第35話「ヒルダの街の危機」

 オルドス村を襲ったと同時にヒルダの街を攻撃。

 魔王戦を前に、連続で二度もモンスターの増殖があるなど想定していなかったので油断した。


 これも、一種の陽動作戦なのだろうか。

 しかし、最後の魔王の意図がどうあれ、勇者パーティーは民を救わなければならない。


 勇者パーティーは魔女リタが「燃費悪い!」とか文句を言いながら、飛行魔法で飛んでいく。

 ヨサクは、神獣シンに乗せてもらってヒルダの街に向かった。


「うわ、大変なことになっているな」


 ヒルダの街は、オルドス村と同じようにモンスターの軍団に囲まれていた。

 ハイゴブリンやハイオークなどの指揮による、組織的な攻撃。


 しかし、人族の側も負けてはいない。

 ヒルダの街には、オルドス村と違ってきちんとした防壁がある。


 その街を守る兵士や冒険者たちは、名工であるミゼット爺さんが作った紅王竜の素材を使った最強レベルの装備を身に着けている。

 そして何より、きちんとした統制があった。


 街の広場に立ち、領主代行であるリリイ伯爵夫人自らが指示出している。


「避難民は街の真ん中に、兵士と冒険者の皆様は街の門で食い止めてください。助けは必ず来ます!」


 防壁の上では、休みなく兵士たちが弓を撃ち浴びせて敵を減らしている。

 城門を守る冒険者の中に、ヨサクの教え子Cランク冒険者のフランクとグレースの姿も会った。


「必ず助けがくるってよ!」

「ヨサクさんだろ。きっと、なんとかしてくれるさ」


 門を破って入ってこようと殺到するゴブリンやオークたちを、押しては引いてを繰り返して倒していく。

 この状況を飛行の魔法で空から俯瞰ふかんして、魔女リタは言った。


「勝った! 勝因は、持ちこたえてくれたヒルダの街やな」


 ギュンターは、ぼやいて言う。


「ほんとかよ。リタの勝ったは毎回信用できねえ」

「ヒルダの街が、モンスターの軍勢をきっちり引き止めてくれてるから、あとはその外側から挟み撃ちするだけで勝てる!」


 勇者パーティーは、一つの街の軍団以上の戦闘力を持っている。

 四人揃えば、包囲殲滅すら可能。


「じゃあよ、あれはどうするんだ?」


 ギュンターが指を指す先に、とんでもないものが目に入って魔女リタは仰天する。


「ギガントサイクロプスやと!」


 全長十メートルは越えようかという一つ目の巨人であった。

 ただでさえ厄介なサイクロプスでも、最上位種に君臨するギガントサイクロプスは、ほとんど魔王クラスの実力を持っている。


 神話の時代に、もともと神の種族だったものが魔物に落ちたとすら言われているのだ。

 あの一撃を食らっては、防壁などもろくも叩き潰されて全滅だ。


 しかも、それが二体も。

 ギュンターは言う。


「こんなこったろうとおもった、ギガントサイクロプスの弱点は目だ。オレと、フレアがやる」

「いけるんか」


 魔王と単体で戦える勇者フレアと違い、ギュンターには人としての限界がある。

 一人であんな化け物を倒せるわけがない。


 しかし、ギュンターは叫んだ。


「オレをあまり舐めるな! あのギガントサイクロプスは、意地でもオレがやる。あとは、下の連中に任せりゃいいだろ」


 それにフレアも、「先生ならやる」と言った。

 あとは、ヨサク頼みか。


 どのみち考えている時間はない。

 味方のモンスターすら関係なく踏み潰している二体のギガントサイクロプスが防壁に到達したら、ヒルダの街は終わりだ。


「わかった。フレアと、ギュンターをギガントサイクロプスに飛ばすから、構えろ!」


 魔女リタの飛行魔法で、勇者フレアとギュンターは、それぞれギガントサイクロプスの頭に飛んでいく。


「てやぁああああ!」


 そのままの勢いで、勇者フレアは斧を振りかぶってギガントサイクロプスの頭に叩きつけた。

 それはまるで、神話に出てくるような光景。


 十メートルを超える巨人が、小さな少女の振り下ろした斧によって倒れていく。

 そのままドスンと地響きをならして、倒れた。


「チィ! 浅いか、ならもう一撃!」


 ギュンターの放った死毒剣は、ギガントサイクロプスの目を深く傷つけた。

 時間をかければ、倒すことも可能ではあったが、猛毒でもすぐにはしなない。


 暴れまわったサイクロプスは、ギュンターを握りつぶそうとする。

 それをからくもさけて、ギュンターは紅王竜の牙の剣で、頭にもう一撃を食らわせた。


 飛行魔法を使った後で辛いが、ここは魔力の出し惜しみをしているときではない。


上級獄火炎グレート・エクスプロージョン!」


 こんなものでは倒せないとわかりつつ、魔女リタは陽動のためにサイクロプスの下半身を狙って大魔法を放つ。

 聖女クラリスも、祈りを捧げてギュンターにプロテクションの魔法をかけた。


 ギュンターが弱点である目に二撃当てても、大魔法をぶち当ててもまだ殺しきれない。

 ギガントサイクロプスがうるさそうに振り払った手に、ギュンターが弾かれる。


 その時――。


 ボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ。


 そこに、ヨサクが神獣シンに吐かせたのであろう。

 神の炎が、ヒルダの街を取り囲んでいたモンスターめがけて撒き散らされた。


 その炎は、同じ神話生物ともいえるギガントサイクロプスの両足にもヒットして、丸太のように巨大な足を焼き尽くしていく。

 そのままギガントサイクロプスは、体勢を崩してギュンターもろとも防壁と街の一部を粉々にしつつ、崩れ落ちた。


「ギュンター!」


 魔女リタは、ギガントサイクロプスの巨体とともに粉塵を上げて落下したギュンターのところまで飛んでいった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る