第6話 未来への展望
『エレメンタルクライシス』
これがこの世界のベースとなっているゲームの名称だ。スマートフォン向けにサービスを開始したもので、最近三周年を迎えた比較的有名なゲームである。ファンタジー系の世界観で剣と魔法と精霊が主役となる物語だ。グラフィック、音声、シナリオ、全体的に高水準の内容から、安定してランキングの上位にあるゲームだ。
『アレス・ルフイン』
このゲームの主人公。『剣士』の祝福を授かっており、操作できるキャラクターにおいては最優を誇り、総合能力値は堂々の一位である。物理職のくせに魔法が並の魔法職より強かったり、『斥候』並みに高い索敵能力から『司祭』顔負けの回復魔法まで、よくある器用貧乏ではなく正しく万能であるキャラクターだ。
幼馴染の『勇者』が魔王軍との戦いで命を落としたことで彼の物語が始まった。最終的に魔王討伐軍の代表となり五十人以上の仲間キャラクターと王女が率いる王国軍と共に魔王城に侵攻し、最後は魔王を一騎打ちにて倒すという設定である。
主人公への転生。現実として自分の身に降りかかると嬉しい感情もなくはないが、困惑の方が大きい。単純にリスクの問題だと思う。たしかに華々しい活躍をして、綺麗なヒロイン達と仲良くなるところだけ見れば、おそらく誰もが憧れるだろう。しかしそれに至るまで、主人公自身の命を掛け金にして困難を克服していく必要がある。もちろん今回は
だから迷う。望めばゲームで実現可能なことはすべて達成できるだろう。相応な努力は必要だが、本来の開始より一年余裕がある。では自分ならどうするか。
……と難しく考えてみたが、そんなのは初めから決まっている。彼女、ディーテを助け出す。これが最優先だ。あんなに自分に対してよくしてくれた彼女を死なせるなんて、さすがにそれは看過できない。それにあんな約束までしたんだ。ここで逃げたらこの先の人生、一生後悔する。それは間違いないだろう。
それに打算だってある。そもそも外側は主人公かもしれないが、中身は自分だ。世界を救うなんて身の程知らずなこと無理に決まっている。それに彼女達を助けることができれば主人公が魔王討伐の先頭に立つ必要がなくなる。本来その役目は彼女達のものなのだから。裏方として頑張るのは性に合っているのだが、先頭に立って事を成すのは苦手である。
だからやることは二つ。強くなって彼女達を助ける。その後は手助けをして魔王が討伐されたら自由に生きる。それが新しい人生における目標だ。
村から旅立つのは今から一か月後になった。この先彼女を助けるには冒険者としての地位を上げる必要がある。そのためにはこの村から出て、冒険者協会のある都市に旅立たねばならない。しかしこの世界では、加護を受けた人物を許可なく移動することを認めていない。月に一度、この地域を管轄している都市から役人が視察に来るので、その時に申請する必要がある。前回がちょうどディーテの旅立ちの日だったので、自分が気を失った後、次期村長が気を利かして頼んでいたらしい。なので次の視察の日が旅立ちの日となる。
ではこの一か月無駄に過ごすかというとそうではない。まずはこの世界の常識を学ぶ必要がある。今の自分は知らないことが多すぎる。今後、冒険者として生きていく上で常識がなければ悪い意味で目立ってしまう。それは将来的にマイナスになる。この点については現実の社会と変わらないだろう。なので次期村長に協力を依頼して教えを乞う必要がある。
そして自分の目標において最重要といえること。冒険者として最も必要とされる技能を鍛える必要がある。それは戦闘関係、いわゆる魔物退治である。
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