111~120
情 夜 射
今夜は風が強い。雲は情緒に浸る間もなく次々と形を変えていくのに、月の明かりは遠くの山々も輝かせていた。じっと空を見ると、月の海まではっきり見える。地球に反射した太陽光がまた月の影を照らすのだ。あそこには私も映っているだろうか。ひとり目を瞑り、月から地球の私を見下ろすのを想像した。
乱 犯 絶
強く吹く風が髪を乱すも、心はどこまでも穏やかだった。ぬるつく血がだんだんと冷えていく感触も湯冷めしそうな時に似て、早く片付けてしまおうという日常感のある思考に押し流されていく。犯罪者になったという自覚はあるのだが、深い絶望も混乱も無い。今までの自分とどう違うのかわからなかった。
病 爆 犯
いくつもの病を従え、多くの人間を殺した不死の王も、首輪と鎖に繋がれたいまはただの獣のようだった。これに罪を犯したという意識はない。ただ生まれたように生きいる。それを守るのが我々の使命だ。仕掛けた爆弾を作動させ、混乱に乗じて血液を採取した。あとは逃げるだけ。早く次の王を作らねば。
酒 香 色
この奇妙な世界に来てどれだけ経っただろう。それとも時間なんてないのだろうか、夢を見ているように。そうだ、ここは夢の中だ。師匠の酒を盗んで、この世界に入り込んでしまったのだ。空は赤紫に輝き、太陽が8つ列をなして空をめぐる。自分より大きな金色の花の香りを吸ってから、体が動かなかった。
声 守 乳
誰かに呼ばれたような気がして、普段歩かない道をいく。なにに呼ばれているのか、それを疑問に思うことなくとり憑かれたように突き進む。声に従い狭い道を抜けると小さな広場にでた。中心には何かを守るように巨大な花が咲いている。うっとりと香るその花に近づくと蜜の代わりに温かな乳が溢れていた。
背 寝 子
気が付くと大きな獣の背に揺られていた。日に暖められた体毛がチクチクと頬に刺さるのがむず痒い。いったいどんな生き物だろう、力強い心音が子守歌のようだ。あまりに心地良いので目を開く気にもなれない。ゆっくりとした歩調につられてまたどんどん眠くなる。ここで寝て夢から覚めるのが惜しかった。
情 喜 液
父の死を悲しめず苦しむ人に私は自分の悲しみを渡した。友人を侮辱されて何もできなかったという人に怒りを渡した。幸福を受け入れられない人に喜びを、全て失った人に楽しみを、私はどんどん差し出した。感情がなくなってからは血液を、そして臓器も、何もかも差し出した。私を少しでも残したかった。
楽 力 陰
深夜、誰にも覚られないよう息を殺して動く。物陰に身を潜ませ、周囲の気配を探る。武力行使も厭わぬつもりだが、皆ぐっすりと寝入っていた。口元が吊り上がるのが分かった。封を切り用意しておいた熱湯を注ぐ。罪深きその名は「塩バターラーメン」待ちに待ったお楽しみの時間、誰にも邪魔はさせない。
棒 高 無
眠る彼女の手をとる。長い入院の中で肉がすっかり落ち、腕は乾いた棒きれのようになっていた。青ざめた寝顔はそれでも穏やかで、きっといい夢をみているとわかる。だがそれも薬を飲んでいるからで、効き目が無くなればまた魘されるようになる。頂上から身を投げるために高い山を登っているようだった。
隠 肉 襲
仕事の疲労が限界を超える前に必ず行く店がある。薄暗い路地を進んだ先の、隠れるように経営している居酒屋。旨くもない酒や安い肉が焼けるにおいが広がり、店主は挨拶もなく視線をよこすだけ、そんな店が好きだった。不愛想な店主は厳しい祖父を思い出させ、郷愁に襲われる自分を抑えることができた。
次の漢字を全部使って文章作れったー
https://shindanmaker.com/128889
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