第42話どんな手段であろうと勝ちは勝ち

 真っ白い世界に、ギュンターが立っていた。


「ヨサク、オレはオマエが気に入らない。こうやってバカみたいなやり方で何とかしてしまうオマエがな」


 ヨサクは言う。


「でも、こんなやり方、ギュンターも気に入らなかったんじゃないか」


 酒を一緒に飲んだときにギュンターは言ったではないか。

 世界一優れた剣士として認められたいんだって。


 認められたいってことは、認めてくれる人が必要になる。

 だったら、世界を滅ぼして良いはずがない。


「オレは、親父のような強い男になりたかった。全てに打ち勝てる強い男に」


 だからこそ、勇者フレアに敗北感を覚えて、魔剣を通して破壊神シャイターンに魅入られてしまった。

 最強の力を与えるという闇に引きずり込まれた。


 全ては、ギュンターの心が弱かったからだ。


「そうじゃないよ。ギュンターは、死毒剣で何度もボクたちのピンチを救ってくれたじゃないか」


 フレアは言う。

 ギュンターがいたからこそ、勝てる戦いがあったと。


「ギュンター、ボクはまだお礼も言ってないんだよ」

「オマエ……」


 ギュンターの心の弱さのせいで、死毒剣で刺されて死にかけたのに。

 それでもなお、ギュンターに手を伸ばしてそう言えるフレアはどれほど強いのか。


 ギュンターは、恥ずかしさをごまかすように叫んだ。


「オマエ、なんなんだあの斧は! オマエが勇者なんだから、神剣を使えって何度も言っただろ」

「あれが、ベストだとボクは判断した。ちゃんと考えてやってるんだよ。ギュンターが言ったんじゃないか」


「オレが何を」

「どんな手段を使ってもいいから勝てって、勝てなきゃゴミなんでしょ」


「……」

「ほら立ってよ。これは、ボクたちの勝ちだよ」


 そのとおりだ。

 勝たなきゃゴミだ。


 プライドが山より高いギュンターは、吐いたツバは絶対に飲めない。

 だから、ここで破壊神シャイターンに、負ける訳にはいかない。


 ギュンターは、ヨサクとフレアに手を捕まれ、ゆっくりと引きずりあげられた。

 意識が現実へと戻っていく。


「……だから、オレはオマエラが気に入らねえんだ」


 だって、こんなやり方、最悪だろう。

 しかし、不思議と悪い気持ちはしなかった。


 どんな手段であろうと、勝ちは勝ちだからだ。


     ※※※


 砕かれた邪神の欠片がキラキラと舞い散り、そのまま世界へと散っていく。

 ヨサクの予想通り、ギュンターの身体は元の人間へと戻っていくが、破片がどっかいっちゃったのは大丈夫なんだろうか。


「これで、封印できたんですか?」


 ヨサクは聖女クラリスに聞く。


「はい、もともと神は殺せないのです。ですから、こうしてちりとなって散っていくのも封印の一つの方法です」


 もしかしたら、バラバラにして山に封じるよりも、長い期間封じ込めることができるかもしれないと説明される。

 その理屈は納得できないこともないのだが……。


「……かもしれない」


 ヨサクが不安そうに言う。

 魔女リタも、ヨサクに目配せにうなずいてから言う。


「前々から思ってたんやけど。クラリスも、フィアナ様も、教会関係者って実はなんとなくの空気で言ってるやろ」


 フィアナのばあさまは、こほんと咳払いしておごそかに言う。


「これもまた、天神オーダスターの導き」

「やっぱそれ、いい加減な感じで、だいたいの勘で言ってるやろ」


 相手は教会総教主オーダーと知りながら、つい耐えきれずにツッコんでしまった。


「ところで、ギュンターをどっかまともなところで休ませてやりたいんだけど」


 服がボロボロになってほとんど素っ裸みたいな状態だったので、とりあえずヨサクが外套コートを脱いで着させている状態なのだ。

 救援とか呼んだほうがいいんじゃないかなと言うヨサクに、魔女リタは大丈夫だと答える。


 これだけの騒ぎを起こしたのだ。

 王都から、偵察の兵士がこっちにやってくるところだった。


「あー。しかし、これどう説明したらいいんやろ」


 魔女リタの他に誰も、何も考えてないので、どう報告するかまた頭を悩ませることになったのだった。

 ちなみに、破壊神シャイターンが王都の近くに開けた大穴は、さっそく川の水が流れ込みつつある。


 やがて、王都に匹敵する大きさの大きな湖となるのだが、それはしばらく先の話である。

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