71~80
思 純 汗
だくだくと流れる汗を強引に拭う。この区の気温は日ごと上がり続け、真昼の日向なんぞは50度にもなった。太陽の発熱装置が故障したという知らせは、どこの掲示板にも貼られていない。海に行こうと思ったが、同じことを考える人間は多く、純度の低い黒く濁った油の様な所しか行ける施設はないだろう。
悪 肉 悲
暗がりの中、一人の少女が蹲っていた。まだ幼いともいえる小さな体を、ほっそりとした白い腕で強く抱いている。「うう……」その声は少女の方から聞こえていた。悲しみか、害悪に対する恐怖か、今にも消えそうな幽かな悲鳴。「うう……ううう」しかしそれは、少女の傍らの肉塊から聞こえるらしかった。
息 変 強
本棚の影、少女は本を閉じるとほう、とため息をついた。「やっぱりいいなあ、私もこんな恋がしてみたいなあ」細く長い指で表紙を撫でまわす少女の影がぐらりと揺らぎ、形を変えてゆく。「お前には無理だな、一生」くるくるととぐろを巻く様な声が影から響く。少女は鼻を鳴らすと影を強く踏み付けた。
楽 快 温
握り潰されたかのように醜くひしゃげた翼を、軽くゆすってみる。ただでさえ歪んでいた背中のそれは、1年前の病気を機に全く動かなくなってしまった。なんの役にも立たないくせに体と変わらず温かく、羽は周りの不快な視線にもめげず柔らかだ。せめて見た目だけでもまともなら、少しは楽だったろうに。
態 暇 荒
今日も町は熱い日に照らされていた。私の居住区は荒廃した集合住宅が執拗なまでに寄せ建っている。皮膚に纏わりつく熱気は逃げ場を失い、住民は生理的嫌悪から逃れられない状態が続いていた。空調の効いた店のある区もあるのだが暇はあっても金はない。皆少しでも風通しを求め屋上へと足を運んでいた。
赤 変 情
さりさりと湿った音を立てながら銀が滑る。武骨な手の内でまわる小ぶりな球体、その赤と黄に色分けされたリボンは途切れることなく終点を迎えた。「ん、」表情一つ変えず、そのまま差し出されたリンゴに思わず面食らう、受け取ればその手はまた皮をむき始める。リボンを綴るその手に飽きることはない。
中 肉 大
ケーキを口の中に入れた瞬間、舌先に広がる酸味に眉をひそめる。いつまでも好きにはなれないそれを飲み込み、クリームを舐めて舌を癒す。大多数の人間はこの紅く瑞々しい果肉から染み出すそれが、ナイフのように味蕾に突き刺さる人間もいるのだと理解しない。味覚ほど相互理解から遠い物はないだろう。
濁 背 思
川底に背を付け、水面を見上げる。口から洩れる気泡が緩やかな流れにそってちらちらと昇っていく。反射を繰り返す太陽の光は私のいる所まではっきりと届かず、静かな明かりと時折石の転がるころころとした音が何とも心地よい。このまま川に溶け混ざりたかったが、澄んだ流れを濁すのが忍びなく思えた。
口 溶 出
彼女の息が白く透き通る。何重にも巻いたマフラーに口を埋めるが、剥き出しの耳は赤くかじかんで痛々しい。懐炉でも買おうかと思っていたらいきなり手を掴まれ、気が付いたら彼女のポケットの中にいた。「あなたの手ってすごく冷たいの」寒がりさんなのね。握られた左手が今にも溶け出しそうだった。
欲 放 難
どれだけヒトの皮を被っても、己が獣であることから逃れることはできなかった。何度も何度も穿ち、砕き、引き裂こうとも、己の内側から湧きあがる欲は業火となって燃え盛っていく。いつの間にか砕けていたのは私だった。ぼろぼろになった私の意識を難なくすり抜け、解放された獣の性は走り続ける。
次の漢字を全部使って文章作れったー
https://shindanmaker.com/128889
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