第41話「破壊神シャイターン」

 悠然と飛んできたシャイターンは、どこから破壊しようかと考えていたが、やはり王都からであろうと狙いを定めた。


「お前も、あの忌まわしき街には恨み真髄であったからな。ギュンターよ、綺麗サッパリなくなれば、さぞ気持ちよかろう」


 破壊神シャイターンは、面白そうにギュンターに声をかけた。

 王国随一の剣士となり王国に尽くし続けたのに、ギュンターは勇者のおまけの扱いしかされなかった。


 本当はギュンターこそが、勇者に選ばれると思っていた。

 それなのに、あんな子供にその座を奪われて、あまつさえ勇者の先導者マスターを任されて育てさせられる苦悩はいかばかりだっただろうか。


 紫王蛇の呪いがかかった死毒剣を使い始めてから、ギュンターはゆっくりと邪神に精神を侵されていた。

 表面上は誰より誇り高いプライドと自負を持ちながら、心の奥底では世界を壊したい願望を持っていたギュンターと、破壊神シャイターンの魂は共鳴したのだ。


 そうして、聖女クラリスより邪神の欠片をすり替えて奪っていき。

 最後の欠片を得て、ギュンターの身体に破壊神シャイターンは降臨したのだ。


 禍々しき黒いエネルギー体が、破壊神シャイターンの手に集まってくる。


「あとは、心のおもむくままにこの世界を破壊し尽くすのみ! 破壊神の裁きシャイターン・カタストロフ!」


 これで終わる。

 莫大な破壊の魔力を込めた黒球をゆっくりと王都の真ん中に向けて放った。


 そこに、聖女クラリスの声が響く。


「天神オーガスター様! か弱き我らをお守りください! 聖光絶壁ホーリーライト・ディフェンス


 聖なる光が、黒球にぶつかり、ほんの少し軌道を変える。


大光防壁アークライト・ディフェンス

最上級獄火炎ハイグレート・エクスプロージョン! 最上級獄火炎ハイグレート・エクスプロージョン!」


 続けざまに、フィアナのばあさまと、魔女リタの魔法連打で破壊神の魔法を打ち消すことはできないけど、なんとか少しだけ軌道を変えることに成功する。


 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオ!


 破壊神の技は、文字通り地表ごとえぐるように地面を消滅させてしまった。

 あんなものが王都に当たっていたら、終わりだった。


「あちゃあ」


 王都の隣に巨大なクレーターが空いてしまったが、消えるよりはずっとマシだろう。


「見逃してやったというのに、不愉快な連中だな」


 ヨサクが、破壊神シャイターンを挑発する。


「そんな事を言って、神剣が怖いんだろう」


 さっき逃げたもんなと言い放つ。


「そんなに最初に死にたいのか。ならば相手をしてやろう」


 破壊神シャイターンはゆっくり地表へと降り立つ。

 すると、あたりの草木は枯れ果てて、漆黒のリングができあがる。


 みんなを降り立たせた、魔女リタはヨサクに尋ねる。


「それで、挑発してとりあえず同じ土俵に立たせたけど。なんか破壊神を倒す方法があるんか?」


 もうすでに、奥の手だったマナポーションも使い果たして、からっけつなんやけどと魔女リタは言う。


「それはちょっと思いつかない」

「なんやねんそりゃ!」


 破壊神シャイターンに勝てないことは、さっきわかった。


「けど、きっと俺たちが勝つんじゃないんだ」

「じゃあ誰が勝つんや。勇者フレアか?」


 フレアは、違うと首を横に振る。


「先生は、破壊神を倒そうじゃなくて、ギュンターを助けようって言った」


 破壊神を倒そうでも、殺そうでもなく、ヨサクはギュンターを助けようと言ったのだ。

 それが、凄惨を見続けてきたフレアには心地よかった


「そうか、あの身体はギュンターのままか」


 魔女リタも、ようやくヨサクが何を言っているのかわかった。


「俺を見たときに、一瞬ギュンターの顔に戻っていた」


 ヨサクは、よく見ている。

 この短い間に、ギュンターの人となりを把握していたのだ。


「せやな、あれはまだ半ばギュンターか」


 こんな見え見えの挑発に乗るあたり、確かにそんな感じはする。

 だから、破壊神シャイターンに打ち勝つとすれば、勝てるのはギュンター自身なのだ。


 相手が本当の破壊神であれば、こんな風にふざけた調子で対等に話せるはずもないのだから。

 破壊神シャイターンは、イライラしながら言う。


「まだペチャクチャやってるのか、作戦会議はもう終わりか」

「あと少し待ってくれ」


「くどい!」


 怒らせれば怒らせるほど、超然的な神ではなくギュンターの顔が覗いて見える。


「フレア、破壊神を足止めして一瞬だけでも気をそらせるか」

「やってみる!」


 鉄の斧と、ギュンターが落としていった紅王竜の牙の剣をもって、双剣ならぬ斧剣の構えで迫る。


「面白い両手武器ならば、両手武器で相手してやろう。漆黒双剣ジェットブラック・ツインソード


 破壊神シャイターンは、勇者フレアに合わせて双剣をクリエイトして構える。


「クラリスさん、ばあさま、神剣にさっきの封印魔法ってかけられるか」

「やってみます!」「心得た」


 封印の魔法をかけてもらった聖剣を、ヨサクはものすごく変な構えで持った。


「ええい、勇者は神剣を使わんわ。ヨサク、お前は一体何のつもりなのだ。バカなのか!」


 勇者フレアと両手武器でぶつかりあっている破壊神シャイターンが、思わず突っ込まざるを得ないようなポーズだ。

 まるで斧で今から木を切り倒そうと言う構えで、神剣を握っている。


 戦いに美学を持っているらしい破壊神が、文句を言わざる得ない状況。

 おかげで、フレアとの剣の撃ち合いに集中できない。


「俺は剣が下手だから、一番慣れた攻撃でいかせてもらう。ギュンター、いくぞ!」

「我は破壊神だと言ったっ!」


 フレアも凄まじい勢いで斧と剣をぶつけあいながら、挑発して叫ぶ。


「ギュンター正気に戻って! これがギュンターに教えてもらった双剣術だよ!」

「オレはそんな技教えてねぇ!」


 なんなんだこれは、破壊神と勇者の世界の命運をかけた最終決戦ではないのか――。


「いまだ!」


 狙うは、破壊神シャイターンの胸に輝く邪神の欠片の塊。

 ヨサクの振りかぶった神剣が、破壊神の胸に見事にクリーンヒットした瞬間。


 何かが砕ける音がして、眼の前の視界は真っ白になった。

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