121~130
口 裸 悲
裸のまま鏡の前に立つ。ぼんやりとした顔は青ざめて、唇すら色を失っていた。頬から首をなぞり、浮き出た鎖骨を撫でる。指先で軽く叩けば体内に音が響いた。胸に手を当てれば鼓動が伝わり、薄く開いた口から息が漏れる。私は私をこんなに嫌いなのに、それでも生きようとする体がどうしても悲しかった。
圧 裸 鬱
この森を訪れるたび、迎える木々に圧倒される。柔らかな枝葉は誘うように揺れて、うねる幹の滑らかさはまるで絵画の裸婦のように美しかった。古くから語られる精霊達の姿は、今を生きる人々の無意識にも刻まれている。それを実感すると鬱々としていた心は少しだけ溶かされ、また明日を願うようになる。
震 反 破
焦燥にかられる心に反して、体はピクリとも動かなかった。廊下の奥の暗がりで、女の影がゆらゆらとうごめいている。今はまだ遠くにいるそれがこちらに気づく前に逃げなければいけないのに、心臓ばかりが破れそうなほどに動いて呼吸すらままならない。女の影は震えながらだんだんと大きくなっていった。
自 熱 絶
「僕はね、今まで一度も裏切られたことがないんだよ」男はそう言って笑って見せた。数多くの信者からの絶大な狂信を集める“神”の瞳は光り輝いていた。自身の手の届くものすべてを守り、慈しみ、愛しているのだと。だがそこには一切の熱は灯らなかった。自分を含め、何も信用していない者の目だった。
夜 出 脱
夜になるといつも考えることがある。宇宙に夜明けは来るのだろうか。子供じみた妄想の域を脱しない、馬鹿げた疑問。でも私にとっては小さい頃から不思議だったのだ。地球は自転によって陽の当たる面が変わり、それぞれの日の出がやってくるのだが、太陽の光の届かない宇宙はもうずっと夜なのだろうか。
飲 魔 話
鈍色に発光する薬を飲み干せば、押し寄せてくる苦みと疲労感に僅かながらも回復したことがわかる。このまま眠りにつけば体力も戻るだろうし、そうすれば魔法を使って町まで跳ぶことができる。だがそれはここが安全だった場合の話だ。岩陰の向こうから、先ほど私の腹を抉ったドラゴンの咆哮が聞こえた。
射 変 口
視線を感じる。遠く森の奥、暗く沈んだ木々の間、何かがこっちを窺っている。先程までとは打って変わり、冷えきった空気に口の中が乾き、舌が張り付く。いまだ姿は見せない猛獣の眼力に射貫かれて、体はただの肉になってしまった。もしも生きて帰れたら、私は二度と猟銃を手にすることはないだろう。
舌 楽 小
楽しみに終わりがあるのはなんであっても変わりはない。ごろごろと大きな飴玉も、いずれ小さくなって消えてしまう。でもきっと、終わりの時を自分で選べたら、それがどんな辛いことでも納得はできるのだろう。がつり、砕けた飴が舌の上に広がる。目の前の青く白く輝く星を見つめる。本当に楽しみだ。
肉 好 隠
たとえどんなに姿が似ても、私の前ではただの肉。もはや牙も隠さず、すっかり怯えきった女の手を取り、そっと顔を寄せる。息を吸い込めば仄かな血の香りが嗅覚を刺激し、食欲が沸き上がる。髪を掴み反らせた首に牙を突き立てれば、女のか弱い手が思わず私の手を握り返す。この瞬間が一番好きだった。
憂 破 気
「地球滅亡まで3時間になりました。これより放送を終了します。皆さんよい終末を」ラジオはどこかで聞いたようなクラシックを流したあと、ぷつりと途絶えてしまった。終わりに対する気楽さは急速に萎んでいき、憂鬱さだけが胸を満たす。残された時間をどう過ごそう、破滅の瞬間に立ち会いたくはない。
次の漢字を全部使って文章作れったー
https://shindanmaker.com/128889
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