61~70
人 口 顔
目の前でぐわ、と開いた口に思わず顔が引きつった。人目も憚らず欠伸とは、むにゃむにゃと口を動かす友人の顔をつい見つめてしまう。友人は私の不躾な視線を気にも留めないのか、そのまま手元の模型パズルに目を落とす。ふと、宇宙人も欠伸をするのだな、と無駄に脳細胞を消費した気になってしまった。
愛 肉 掘
しんと静まりかえるそこは光は届かず、黒すら染まりそうな闇の中だった。闇は私の全てを温かく包み込み、他の何よりも愛を与えてくれた。あるとき私の世界を侵す者が来た。湿った土を掘り返し、棺を穿つ。男が何事か呟くと私の骨に血肉が通い、目を開かせた。そして私は眩く冷たい現世へと蘇ったのだ。
魔 抱 乱
目の前の宇宙人は模型パズルを組み終えた後、今度は雑誌の数独を始めた。喫茶店での同行人に対しお構いなしである。私はやや虚しいような感情を抱きながらも、怒りに乱れるようなことはなかった。彼から見れば私も暇な宇宙人で、変人なのだ。それに嘘も誤魔化しもない、この関係を私は気に入っていた。
陰 夜 下
どんな事にも、必ず終わりは来るのだ。月面舞踊会も夜明けを迎える。頭上に浮かぶ地球にはもう日の光が差し始めている。あれだけいた兎たちも、どこか岩場の陰に帰ったのかもう数える程しかいない。私たちも日の下へと戻らねばならないのだ。不安はない。楽しい事は終わっても、思い出はいつもそばに。
熱 晩 爆
絶え間無く続く爆撃と襲い掛かる熱風に身を晒される日々はあっけなく終わりを迎えた。王樹が噴き出した種は瞬く間に星を覆い尽くし、養分を求めて生物の中でも我々にのみ取り付いていく。星の管理者「王樹」に、我々はいらないものだと判断されてしまったのだ。早く、早く、明晩までにこの星を出ねば。
腹 恋 味
腹の内で穏やかでない情動に熱され、重く濁る感情の渦を押し広げながら絶え間無く湧き出る泡にも似たそれは、澄んだ理性を暗く侵していく。ぐらぐらと煮え立つようなこの感覚、それが何が知りつつも決して認めることは出来ない。口内に広がる血の味を噛み締める。そうだ、こんなものが恋であるものか。
勢 子 濁
勢い良く駆ける小さな影を見送る。柿色の陽光を背に、帰りを待つ者のもとへと走る子供らの瞳はきらきらと輝いている。濁りない青の空や白い雲が薔薇色に染められ、日が沈むと影や金剛石の様ないくつもの輝きと交わり、深い紺色の夜空となる。街灯の光にかすむ星々を眺めると、無性に泣きたくなった。
棒 乱 口
空は青く、陽光は喝采の如く降り注ぐ。先日まで見かけた積乱雲はどこにも見当たらない。一人、甘いチョコに包まれた棒アイスを口いっぱいに頬張り噛み締める。キン、と鼻の奥が冷たく痛むのも、あっけない地球の最後を思えば疎ましいとは感じない。現在11時25分、あと一本分の時間はあるだろう。
決 性 溶
そのあまりの眩い姿に、彼女のなかに秘められた化生の性に、こみ上げる情動を抑える術はない。蜜色の日が溶け込む白い肌。一糸に至るまで狂いなく靡く黒の絹髪。空の青さを映す瞳は、揺るぎない決意と共に凛と前を見据えている。やはりこの人だ、この人しかいない。私の仕える主、唯一の愛すべき妻よ。
裸 顔 棒
精悍な顔の中に納まる長い睫毛に彩られた瞳から、棒立ちのまま目をそらす。この目は嫌いだ。何もかもを見透かすような、静かで透明なこの目が、私は恐くてたまらない。人の暗く淀んだ内面を裸に暴いて刺し貫く、刃のような意思。圧倒的な正しさの前に私のような凡夫は立ち続けることすらままならない。
次の漢字を全部使って文章作れったー
https://shindanmaker.com/128889
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