第2話 日常

「15」


「40だ」


「証拠が無い。16」


「じゃあワームはどうだ?30」


「それはそれで良い」


「ふむ………わかった、16と30」


「よし、オーケー。それで手打ちだ」


生活可能圏内都市『西南学院』


旧国家日本でも珍しい都市で学術と研究を生業とする研究者をその土地で育成し研究者に仕立て上げる素晴らしい奴隷都市研究所だったらしく、その遺物が今も残っている。


そして、今では崩壊した建物を直したり壊したりしながら小さな都市となった経由所である。


経由所と言っても住んでる人が居ない訳では無い。一応都市なわけで職がある。


そこに住まいがあり、人も通る。


なのでそこで売る事を生業としている者達が良く住んでいる。


まあ、周りに金となる獲物が少ないので本当に経由所としてだがある程度人が居てあまりうるさくないここは気に入っているのだ。


「まいど」


「ああ、そうだ助けてくれたんだから名前ぐらい置いてってくれないか?」


「………ハニー。ハニーB。そう呼んでくれ」


「ハニーB……ああ、ハニーボーイ甘い男ってわけか。わかったよハニーB」


「………まあ、それでいい」


勘違いしているが、別にボーイの頭文字から取った訳では無い。B8842500。冷凍室ベットにそう書いてあったからハニー88B。それだけだ。


いつもの宿屋の所へ一直線に行き眠り足りない分を補おうとする。


と、その前に不審者情報を見る。


世界が荒廃しても正義感ある若者は居る。その集団が出す不審者情報は役に立つ。しかも整形外科など存在しないので小銭稼ぎ(時間に対し金額が割に合わない)にも良い。


宿に着きベットへダイブし寝る。


この世の至福は寝る事で解消される。適応したもんだ。この崩れかけの世界に……


だが、眠りはすぐに覚める。終わった後は苦痛が消えるように至福も終われば消える。


今日も金をどう稼ぐか。頭と足を働かせ一日を過ごすのだろう。


これが日常。


これが俺。


これが人生。


『死にさえしなけりゃ死なんて案外遠いもんだ』そう言ってた奴が昔居た。


まあ、すぐに死んだが。


楽に生きる事は出来ない。


楽に死ぬ事はない。


楽には殺せない。


なんでこんな世界になっちまったんだろうな?


だが、最低限生きる事はできる。


砂埃の苦い味と血のイカれた味のハーモニーはまさにこの街の味。


さあ、次は何がある?


「………」


「………」


まあ、そんなタイトルを逆読みするとよくにあるクソみたいな文章を書いたもんだが、食い終わった料理のように若干の面倒くさい依頼が舞い込んだ。



VIP保護



まあ、つまり護衛だ。


違うのは敵勢力が確認出来ているが交戦はダメな事。


隠れて規定時間までやり過ごす事。


そして、少人数である事。


「………」


「………」


まあ、そういう事で二日目の朝を迎えた。案外時間が進むのは早いもんだ。


最初はなんやかんや騒いでたVIPだが、時間が進むにつれ寝て、本を読み、食べ、寝る。と案外図太い神経を見せてくれた。


規定時間まで残り3日。


外では未だに彼女の捜索が続いている。


「ねぇ」


「………」


「ねぇってば」


彼女は言うが聞こえない振りをしてやり過ごす。


俺は女と関わった奴が死んでいく様をずっと見てきた。だから関わらない。


VIPだ。女ではない。


「なんであなたは」


VIPだ。彼女ではない。


「気が狂わないの?」


「………さあ?」


つまり、メスではない。


「……やっと返事してくれたわね?」


「………」


「あら?レパートリーはそれだけかしら?」


残念だけど、レパートリーはこれだけだしトレイの上にはこれだけしか無かったよ。


「良い人形になるわ」


「………」


「本当。他の人形より静かで良いわ」


皮肉だろうか?それとも純粋な褒め言葉なのだろうか?


仮面の面ばかりで毛皮のコートの向こうが分からなくなったのかもしれない。


………今の俺を昔の俺には見せたくはないな。


何故か、そう思った。

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