第43話「英雄ヨサク・ヘイヘイホ」

 それからが大変だった。

 オールデン王国の北方ノースサイドで人知れず破壊神シャイターンが復活していたということ。


 そして、そのついでみたいな勢いで王都がギリギリで滅びをまぬがれたこと。

 なにせ、その危機は破壊神が開けていった巨大なクレーターという形で目の前に見えるのだ。


 十万人を超える人間の住む王都が、ひっくり返る話となった。

 人々が好奇と驚きの目を向けるのは、ヨサクである。


 勇者パーティーはよく知っているが、ヨサク・ヘイヘイホとは何者なのか。

 突然現れて、最後の魔王どころか破壊神シャイターンの封印にまで関わったヨサクの話で王都はもちきりとなった。


「いやあ、大変だったよ」


 久しぶりにあった魔女リタに、ヨサクは語る。

 王宮の事情聴取のあと、人々はヨサクの話を聞きたがった。


 金持ちの商人やら、暇を持て余した王都の貴族やらにパーティーに誘われて、そのたびに話し下手なのにスピーチをさせられたりして困り抜いた。

 もしかしたら、戦いよりたくさん冷や汗をかいたかもしれないくらいだ。


「ハハッ、わかるで。王都の貴族は、単純に話を聞きたいだけやなくて下心ありやな」

「下心?」


「有名人をパーティーに呼べたと自慢するならまだ良い方で、ヨサクが新しい勇者の先生マスターやから、新しい有力者になるかもしれんと思って自分の陣営に引き込もうって腹のやつもおるな」

「まさか」


 魔女マヤたちにも、そういうことがあるのだという。

 いやはや、ヨサクには想像も付かない世界だ。


 マジックバックを持っていたおかげで、ちゃっかりと豪華な料理をいただいたので、村に持って帰るお土産ができたのはよかった。

 綺羅びやかな王都の街も、死ぬまでに一度は目にしてみたいと思っていたので、観光を楽しんでいた気持ちもある。


 ただ、そんな生活が数ヶ月にもなると、次第に望郷の念にかられるようになった。

 早いもので、季節はもう年を越えて春の足音が近づいてきている。


 厳しい冬の間、村のみんなは元気にやっているだろうか。

 そんなことばかりが気にかかるようになった。


「ヨサク様、故郷に帰られるのですか」


 聖耀せいきの聖女クラリスが言う。


「ええ、もう帰ります」

「では、途中までご一緒しましょう」


 なんでも聖女クラリスは、戦いで傷ついた地域を周って人々を癒やす慈善活動をしたいのだそうだ。

 ヨサクが帰るのなら、そのついでにというわけではないが、まず北方ノースサイドから始めたいと言う。


「何か俺も手伝いできることがあれば、手伝いますよ」


 魔女リタが笑う。


「あかんで、そんな安請け合いして、またとんでもない冒険に巻き込まれるで」

「いや、聖女様のはおとなしいものでしょ」


 わからんぞと笑う。

 怖いことを言わないで欲しい。


「あら、ヨサク。帰るんですの?」


 そこにやってきたのは、やたらゴテゴテと豪奢なドレスを着たシャルロットだ。

 このちゃっかりものの小領主は、ヨサクを追いかけてすぐリリイ伯爵夫人と王都にやってきた。


 事情聴取として現地の貴族の話を聞くという名目だったのだが。

 シャルロットは、自分も破壊神との戦いに協力したと話を盛りに盛って、国王オットー二世陛下に直々に謁見を果たして、見事ルーラルローズ男爵家の正式な領主に認められたのだ。


 最下級の貴族とは言え、これでシャルロットも王国の直臣。

 正式な独立貴族である。


「お前も、先生と一緒に帰るんだよシャルロット」


 すっかり仲良くなった勇者フレアが、シャルロットをとっちめる。


「えー、わたくしはここでもっともっと、永久に贅沢していたいですわぁあああ」


 そう言いながら、得意げにウサギ耳を揺らしてシャルロットが密かに荷造りの準備をしているのは知っている。

 現金な一面はあるものの、領民思いの良い小領主なのだ。


 きっと、新しい領地運営に必要な品々をいろいろと買い込んでるに違いない。

 フィアナのばあさまが言う。


「それで、勇者フレアよ。おぬしも、オルドス村に帰るんじゃな」

「うん」


 今日は、そのために国王オットー二世陛下に謁見に来たということもあるのだ。

 みんなが揃ったところで、謁見の間の扉が開いた。


 仰々しい格好をした城の衛視が言う。


「国王陛下がお会いになります。みなさま、どうぞこちらへ」


 大臣や廷臣達が居並ぶなか、赤絨毯の上をヨサクはみんなの後についてぎこちなく進むのだった。

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