81~90

大 楽 困

5時を知らせる音楽が響く公園の隅で、一人の男がしゃがみこんでいた。土に膝をつき、大きな背を丸め、手の中を見つめている。時折あたりを見渡す。誰もいないことが分かるとため息をつき、再び手のひらを見つめる。彼は困っていた。彼の手の中にはふにゃふにゃと頼りない、小さな子猫が眠っていた。


断 掘 態

遥か上から注ぐ薄明かり以外、外界から断絶された暗闇の中、岩混じりの土を素手で掘り続ける。爪は割れ、肉が削がれても決して止まらなかった。ぜいぜいと息をつき、土砂の中から、この救いのない状態から逃れようと必死でもがく。「もうやめなよ」一人きりのはずなのに、すぐそばから声が聞こえた。


快 射 陰

閉じた空間に離れた声は響かず、しかし耳元で呟かれたように生々しく不快な音だった。思わず手を止め振り返る。そこにいたのは私だった。土に埋まる前の私の姿だ。「もうやめなよ」再度、声をかけられる。その表情は幽かな光の中で陰り窺えない。恐ろしい射抜くような視線だけが爛々と光って見えた。


香 裸 絶

私が目を覚ましたそこは湖の中の美しい花園だった。裸足の足は冬の寒空のように澄んだ水に浸かっている。周りの花は浅い湖からほっそりとした茎をしならせ、銀の燐光を散らしながら揺れていた。一輪一輪が気絶しそうなほど香るのに、身を包むのは深い安堵と、どこまでも心地よい暖かな風であった。


射 力 立

肉の晒された両腕に力がこもり震える。膝をついていた体がバネのように勢いよく立ち上がる。しかし言葉も出ない。射殺さんばかりのその視線に震えが止まらない。そんな私に私が話しかける。「お前はもう」やめろ、やめろ言うな。「私はもう死んでるじゃないか」足元には腐りかけた“私”が蹲っていた。


欲 性 隠

人とは業の深い生き物だ。醜悪な本性を隠そうと足掻くが、生まれ持つ性質ゆえに決して幸福にはなれない。たとえ望みが叶っても満たされず、己の欲に焼かれながら飢えと渇きの砂漠で永遠にもがき続けている。ブツブツと喧しい隣人を横眼で見る。犬も色々考えているのだと知り、一声にゃあと鳴いてみた。


抜 温 恥

安穏とした空間に、私は一人蹲っている。空間と言っても壁は温かくやわらかで、私に対し隙間なく張り付き身を包む。恥も外聞もなく、私はこの小さな心地よい世界に身をゆだねる。しかしそれも終わりだ。終わりにしなければ。自らの意思で、広い世界に身を投げるのだ。私は勢いよく布団から抜けだした。


晩 液 中

明晩出立するとの噂を聞き、急ぎ街道を駆ける。いつもそうだ。彼は何も言わず支度を済ませ、ここへ来たときのように静かに去ってゆく。雑踏の中を縫うように彼の宿場を目指す。彼の姿を見ると目の奥がかっと熱くなり、逆に沸騰しそうだった血液は凍るような思いだった。私も連れて行ってほしかった。


放 好 冷

今年も彼の好きな季節がくる。ちらちらと瞬き降り積もる雪、それを見つめる友人に目を向ける。窓に顔を寄せ、表情は窺えないが今にも飛び出しそうな様子は伝わってきた。「冷えるだろうが」ソファに打ち捨てられた毛布を放る。「冬は嫌いだ」吐き捨てるように呟いた音は燃える暖炉の中に溶けて消えた。


優 濡 声

おとぎ話を夢見る子供がそのまま大きくなったような子だった。優しいばかりでない世界を疑うことなく、そして信じたすべてに裏切られる。いつも声を震わし、頬を濡らしている。哀れな子、悲しい子。妖精でも魔法使いでもなんでもいい、誰か目の前の女の子を笑わせて。もうここにはいない私の代わりに。



次の漢字を全部使って文章作れったー

https://shindanmaker.com/128889

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