第21話「ゴールドリバー山賊団」
物見をカボッチャに任せて、ゴールドリバー山賊団の団長ダンボダは、後ろの方を見に行く。
なにやら、団員が揉めているらしい。
「どうした」
ダンボダ団長の腹心である顔のひょろ長い山賊、ボケーナが言う。
「こいつら、土壇場に来てビビリやがって」
そいつらは、そこらの村でスカウトしてきたやせ細った村人だった。
食べるに困っていたので、食料を分けてやることで山賊の仲間に加わった男たちだ。
十数名と、ダボンダたちベテラン山賊より数は多いが、まだ一度も戦闘に加わってない。
「ほう、どうしたんだお前ら。山賊になるって決心したんじゃなかったのか」
「あのオルドス村は、俺たちにとってほとんど親戚みたいなもんなんだ。そこを襲うってのはいくらなんでも……」
ダンボダ団長は、手を広げて言う。
「ほう、親戚。なるほどなるほど、わかるわかるなあ、近所付き合いがあったから襲うに忍びないと、そういうわけだろう」
「そ、そうなんです」
元々食うに困って山賊になった近くの村人たちは、口々にそういう。
「だけどよお、考えても見ろよ。さっき、たんまりと荷を積んだ馬車が、あの村に入っていくのをワシはこの大きな目でしっかりと見たんだ」
「荷ですか?」
ダンボダ団長はニヤッと笑っていう。
「そうだよ。立派な馬車でなあ、たんまりと積まれておった。おかしいとは思わんか」
「何がですか」
「お前らが飢えてるのに、その親戚のオルドス村だったか、あいつらはたらふく食っておるんだ。親戚だったら、困ってたら分けてくれて当然じゃあないか。それなのに独り占めはズルい」
「そ、それは、そうかも」
元村人たちは動揺し、顔を見合わせる。
「なあ何も、ワシらは取って食おうってわけじゃない。決してそんなことは考えとらん、神に誓ってもいい」
「そうなんですか」
「ああ、この数で囲んでちょっと脅すだけさ。お前らは、槍を構えて突っ立っとるだけでいい、交渉はワシらがやるからな。きっと戦闘にすらならんさ」
「は、はあ……」
ダンボダ団長は、語気を強めて言う。
「なあ、あの村にたらふくある食い物や品物を、ちっと分けてもらうだけ。それとも、お前らはここで団を抜けるか。今なら構わんよ」
ダンボダ団長がとんでもないことを言い出すので、腹心のボケーナはぎょっとする。
「団長それは……」
「黙っとれボケナス。みんな、このまま団を抜けても飢え死ぬだけだと思うが、それも団長として心苦しい。まだ考える時間はある。よーく考えて決めてくれ」
元村人の山賊たちは、口々にうなずいた。
「ワシは団長だ、親も同然! お前らのことを
団長は笑顔のまま、迷ってる元村人たちと距離を取る。
慌ててボケーナが、ひそひそと話しかけてきた。
「団長、あいつらにはもうたらふく食わしてるんですぜ、その分の働きはしてもらわんと」
「だからお前はボケナスというんだ」
「はあ?」
「あいつらにもう選択肢なんか残っとらん。ここで飢え死ぬか、山賊として戦うかだ。誰が死ぬのを選ぶ?」
「だったら……」
「でもな、自分で決心したって思わせなきゃ、弾除けにもならん」
「なるほど」
「今回は実戦を経験させるいい機会だ。親戚同然だっていうなら、なおよし。クックック、一度襲っちまえば自然と腹は決まるもんだ」
ボケーナは、団長の人心掌握術に舌を巻く。
はたして、団長の言う通り、元村人たちはお互いに顔を見合わせながら、口々に「やります……」と言ってきた。
「決心してくれたか、
まるで、優しい神官のような口調で、そう断言するダボンダ団長。
もしものときの弾除けにするために集めて、前線の使い捨てにするだけなのに……。
何が
※※※
十数人の元村人、新たな補充メンバーに槍を持たせて前を行かせる。
そして、八名のダボンダ団長率いるベテラン山賊は、後ろから弓を構えてゆっくりと村に近づきつつ叫ぶ。
「ワシらは、泣く子も黙るゴールドリバー山賊団だ! 大人しく降伏すりゃ悪いようにはしねえ! 手を上げて出てこい!」
一番安全な最後尾にいるダボンダ団長は、山にまで響き渡るような大きな声で叫ぶ。
ドドドドドドッ!
土煙を上げて、山から何かが降りてくる。
あの赤いショートヘアーの少女は――
「勇者ァァア! ぎゃだぁああ!」
「嘘だろ! ぐぎゃ!」
悲鳴と同時に、弓を構えていた山賊たちが次々に斧でブシュ! と、真っ二つになっていく。
目にも留まらぬ速さで続けざまに五人!
そこら中に鮮血が飛び散る、凄惨なる赤の地獄だった。
「ダボンダ団長! これどうすりゃ」
「ボケナス! カボッチャ! 逃げるんだよぉおおおお!」
さすが、ダボンダ団長は判断が早い。
勇者フレアの姿が見えた瞬間、弓を取り落としてくるっと回転して走っている。
しかし、その判断も一瞬その生命をながらえさせたに過ぎない。
ギラッと黒光りする、フレアの鉄の斧がダボンダ団長の背中に迫る。
「なんでワシだけぇええ!」
その時だった。
「フレア! 殺しちゃいけない!」
神獣シンにまたがった、ヨサクだった。
ヨサクの言葉が、山賊たちの命を救うこととなった。
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