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無常なり七変化
枯れた花が好きだ。正しく言うと枯れていく花が好きだ。ドライフラワーではいけない。自然に、あるがままに、日々の変化をこの目で楽しむのが好きだ。特に紫陽花が好きだ。青に、白に、紫に。色とりどりの美しい毬のような形を成す蕚片が、うすらぼけて茶色く染まり、萎びていく。されども君は美しい。
野望持つ気高き美
私にとって彼女は立葵のように見えた。凛と立つその姿。どんなに遠目でも彼女だとわかる存在感。人々を惹きつけてやまぬのは、多くの蕾をつけるが如くだった。彼女に付き纏う凡俗な輩はさながら虫である。そんな輩であれど彼女が指先を振るえばどんなことでも成し遂げる。すべては彼女の願いのために。
変わらぬ愛と気品をそのままに
星、星、星。紫色の綺麗な星雲が目の前に広がる。綺麗な五芒を抱く桔梗の花だ。風がそよぎ、豊かな香りを胸いっぱいに吸い込む。この花は咲く場所が限られていて近ごろ見ることは稀らしい。けぶる睫毛に乗るかのような紫を手折りたいという衝動に駆られることもある。けれど君はそのままでいて欲しい。
不幸中の幸いのもとを断つ
茎に添って、ナイフをそっと滑らせる。茎を傷つけないように、棘だけを落とすように、柔らかくそっと撫でる。薔薇の棘は、その花の美しさを一層引いたてるスパイスだと思う。けれどその鋭い切っ先が、愛しいあの人を傷つけるのはいただけない。華美な姫を守る哀れな騎士は、些細なナイフで死んでいく。
純粋無垢に穢される
噎せ返るような香りが部屋を支配する。カサブランカの花束を貰ってしまったのだ。しかも葯が開いて花粉が露出している。よくぞまあ、花弁を汚さずここまで持ってきたものだ。器用で厄介な送り主に辟易する。そのまま指でとることにした。赤く染まる指先。花のために自分が汚れるなんて、馬鹿みたいだ。
そうすれば再び幸福が訪れる
りん、りんと今にも音がしそうな、かあいらしい鈴の連なり。白い鈴がほっそりとした茎にいくつもぶら下がり、風に揺れている。触れようとして、やめる。この愛らしい花には毒がある。触れるだけならば問題はないだろうが、この鈴蘭が自身の身を守ろうとしたが故のものならば、私に手を出す資格はない。
夢の中の恋に困惑
夢の中で会える人。桃色の草原、虹色の空。真珠色をした木の枝には甘紫色の無数の蝶が止まっていた。その木の下で、あの人は待っている。いつも、どんな時も、その穏やかな眼差しで私を見つめる。手を差し伸ばして触れようとしら、目が覚める。私は軽い落胆に酔いながら、ニゲラの鉢植えに水をやった。
真実の愛の恋占い
好き、嫌い、好き。ひらひらと散るマーガレットの花びら。嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い、好き。わたしは大好き、あなたが好き。あなたもわたしが好きなはず。嫌い、好き、嫌い。「嫌い」嘘よ嘘よ、絶対嘘よ。もう一本花を手に取る。もういくつになったか分からない。きいろな真ん中ばかり無惨に残る。
変わらぬ愛と知ればこそ
降り積もる雪の上に、軽い音をたてて雪椿が落ちていく。君が美しいといってくれた、真っ赤な花が美しいままに落ちていく。ぽとり、ぽとり。白い雪に生える赤は君の唇を思いだす。縁起が悪いといった僕に「なに、潔し」と笑ったあの顔。もう君はいない。ぽとりぽとりと落ちていく。君の首が落ちていく。
太陽よ、明日も爽やかに
まだ星明りの入り交じる空の下で夜明けを待つ。だんだんと暗い夜が明けて、星が逃げ出す。夜を薄めた青い空に赤い色が入り交じり、何とも奇妙な光景だった。太陽は静かに昇る。金色の光が青を突き刺す中、朝顔がひとつ、またひとつと開き始めた。赤、青、紫、白いのまで。太陽のように開いていくのだ。
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