第22話「シャルロットの裁き」

 フレアが叫ぶ。


「だって、コイツラは弓を向けた!」

「もう戦意を失っている」


 ベテラン山賊たちは、カボッチャ、ボケーナ、ダンボダ団長を除いて全員真っ二つになって転がっている。

 そのあまりの凄惨さに、槍を持たされた元村人などは、全員槍を捨ててその場にしゃがみこんで「助けてくれー!」と喚いている。


「矢が先生にあたるかも!」

「わかる、わかるよ。守ってくれようとしたんだろう。でも、もう誰も武器を構えていない」


 ヨサクは、フレアのところまでいくと血まみれの斧を持って震える手を押さえた。


「だって、山賊は全員殺せって、そうじゃなきゃみんな殺されちゃう」


 誰が、そんなことをフレアに教えたのか。

 法を犯した山賊と言えど、仮にも相手は人間ではないか。


 冒険者だって、同じ人間と戦うことはある。

 だが、必要以上に殺すことはない。


 魔物ですら、同族殺しは避けるものだ。


「もう大丈夫だ。フレアはよくやったよ。そこの山賊! もう降参するよな!」


 ダボンダ団長は、実に賢かった。

 ここで逃げればフレアを刺激するとわかっていて、その場にしゃがみこんでいたのだ。


 その機転が、命を救った。


「は、はい! 神に誓って降参いたします!」


 カボッチャ、ボケーナも、その場に五体投地の姿勢となって叫ぶ。


「降参!」「降参しまーす!」


 ベテラン山賊である彼らは知っているのだ。

 王都を血の海に染めた、赤い死神と呼ばれた勇者フレアの容赦なき恐ろしさを。


「先生! こいつらゴールドリバー山賊団だ。王都で、暴れまわった極悪非道な山賊だよ!」


 フレアの言葉に、冷や汗をダラダラ垂らしながらダボンダ団長は言う。


「ち、違いまーす。先生様、ワシらはコールドレバーって言ったんです。聞き間違いでーす」


 カボッチャとボケーナも必死に弁解する。


「ゴールドレバーです」「ゴールデンラバーです」


 フレアは、冷え切った声で言う。


「違う、こいつら王国から指名手配されてるから!」

「ああ、わかった王都にいた極悪山賊団なんだな。逮捕させてもらう、抵抗するなよ」


 王国から指名手配されているなら、山賊の裁きはヒルダの街で受けさせよう。

 ヨサクは、そう言うとロープを持ってきて生き残りのベテラン山賊三人を縄目にかけて、ちょうど村から帰るところだった冒険者を呼び止めて連行してもらった。


 あとはと……凄惨な遺体を見る。

 山賊とは言え、人間だ。


 遺体をそのままにはしておけない。

 手を合わせて村の近くに埋めてやることにした。


「さてと、お前たち。弁解はあるか」


 最後に残った問題は、山賊に参加しようとした十数名の元村人たちだ。

 ヨサクも、見知った顔がたくさんいた。


「すまないヨサク。食うに困ってどうしようもなかったんだ」

「俺たちはヒルダの街にも親戚筋がいないから、頼ろうにもどうにもならなくて」


 その気持ちはわからなくもない。

 ついこないだまで、ヨサクだって食うに困っていた。


 しかし、山賊団に加わっていたとは……。


「ヒルダの街で逮捕されてたら、お前らは悪くて打首、良くても徒刑とけいだぞ」


 徒刑というのも、鉱山にいって死ぬまで奴隷として採掘させられるのだ。

 結局のところ、ほとんど死罪だ。


 みんな、ヨサクにそう言われてうなだれた。

 そこになぜかヒルダの街で買ってきたのか、変な扇子をパタパタさせて、馬車に乗ったシャルロットがやってくる。


「でも、あなたたちはわたくしの領民ですから。落ちぶれても小領主、このシャルロット・ルーラルローズが裁きますわ!」


 そうなのだ。

 彼らは、ルーラルローズ男爵領の領民であるため、その裁判権は小領主たるシャルロットにある。


 村人たちは、口々に「シャルロット様申し訳ございません!」「どうぞお許しください!」と土下座する。


「あなたたち、知ってましてよ。あなたはハリヤ村のエドモンでしょう。あなたはルーラル村のマチューでしてね。あなたは……」


 村人の名前を一人ひとり呼んでいくシャルロット。


「シャルロット様!」「俺達のことを知ってくださるんですか!」


 シャルロットは、ニッコリと笑って言う。


「もちろんですわよ。この馬車にある食料も、あなたたちを助けんがために小領主たるわたくしが手に入れてきたもの!」


 村人たちは、シャルロットを拝み始める。


「なんてことだ、シャルロット様は我らを忘れずに救おうと!」「それなのに俺たちはなんてことを、死んでもお詫びできない!」


 ゆっくりと称賛の声を聞き終えると、シャルロットは澄んだ声で言った。


「小領主として、わたくしが裁きを下します。あなたたちは、ここにある食料を持って命ある限り自分たちの村の復興に尽くしなさい!」


 秋蒔きの小麦もありましてよと、シャルロットは笑う。


「ハハッ!」「命ある限り、シャルロット様のご命令に服します!」


 フッフッフッと、シャルロットは満足気に微笑み、変な扇子で前を指して馬車をポッカポッカ歩かせる。


「我が愛すべき領民たちよ! 言葉ではなく、行動で示しなさい。ほら、さっさとついてくるんですわよぉ!」


 こうして、改心した村人たちを引き連れて、シャルロットは村々の復興の足がかりを作るのであった。

 見上げた領主っぷりだなと、ヨサクは感心する。


「あいつも、やるね」


 フレアすら褒めたほどだ。

 今回は、シャルロットに救われた形だった。


 ちなみに、彼らを助けるために手に入れてきた食料というのはシャルロットがその場で適当に言った、まったく口からでまかせである。

 そのためシャルロットはこの後、慌てて馬車でオルドス村に使う食料を取りに行くことになるのだった。

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