第8話「落ちぶれても小領主」
薄汚れたドレスを着た銀髪のウサギ耳少女は、ヨサクを叱りつける。
「とんでもない爆発が起きたから、どうしたものかと心配してましたのよ! それをあなた!」
お嬢様口調のウサギ耳少女は、ビシッとフレアを指差して言う。
「またこんな子を拾って! 村にはもう食べるものがないんですのよ! 何度言ったらわかるのですの!」
ウサギ耳少女は、銀髪の巻き髪と白いウサギ耳を揺らし、バタバタと足を踏みしめて憤懣やるかたないと言った調子だ。
やれやれと、ヨサクは頭をかいて言う。
「そうは言ってもなあシャルロット」
「いいえ、あなたはまったく今の状況がわかっておりません! もう屋敷の土壁砕いて食おうか悩んでる状態でしてよ!」
土壁が食えるかどうかはともかく、村の食料状態はヨサクもよくわかっているつもりだ。
「食べ物なら当面は心配いらないよ」
ヨサクが、そうフレアを促す。
するとフレアはマジックバックから、にゅっと巨大な紅王竜の骨付き肉を取り出して言う。
「これを見てよ」
「こ、これはドラゴン肉じゃごさいませんのぉおおおお!」
なんと、ヨサクがシャルロットと言ったウサギ耳少女は、ひと目でドラゴンの肉と見分けたようだ。
「正確には、紅王竜の肉だけどね」
今度はフレアがえっへんとふんぞり返る。
「紅王竜の肉! ヨサクにそんなものを狩れるわけないし、あなたは一体誰なんですの!」
シャルロットがよく見れば、とんでもなく豪華そうな剣をヨサクが差してるし、マジックバックを持っているのもただ事ではない。
「ボクは勇者。フレア・ユウシャだよ」
「ゆ、勇者ですのぉおおおお!」
「そして、こっちがボクの先生、ヨサクだよ」
「ヨサクが勇者の先生って、どういうことですのぉおおおお!」
そのままのけぞって、シャルロットはひっくり返ってしまった。
ヨサクは、シャルロットを引っ張り上げて言う。
「自己紹介したほうがいいんじゃないかな」
「そうでしたわ! お初にお目にかかりますわ勇者フレア! 落ちぶれたとはいえ、この地方の小領主! シャルロット・ルーラルローズですわぁああああ!」
シャルロットがドレスの裾を全力であげながら、またそのままひっくり返りそうなところを、ヨサクはなんとか支えてやる。
もう一年以上の付き合いになるが、このオルドス村を含めて五つの村の小領主であるシャルロットはいつもこの調子なのでヨサクは慣れている。
ちなみにオールデン王国の中でも屈指のど田舎。
ヒルダ大森林を領有するルーラルローズ男爵家が所有していた五つの村、ルーラル、ホットケ、ハリヤ、オボウ、オルドスはいずれもモンスターの襲撃で壊滅し、村人は離散している。
屋敷も半壊して、家族も亡くなり天涯孤独。
もともとろくになかった財産も、使用人たちに持ち逃げされてほとんど残ってない。
もっといえば、家の最後の生き残りというだけで、シャルロットは正式に領主に任命されてすらいないのだ。
もはや小領主の娘であるという気位だけで、かろうじて生きているのがシャルロットであった。
そのために、孤児を率いて自らほこりにまみれて農作業をしながらでも、ドレスを着こなし髪を巻いており、こんなオーバーリアクションになるのだ。
「こりゃまた、派手な人だね」
勇者であるから貴族という人種はいっぱい見てきているフレアだが、こんなにみすぼらしい姿でとんでもない反応をする貴族を見たことがない。
……というか、これ本当に貴族なのかと首をひねる。
「お褒めにあずかり光栄ですわ!」
褒めてないんだけどなあと、フレアはドン引きする。
ヨサクは言う。
「それにしても、シャルロットは勇者を知ってたんだね」
「知ってないわけありませんわ。なんで冒険者なのに、ヨサクは知らないんですのよ!」
「俺はシャルロットみたいに学がないからなあ」
「学とかそういう問題じゃありませんわ! 神剣の勇者と言えば、世界を救うと言い伝えられているとんでもねぇ存在でしてよ!」
わかったわかったと、ヨサクはシャルロットを落ち着かせる。
「とりあえずみんなお腹が空いてるだろうから、お肉を食べてきてよ。俺はちょっと、フィアナのばあさまのところに行ってくるから」
「うっほい! みんなぁああああ! 今日は焼肉パーティーでしてよ! すんげぇ超高級食材ですわぁあああああああ!」
シャルロットは現金なもので、美味しそうな巨大な骨付き肉をあたえられると、そのまま両手で掲げるようにして走っていった。
「さてと、さっそくだけど竜の心臓を使いたい病人がいるんだ」
あれはいいのかなあと横目で見つつ、フレアはうなずいてヨサクについていくのだった。
フィアナのばあさまの家は、こちらも村外れのあばら家にあった。
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