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テーマ「露店」


花売り 君の香は

学校の帰り道、昨日までなかった露店に気がついた。ゴザの上に男が座り、その前には花がいくつか置いてあった。赤、黄、青。値札には全て10円と書かれている。いつの間にか10円払い、青い花を買っていた。家に帰り鼻を近づけると、昨日転校した幼馴染の匂い消しゴムの香りがし、なんだか涙が出た。


石売り 君の身に

狭い路地裏で露店をやっていた。こんなとこに客は来るのかと思いつつも何故だか惹かれる。ゴザの上に、手に収まるほどの石がいくつか置いてある。値段は10円。おもしろくなって適当に選び石を買った。翌日、トラックにひどく撥ねられた。けれど体に異常はなく、ただ昨日の石だけが粉々に砕けていた。


指輪売り 君の指で

早起きした登校中、指輪が並ぶ露店を見かけた。ひとつ10円。玩具でも何でもない、綺麗な指輪。一つ手に取り、つい買っててしまった。結局いつの間にか失くしてしまったのだけど、特に気に留めなかった。あれから10年。「僕と結婚してほしい」そう言って彼が差し出した指輪は、あの時の指輪だった。


瓶売り 君の笑み

会社の帰り、露店をやっているのを見た。ゴザの上に男が座り、瓶が3つほど置いてある。その中に幼い頃、母から貰った瓶詰の金平糖があった。「しあわせのくすり」と母の字のラベルが貼られた、あの瓶が。値段は10円。迷いなく金を払いすぐに口に含む。全く同じ味。幸せなはずなのに、涙が出てきた。


鉛筆売り 君の傍に

公園で友達と別れた時、露店があるのに気づいた。遊んでいるときは気づかなかった。男がゴザの上に座り、鉛筆が並んでいる。値札には10円とある。ちょうど鉛筆が短くなってきたので買った。あれから10年。とっさにメモを取りたい時や、ボールペンのインクが無くなった時、いつも鉛筆は傍にあった。


夢売り 君の眠り

自販機の隣で露店をやっていた。ゴザの上にノートが3冊置いてあり、表紙に「夢」と書かれている。値段は10円。適当に1冊とり買って帰った。見ると中身は夢日記だった。怪物が出るあたりでノートを枕に眠ってしまう。その晩、怪物に追われる夢を見た。目を覚ますと、ノートからその夢は消えていた。


卵売り 君の友に

夜、コンビニの帰りに来るときは無かった露店があった。ゴザの上に様々な色や模様の卵が置いてあり、1個10円とある。面白半分にひとつ買った。家に帰りカップ麺に湯を注ぐ。ひよ。部屋の方でなにか聞こえる。見ると卵と同じ模様のひよこが鳴いていた。「ここ、アパートだぞ」ひよ。また一声鳴いた。


笛売り 君の音よ

神社の裏で露店を見つけた。ゴザの上にはいろいろあった。大きなもの、小さなもの、それぞれに穴がいくつも開いている。立て札に『笛、10円』とあったので小さな笛を買ってみた。その場で吹く。が、音は出ない。しかしなんだか、木々のざわめきや鳥の声が身に沁みてくる。そうか、そういう笛なのだ。


鈴売り 君の為に

お祭りから離れた所で露店をやっていた。ゴザの上には綺麗な組み紐に繋がれた鈴が置いてある。値札は全て10円だ。手に取るが鈴が鳴らない。まあ紐のおまけなので気にせず買った。10年後、年季の入った鈴がりん、と鳴った。足を止めると目の前に多くの鉄パイプが降ってくる。鈴はもう鳴らなかった。


本売り 君の話を

露店に並べられた本を手に、客は値札を見る。1冊100円だ。全9話の物語に書かれた店に出てくる品物は全て10円だった。「ならばこれも90円でいいだろう」ゴザの上の店主に問えば、店主は黙って値札を指した。ふん、と鼻を鳴らし100円払う。途端、最後のページに本売りの話が浮かび上がった。



※覚書


https://kakuyomu.jp/users/kiyato/news/16817330654175548468

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