第30話「天神オーガスターの導き」
いきなりギュンターに斬り込まれて、ヨサクは全く反応できない。
当然だ、ヨサクは引退した元Dランクにすぎない。
「クッ!」
ただ、立ち向かう強い意思だけはあった。
その結果、ギュンターの放った死毒の刃は、思わぬ存在によって受け止められる。
「わおん!」
「なんで、神獣がオレの邪魔をする! オマエラ全員ふざけてんのかよ……」
ヨサクを守る神獣シンに剣を咥えられて止められてしまったギュンターの一瞬の隙をついて、魔女リタが魔法を放つ。
「汝の心、夢に遊べ。深き眠りへと落ちよ!
「グッ……」
普段なら、Sランク剣士に最上位とはいえ眠りの魔法など効かないのだが、よっぽど精神に動揺が走っていたようだ。
魔女リタは、こう見えてSランク魔術師。
人間が動揺しているときに、人間を構成する
ギュンターは凶暴だが、向こう見ずなバカではない。
ちょっと魔女リタにも自信がなくなってきたが、そうではなかったはず……。
ここまで無茶な暴れ方をするところから見ても、よほど心が乱れている。
「おい、誰かギュンターから剣を奪ってくれや」
なんと、いつもおっとりとしている聖女クラリスが奪ってくれた。
「はい、これでいいですね」
今日は、凄くテキパキとしている。
先輩の聖女であるフィアナと出会えたことがそれほど嬉しかったのか。
「助かるクラリス。まったくふざけてるのはギュンターやで、事情も確認せんと暴れてくれよって」
よく考えれば、ギュンターは勇者フレアが消えてから様子がおかしかった。
なにか感じ取って焦っていたのか、それとも凶暴な本能で暴れていただけなのか。
「ともかく、問題は山積みや。ヨサク殿、そしてフィアナ
「ああ、そやつはどうする」
「ああ、どうせ短い時間しか呪文は効かへんので、今の間にこうしときます」
仮にも勇者パーティーの仲間にしのびないが、とりあえず頭が冷えるまでとそこらの縄とむしろで
そうしてると、もうギュンターは目を覚ました。
「なんだよこれ……」
「頭を冷やせってことやアホ」
「こんな縄くらい、なんてことはないぞ」
そう言うと、ギュンターは自身を縛っている縄をブチッとちぎってしまう。
だが、暴れることなくむしろを敷いて、その場に座り込んだ。
「ハァ、ようやく落ち着いたか」
「オレの剣を返せよ。落ち着かない」
「ダメや。しばらく話を聞け」
「心配しなくても、もう暴れねえ……信用しろって。マジで暴れねえから、さっさと話せよ」
今のギュンターは、まったく信用できない。
だが、魔女リタはそれより気になることがあった。この場にいる全員が気になることであろう。
なぜヨサクが、神剣を装備できるのか。
勇者以外に操ることのできぬ神獣を操っているのか。
当然の疑問である。
フィアナのばあさまが、それに答えて言う。
「まず、なんでヨサクが神剣を操れるかじゃが、あたしにもさっぱりわからん」
ばあさまの言葉に、全員がずっこける。
聖女クラリスが、手を上げて言う。
「ヨサク様も勇者なのではないですか」
それも、可能性としては考慮せねばならないだろう。
しかしと魔女リタは言う。
「それも、神話や伝承がひっくり返る話やな。勇者が一時代に二人現れることなんてないやろ」
神剣は一本。勇者も一人と決まっているものだ。
「ヨサクは、勇者ではない。ただの人間じゃよ」
そこだけはハッキリとフィアナのばあさまは言う。
「猊下、なんでわかるんですか」
「あたしは天神オーダスターの導きにより、人の運命の星が見える。ヨサクの星は勇者ではない。だが……」
フィアナのばあさまは、少し考え込んで言う。
「ヨサクの星はよく見えぬが、人を助けるものであった」
なるほどと、魔女リタは納得する。
「それで、勇者の
それにギュンターは悪態付く。
「バカげてる。オレが勇者の
それに魔女リタはうなずく。
「猊下、ギュンターの言うことももっともです。たしかにこいつのやりようは乱暴でしたが、王国随一の剣士としての実力を持ち、この五年の間に勇者の強化に成功したのは事実」
「それも、あたしにはわからん」
フィアナのばあさまのいい加減ないいように、「なんだと!」とギュンターは激高する。
「まてやギュンター。わからないなら、なぜヨサクを
「あたしには、そこまではわからんといったのじゃ。全ては、天神オーガスターの導きじゃ」
「なんだそりゃ」
「ギュンター、ちょっと待てや。フィアナ猊下や、聖女クラリスは邪神退治の専門家やぞ。なにか、うちらにはわからんお告げみたいなものがあるんやろ」
ヨサクが神剣を使えるようになっているのは無視できない。
そして、このオルドス村を特異点として、異常な事態が起こっているのは事実なのだ。
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