181~190

恥 濡 涙

その女の瞳から溢れた涙はそのまま頬を濡らすことなく、小さな水晶となって床へ落ちた。もういくつになるだろう。水晶を手に取り、小箱に入れる。もうひとつ、水晶を落とした女は言う。「捨ててしまいなさい。いつも通りに」羞恥心のかけらもなく。なんてことも無いように吐き捨てる。いつもの通りに。


赤 圧 聖

「赤いんだ」短くなった煙草から吸った煙をすっかり吹きだして、彼は言った。「あの太陽が、西の遥か彼方に沈むとき」長く灰の残った煙草を持つ手を、遠くへ伸ばす。「雲が薔薇色に染まる」とん、と煙草をはじき灰を落とす。「神聖なものの存在を感じ、そのたびに何度も圧倒される」日はまだ沈まない。


卵 純 先

「もしもこの星が卵だとして」彼の話はいつも唐突だ。「いったい何が産まれるんだろうな」「そんな考えに意味はあるのかい」僕も何の気もなしに答える。「実際そんなことがあったって、僕らは先に死んでるだろう」「純粋に興味がないかい」彼はコツコツと机を叩く。「ないね」僕は水を一口飲み込んだ。


徳 乳 態

天の川のことを外国ではミルキーウェイと呼ぶらしい。女神から溢れた乳が空へ流れて、あの大きな光の帯になったそうだ。そこに至るまでの話はもう忘れてしまった。そんなことを考えたってなんの知徳にもならない。今の僕の状態からしてみれば、考えている余裕はない。ようやく救急車が来たようだった。


頭 自 力

薄々感づいていたことだがどうやら自分の運はあまり良いものではないらしい。頭は悪くないし力だって並み以上ある、他人との会話も問題なく生きてきた。それでもやはり運命というものは自分の力ではどうすることもできないのだ。僕には二つの選択肢が与えられる。そのどちらを選んでも必ず報われない。


裸 触 震

誰もが皆、生まれたときは裸だった。しかし誰もが皆、銀の匙を持てるわけではない。世界に誕生した瞬間から、人は常に選択を迫られる。己の正義を信じ進むか、悪と理解したうえで進むか。あの細い肩に触れた瞬間、救うべきだと思った、だから怯えて震えていたその手をとった。その選択に、後悔はない。


心 破 変

どろどろと濁り腐っていく左腕を見つめる。骨の奥から気泡が湧きだし、皮膚の上で破裂する。視線をあげれば、弟子がいかにも不安気にこちらを見ていた。「何も問題ない」するりと腕を撫でれば、いつも通りのなだらかな皮膚へと変化する。この程度のことで心配されるほど弱ってはいない。いまは、まだ。


触 鬱 冷

眠る彼女の冷たい皮膚をなぞる。小さな爪に飾られた指先から腕をつたい肩に触れる。心臓に近づくにつれて熱を感じ、彼女は生きているのだと実感する。耳を近づけ心臓の音を聞く。憂鬱にさいなまれる苦痛をその小さな鼓動が少しずつ溶かしていく。いつの間にか、目を覚ました彼女に頭をなでられていた。


暗 美 立

声が聞こえたんだ。全てが灰色で薄暗い街の中で、僕にだけはっきりと聞こえた。その途端、僕は何もかもがどうでもよくなり、道の真ん中で立ちすくんでいた。二度三度と人にぶつかり、一度強く押しのけられたのをきっかけに、あの美しい声に向かって僕は走った。なんだか素敵なことが起きる予感がした。


微 悪 人

善悪の微妙な判断はどこでつくのだろう。列車の振動を感じながら僕は考える。先程から駅へ着くたび、ぼんやりと薄暗い人影が降りていく。どの駅も駅名がなく、乗る人はいないのにいつの間にか人が増えていく。僕はまだ自分の死を認めていない。行く先が天国だろうと地獄だろうと、僕は絶対に認めない。



次の漢字を全部使って文章作れったー

https://shindanmaker.com/128889

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