第28話「教会総教主フィアナ・アークライト」
ヨサクの願いが通じたのか、神剣が神獣シンに姿を変えた。
「もしかして、乗せてくれるのか」
「わおん!」
自分の背に乗って、フレアを追えと神獣シンは言っていると感じた。
ヨサクが乗ると神獣シンは、物凄いスピードで走り出した。
風が強い。
震えるほどに冷えるが、シンの背中のもこもこの毛は温かいので耐えられそうだ。
「やはり、オルドス村に向かっているのか」
「わおん! わおん!」
神獣シンにはわかるのだろう。
ヨサクも、オルドス村しか心当たりがないので、フレアが戻るとしたらそこしかないと思えた。
走っても一昼夜かかる距離。
それが、本当にあっという間に到着する。
まさに神速だ。
「フレア!」
オルドス村のあたりで、ヨサクたちは駆け抜けようとするフレアに追いついた。
「ヨサク、シン……」
フレアはヨサクの声に応えて、歩を止めた。
何事かと出てきた村人たちのなかから、杖をついたフィアナのばあさまが出てきて言った。
「勇者フレア、そろそろじゃと思っとった。勇者パーティーがきたのか」
押し黙っているフレアに変わって、ヨサクが答える。
「ああ、そうなんだばあさま。勇者パーティーが突然来て」
すっと、フィアナのばあさまは手のひらで止める。
「言わんでも、何があったかは大体察しはつく。勇者フレア!」
フィアナのばあさまの、いつになく澄んだ通る声だった。
杖をついて曲がっていた背筋も伸びている。まるで、別人のようだ。
「フィアナ様……」
「勇者フレア! 迷うことはない。すでに、おぬしの先導者はヨサクよ。そのように、オーダスター教会
なにやら事情を知っていそうな、フィアナのばあさまにヨサクが聞く。
「ばあさま、一体これはどういうことなんだ」
「ヨサクよ、お前に今一度尋ねる」
「なんだばあさま」
「お前は、勇者フレアを
「当たり前だろ。俺は一度引き受けた約束をたがえたことはない」
そうかと、フィアナのばあさまはうなずく。
「ならばよし。今は時がない、細かい説明は、おいおいじゃな」
フィアナのばあさまが空を指さしてそう言う。
なんと勇者パーティーたちが物凄い勢いでオルドス村まで飛んで追いかけてきていた。
空を飛ぶ魔法をつかったようだ。
あのギュンターという男は、Sランク剣士と言っていたが、それぞれとんでもない人たちなんだろうと鈍いヨサクにもわかった。
「
なにやら、ぶつくさ文句をいいながら魔女リタが降り立つ。
「緊急事態だろうが」
「リタ、申し訳ありません……」
剣士ギュンターと、聖女クラリスも降り立つ。
魔女リタが叫ぶ。
「うちが話さんとらちがあかんようやから聞くけど、一体これはどういうことなんや」
「こっちこそ聞きたい、一体君たちはなんなんだ」
ヨサクがそういうのに、魔女リタが答える。
「うちらは、勇者パーティーや。そこにいる勇者フレアの仲間や」
「あんなに怖がらせて、仲間がするような態度には見えなかった」
「お言葉やね……まあ、そう言われるんもわかるわ。うちらは、だいぶフレアに無理を強いてしまってたんも事実や」
剣士ギュンターが、耐えきれずに叫ぶ。
「オレは、勇者の
「ふざけるなよ! 怖がっている女の子相手に」
ギュンターが、灰色の髪をかきあげて言った。
「今わかった。オマエが勇者フレアをそんなふうにしたんだな」
「そんなふうにって」
「オレは、そいつを戦うための兵器として育てたんだ。たった一ヶ月で、よくぞここまで弱くしてくれたもんだ」
さすが、Dランクの先生だとあざわらう。
「誰だって嫌なことや、怖いことはあるだろ」
「勇者にそんなものは不要だ。キサマと話しても無駄だな。勇者フレア、
フレアの肩はビクリと震えるが、動こうとしない。
「だから、それをやめろよ。怖がってるじゃないか!」
ヨサクがフレアの肩を抱くのに、ギュンターは激高する。
「なぜだ! 一体どうなっている。なぜ
「おぬしの
またおかしなやつが出てきやがったとギュンターは激高する。
「ババア! オマエはなにもんだよ!」
そう叫ぶギュンターの後ろから、聖女クラリスが叫ぶ。
「フィアナ
そう言って、走り込んでフィアナに抱きつく。
どのようなときも清楚な聖女クラリスが、このような反応を見せるのは初めてで、ギュンターも唖然とした。
「
それくらいのことはギュンターにもわかる。
しかし、あの薄汚れた最上位聖職者のローブを着る老女は、五年前にギュンターを勇者の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます