171~180
先 頭 隠
先頭から順に連なる行列を、遥か後ろの方から待っていた。歩みはどこまでも遅く、たまにのろのろと一歩踏み出す。人と人とが押し合い、だらだらと流れる汗を拭うことすらもどかしい。右の方を見渡す。肩を寄せ合いゆらゆらと立つ人びとの隙間から、隠れるように海がみえる。いっそ逃げてしまおうか。
夜 裏 抱
夜の闇を駆ける。ぽつん、ぽつんと立ち並ぶ街灯をいくつも通りすぎる。その度に伸び縮みする影が、奴らの鼻先にかかると想像するだけで背筋にぞおっとするものが走る。奴らに追いつかれる前に、素早く路地裏に忍び込む。いつまでこの恐怖を抱えていればいいのか、もうどうすればいいのか、わからない。
奪 困 背
銀の月の昇る夜だった。灼火を身に受けて熱を奪い、冷たい光のみを我々に照らし返す丸い鏡月に背を向ける。月の美しさは穢れきった我が身に強く堪える。それでも光は容赦なくこの身を照らし、目の前に強い影を残す。それを踏みにじるように歩き出す。月は変わらず輝き、困窮する我が身を照らしていた。
徳 交 濁
交差点の信号が変わるのを、イライラしながら待ち続ける。ハンドルを指先で叩き、歩く人間たちを見送る。制服の子どもたち、スーツを着た男、日傘をさす女。いろいろな人間が混ざり合い濁っていく。ようやく変わった信号に、緩くアクセルを踏み込む。何か徳を積むこともなく、毎日同じことの繰り返し。
人 溶 下
ほつほつと、毛糸のセーターがほどけるように。とろとろと、舌の上でチョコレートが蕩けるように。ああ、溶けていく。私の人生が、いま現在から遥か遠い過去へと、溶けていく、とけていく。一歩一歩踏みしめるたびに、思い出すのは甘い記憶のみ。愛しい思い出のみを抱きしめて、私はビルから落下した。
獣 精 唇
もう駄目だった。何もかも、全て終わりにしてしまいたかった。精神的にも肉体的にも、限界が迫ってきて止められない。涙が頬を伝い、唇から口内へと潜り込む。その涙の熱さも、塩辛さも、何も感じない。ふと気がつくと、背中に大きな亀裂が入っていて、そこから大きな鉤爪を持つ獣が生み出されていた。
恥 涙 獣
ひとつ、ふたつ。瞬きのたびに瞳から零れ落ちていく、涙。いままでの人生の中で、一等むごい顔をしている。ひどい恥さらしだ。喉から溢れる獣のような声。常に完璧であれと、醜聞を晒すなと言われ続けてきた。そのように育てられ、そのように育ってきた私は、この感情に名前を付けることが出来ない。
脱 笑 抜
昨日まる一日、いたるところに雷を降らせた分厚い雲は今日はどこにも見当たらない。空は青く、昨日までの重たい灰色を脱ぎ捨てて、薄衣のような雲をなびかせながら、太陽はまるで笑っているかのようだった。いたずらに頬を駆け抜ける風に草花はそよぎ、まるで太陽の恩恵を崇め奉る参拝者のようだった。
圧 話 人
私は人の見分けがつかない。目が二つ、鼻が一つ、口も一つ、耳は二つ。大概の場合は。髪が長いか短いか、それで見分けることもある。大概の場合は。人と話すのは疲れる。右から左へ通り抜ける言葉たち。必死で脳に圧力をかけ、泡のように頭から消えていく言葉たちから何とか必要な分だけ残しておく。
暗 子 柔
白い部屋に私はいる。壁も天井も、床に至るまで柔らかな光を放ち、触れれば暖かで、そのすべらかさは子どもの肌を思いだした。部屋全体から体に光をうけているのに、私の影は見当たらない。そっと寝ころび、手足を縮めて丸くなる。瞼を閉じれば久しぶりに訪れる暗い世界になんだか少しほっとした。
次の漢字を全部使って文章作れったー
https://shindanmaker.com/128889
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