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自 声 守

誰もが彼女のことをこう思っていた、自分の身すら守れない弱者であると。そんな幻想は、我々の信じていた現実はあっけなく崩れ去った。弱者の評価を下した輩もろともあっけなく砕かれ潰された。呻き声ひとつ上げずに地に伏した"仲間”の上に立ち、彼女はいつもの囁く様な笑い方でこっちを見ていた。


気 人 優

昔、人里離れた山奥に大きな桃があった。実はこの桃、強大なる邪気をまとった極悪鬼を鬼族自ら総力を挙げて封印したものである。鬼は桃を川へ蹴り落とした。優しさからではなく仙桃には触れられぬ為である。後にこの桃が桃鬼大界戦を引き起こす元凶になるとは鬼も人も、仏ですら見通せぬことであった。


力 起 暇

いまだ夢に煙る頭の片隅で、小さな声が聞こえる。現実と繋ぐ意識を断ち切ろうと、小さな力が働きかける。それを振り払い、柔らかいカーペットから身を起こす。薬の影響の残る手の感覚を戻そうと一本ずつ指を握る。暇潰しにはなっただろうか。はっきりと目覚めれば存外時間が余ったことに軽く落胆した。


出 入 帯

静かな、草木の呼吸すら聞こえるような時間帯。ふと、頭を撫でられる感触に目を覚ました。目を覚ましたといっても私は動かず、ゆっくりと髪をくしけずる手の動きを受けとめる。髪の間に差し入れられた指が軽く頭皮をかすめ、するりと抜け出る。いまはもういないあの人の指の感触に3年ぶりに涙した。


獣 熱 美

その清げな面差しを目に映すたび、いつも思う。彼女は獣だ。人には慣れぬ、美しい獣。凛とした、真っ直ぐな立ち姿。満月に照らされる海のように輝く黒髪に縁どられた白い顔に収まる、凍えるような二つの蒼。そこから放たれる熱が、私の心中に渦巻く一切の不浄を焼き尽くす。彼女は浄らかな獣だった。


想 先 食

日に光る朝露に濡れた蕾があまりにも誘うので、思わず指先で触れそうになる。「この花はとても弱いから」いつかの先生の教えが頭に浮かぶ。彼に大切に想われる幼い花に胸の内が澱んでいくような気がした。とっさに目の前の赤を引き千切り、朝露を散らすそれを食み込む。私は蕾の様な乙女にはなれない。


優 欲 傷

一心不乱に、筆の折れそうな勢いで先生は残酷劇を綴っていく。先生は私の過去を文学として表現し、私が私の過去の傷を客観視することで何らかの折り合いをつけられると考えているのだ。まったく体のいい、お優しい物言いをして下さるがなんてことはない。結局私は、先生の創作欲求の餌にすぎないのだ。


獣 白 男

庭に面した大きな窓辺で本を開くと、大きな獣がくるようになった。狼に似た獣の茶の毛皮は、所々白い物が混じるが柔らかく指通りがよい。何度も撫でている私の膝に顎を乗せ、早く本を読めと催促する。この奇妙な獣には老練の雰囲気があるのだが、どこか小さな男の子を相手にしている気になってくる。


声 罪 人

どれだけ声を張り上げても、誰にも届きはしなかった。ひたすらに周囲の避難を、弾劾を浴び、地に伏す他なかった。人々の視線が槍となり身を貫く。己はそこまで許しがたき所業を犯したであろうか。ただ信念に従っただけというのに。 Q、彼はどんな罪を犯したのですか? A、女子更衣室を覗きました。


眠 感 卵

目を覚ますと布団の中に卵があった。眠気の残る頭でそれを手に取る。私のこぶしよりもやや小さく、両手にすっぽりと収まる大きさだ。色は白いが冷たいような感じは無く、頬に寄せるとほんのりと温かい。「あ、」ひとつヒビが入ったと思うとあっという間に砕け、中に一昨日亡くなった恋人が入っていた。



次の漢字を全部使って文章作れったー

https://shindanmaker.com/128889

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