中にあるとすれば……婆さん、行ってくる!」
「待ちんしゃい! えーっとあれは確か――――」
そういうと婆さんは奥の部屋から小さな袋を持ってくる。
「これを持っていくんじゃ」
「これは?」
袋の中には小瓶が三本入っており、一本は青色、残りの二本は赤色をしていた。
「回復薬と、そっちの赤いのが魔法を詰め込んだ瓶じゃ、割れば発動する。危険じゃがないよりましじゃろう。リリアを頼んじゃぞ」
「わかった、それじゃあ行ってくる!」
大きな石というのはきっとあの岩場のことだろう……だとすればそんなに遠くもない距離だ。
慣れた森を走り抜け何度か来たことのある岩場へと出る。
この辺りのはずだ……。注意深く観察すると地面に何か不自然な跡があった。
あれは、足跡? この先は確か……そうか!
* * * * * * * * * * * *
「はぁ、はぁ、はぁ……」
もう、どのくらい走っただろう……最後の子は無事に帰れたかな……。
そんなことを考えていると背後から唸り声が聞こえてくる。間違いない、あのモンスターはおばあちゃんが言っていたブラッドベアーだ。
本来山の奥に住んでいるモンスターで獲物を見つけると執拗に追いかける。そして獲物が疲労で動けなくなったところを襲い掛かってくる危険なモンスター……逆にいえば、元気に逃げ続けているうちは襲い掛かることはない。
だから私はここまで逃げ続けることができた……でもそろそろ、
「きゃっ!」
足がもつれ転ぶと、後ろからは明確な殺意が
立たなきゃ……あそこまで行ければ……。走っているのか、歩いているのかもわからない状態だったが前へと進み続ける――そして――
「はぁ、はぁ、つ、ついた……」
目の前には崖、そしてその下には底が見えそうなほど綺麗に透き通った泉があった。
この場所を教えてもらったときのことを思い出す……。
――ここさ、一見底が浅いように見えるけど結構深いんだよ。え? ほんとかって? はっはっは、大丈夫! あの崖の上から飛んでみても平気だったから!――
そんな思い出をかき消すように後ろから大きな唸り声が聞こえる。振り返るとそこには赤黒い体毛のモンスターがいた。
このままだと襲われる……だが後ろは崖……どちらも無事では済まないが、跳べばまだ可能性はある。しかしモンスターはそんな覚悟を決める暇など与えてはくれなかった。
咆哮をあげるとこちらに向かって走り出す。目の前の恐怖から逃げるように目を閉じ、祈る気持ちで両手を握るが脚が動かない。
――リリアああああああああああ!! 跳べぇぇぇぇええええええええええ!!!!――
気のせい? 声が聞こえたような……。
疲労と恐怖で朦朧とする意識の中、私の足は自然と地面を蹴っていた。宙に浮く違和感を感じた瞬間、一気に体が落下しモンスターの声が遠くなっていく……。
すでに限界を超えていたのか痛みを感じることもなく水の中に沈むと、私の身体は手を伸ばすこと以外、動くことはなかった。伸ばした手の中に吸い込まれるようにゆっくりと、徐々に光が小さくなっていく。
私でも頑張れたかな……あの人のようにみんなを助けることはできたかな……二人でお喋りしようって約束、守れなかった……。
色々な思いが頭をよぎる。
もう一度、会いたいな……
途切れる意識の刹那――彼の顔が見えた気がした。
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