第二章「ヒルダの街」
第13話「ヒルダの街」
勇者フレアに担がれたシャルロットが、真っ青な顔で叫んでいる。
「死ぬ死ぬ! もっと優しく運んでくださいまし! わたくしは貴族令嬢でしてよぉおおおお!」
フレアは、なるべく揺らさないように運んでいるつもりだ。
「おっと、モンスターが出た!」
「またぁ! ぎゃああああ!」
空にシャルロットを放り投げて。
シュバッ!
街道に現れたゴブリンの胴を、手に持った鉄の斧で豪快に真っ二つにするフレア。
そして、またシャルロットをナイスキャッチ。
「あんまりしゃべると舌噛むよ」
「うぎゅううううううう!」
口をつぐんでもうるさいシャルロットである。
「ハァハァ……早いなあ、さすが都会の冒険者だ」
ヒルダの街へは、ベテラン冒険者だったヨサクが一昼夜駆け続ければ着くほどの距離だ。
荷物である紅王竜の遺骸は、全部フレアのマジックバックに収まったので比較的楽な旅だったのだが、シャルロットの足があまりにも遅いとフレアが文句を言いだしたのだ。
それで、結局こうなってしまったのだ。
おかげで予定より早く着いた。
街の門についてフレアから降ろされたシャルロットが、草むらまで走っていって。
「エロエロエロエロ」
物凄い勢いで吐いている。
走ってついていくヨサクも大変だったが、フレアに担がれるのも大変らしい。
フレアに担がれて眠ることもできず、一昼夜揺られ続ければこうもなろう。
善は急げとは言うが、いくらなんでも急ぎ過ぎだったのではないか。
荷馬車でもあればこうはなってなかったのだが、村にはいま余裕がないからそこまで贅沢は言えないにしても……。
「ハァ……フレア、もう少しゆっくりでも良かったんじゃないか」
「あいつが暴れるから」
シャルロットには厳しいフレアに、ヨサクも困った顔をしている。
何事かとビックリしている門番の兵士だが、ヨサクに気がついて声をかけた。
「なんだ、ヨサクじゃないか。街に戻ってきたのか」
「ああ、ハンスさん。お久しぶりです。今日は、村から商売に来まして」
門番歴二十年のおっさんハンス・ドアードである。
歳は、ヨサクより一歳年上の三十六歳だ。
ヨサクと知り合った頃はただの兵卒だったハンスも、今は街の正門を預かる隊長に出世している。
街をよく出入りする冒険者は、門番と仲がいいのだ。
ちょうどいいので、ヨサクはハンスに相談することにした。
「勇者フレアに、紅王竜の遺骸だって! それは、普通の商人やギルドでなんとかできるものではないぞ」
「そういうもんなんですね」
軽く事情を聞いて、ハンスは呆れたようにため息をつく。
「相変わらず、やたらとんでもない事件にぶち合ってるなあヨサク。なんでお前、それでDランク止まりなんだ」
「恐縮です」
「ともかく勇者も来てるというのなら重要案件だ。ちょっと待ってろ、領主様の館に連絡を入れるから」
すぐさま伝令を飛ばすと、すぐに返事が返ってくる。
「ヨサク。領主代行のリリイ・ラザフォード伯爵夫人が、直接お会いになる。勇者を連れて屋敷まで来て欲しいそうだ」
「そうですか」
何気ないヨサクの様子に、ハンスは驚いて感心する。
「あのリリイ・ラザフォード伯爵夫人だぞ。俺らでは、直接対面できるお方ではないんだが、ほんとに腹が座った男だよなあ」
ラザフォード伯爵家は、このオールデン王国の
領主不在の間、代行としてこのヒルダの街を治めているリリイ伯爵夫人は、この街の実質的支配者だ。
「前に何度かお会いしたことはあります」
「そうなのか、一体どういうコネだよ。今回の件はともかく、領主代行が一介の冒険者に会うとか通常ありえないんだが!」
「大したことじゃないんだけど……」
何度か冒険者として街の事件を解決した時に、お褒めの言葉を頂いた程度のことだ。
「あー説明はいいって。とにかく早く行ってくれないと、俺たちが叱られるから!」
ほら行った行ったと、門番のハンスに押しやられるヨサクたち。
ヒルダの街の奥にある、とてつもなく大きな石造りの館に案内されるのだった。
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