47 いきなりの

「な、何あの炎!? 私の最高火力より遥かに……! っていうか、下手したら玄無のブレスに届くわよ!?」


 ミーシャが悲鳴のような叫びを上げる。

 そりゃ悲鳴の一つも上げたくなるだろう。

 まだまだ記憶に新しい俺達のトラウマ、玄無。

 攻撃の威力だけとはいえ、奴に匹敵するようなのが早くも目の前に現れちまったんだから。

 玄無襲来から、まだ二週間くらいだぞ?

 トラウマ再来には早すぎるだろ!?

 というか、最初の町で四大魔獣クラスが出てくるとか、北部怖ぇ。

 帰りたい。

 心の底から逃げ帰りたい。

 だが、帰らない!


「ボサッとしている場合ではない! 行くぞ!」

「わかってるわよ!」

「はい!」

「無論だとも!」


 玄無戦を経て自発的に戦う心構えを少しは獲得した俺は、内なるユリアに背中を押されつつも、自分の意志で仲間達に出撃を指示した。

 仲間を失う恐怖を振り払い、前進する。

 いつも通り、盾役の俺が先頭。

 足の遅いミーシャとラウンは、俺よりも速くて回避性能も高いバロンが担いで運ぶ。

 バロン加入のおかげで、ユリア戦車なんてネタ戦法より遥かに安定性が増した。


 俺達が走る間にも、町での攻防は激しさを増していった。

 襲撃者の攻撃と思われる青白い炎が何発も城壁に叩き込まれ、地獄の北部で人類の生存域を確立できるほどの屈強な壁が、どんどん破壊されていく。

 だが、町の方も無抵抗でやられちゃいない。

 城壁の上から無数の魔法が雨のように降り注ぎ、襲撃者のいると思われる場所を絨毯爆撃していた。

 それでも青白い炎の攻撃は一向に衰える様子がない。


「皆、戦法はどうするべきだと思う!?」

「側面から距離を取って戦うのが良いと思うわ! 町と襲撃者の間に挟まったら、フレンドリーファイアで私達が死ぬから!」

「ですね! ユリアさんの防御力は凄いですけど、一方向からの攻撃しか防げませんから!」

「同感だね! あの魔法の雨の中に突っ込むのはゴメンこうむる。もっとも、そんな戦法を取ったら、大した遠距離攻撃の無い私は役に立てないが……」

「よし、それでいこう!」


 バロンの弱気な発言に被せるように決定を告げて、俺達は爆心地の側面に回り込んだ。

 玄無の時みたいに、走るバロンに抱えられながら、ミーシャは詠唱開始。

 そして、射程距離に入ったところでぶちかます!


「『炎龍の息吹フレイムブレス』!!」


 ミーシャの最高火力が、魔法の雨の着弾地点を焼き払う。

 全てを焼き尽くすような紅蓮の奔流。

 他の魔法を遥かに凌駕する威力。

 

「おお! 援軍か!」

「凄まじい魔法だ……! もしや、賢者様の関係者か?」

「ありがたい!」


 それを見て、城壁の上から歓声が上がった。


「この機を逃すな! 一斉攻撃!」


 そして、ミーシャに続くように、城壁の上からの魔法連打が勢いを増す。

 彼らの魔法も決して弱くはない。

 ミーシャや襲撃者の魔法と比べるとどうしても見劣りするが、それでも一発一発が、俺と出会う前のミーシャに匹敵する火力。

 とんでもなく優秀な魔法使いがズラリと並んでるんだろう。

 さすがは魔導王国。

 さすがは賢者の国。

 だが、それでも……


「『狐火障壁ファイアウォール』」


 小さな一言。

 ともすれば聞き逃してしまいそうなほどに小さな声。

 短縮詠唱。

 それによって発動した魔法、青白い炎の障壁が……こっちの魔法を全て焼き尽くして、発動者を完璧に守った。


「なっ!?」

「なんや、えらい早い援軍やなぁ。とうとう対策されてしもたんやろか?」


 自慢の魔法を軽々と防がれ、驚愕するミーシャ達の前で、襲撃者が呑気に語る。

 青白い炎の壁に守られた安全圏で、余裕綽々に。


 独特な口調の女の声だった。

 この世界では初めて聞く関西弁。

 それに声自体に聞き覚えがあるような気がする。

 大陸北部にいて、とんでもない魔法の使い手で、関西弁の女。

 そんな奴、一人しか思い浮かばない。


「んん?」


 青白い炎の壁が割れ、そこから現れたのは、やっぱりというか予想通りの姿。

 訝しげな顔をした、金髪の美女。

 けしからんダイナマイトボディの持ち主で、見事なおっぱい様が着崩された着物の中から覗き、俺の視線はブラックホールのごとく強制的にその谷間に吸い寄せられそうになって、内なるユリアから極寒の視線を感じて背筋が震えた。

 強引に視線をおっぱい様から外せば、目に映るのはもう一つの身体的特徴。

 背中から生える、九本の狐の尻尾。


「賢者の爺かと思うたら……漆黒の鎧の女騎士のパーティーか。聞いとるで。あんたら、オクトパルスの仇やろ?」


 オクトパルス。

 九尾のおっぱいの口から、前回の戦いで倒した八凶星の名前が出てきた。

 確定だな。


「な、なんなんですか、この迫力……!? オクトパルスやトリックスターとは比べ物にならない……!?」

「予想はつくが、尋ねさせてもらおう。何者かね、狐のレディ」


 ラウンがチキンハートを再発させたかのように震え、バロンも少し冷や汗を流しながら誰何する。


「そやな。名乗っとこうか」


 九尾のおっぱい様は、そんなバロンの言葉に答えた。


「ウチは魔王軍幹部『八凶星』の一人、力の三将の一角『魔妖星』フォクスフォリアや」


 力の三将。

 『魔妖星』フォクスフォリア。

 印象の薄い八凶星の中で、例外的に印象に残ってる三人の中の一人。

 理由はユリア以上の、しかも露出が激しいという素晴らしきおっぱい様。

 というのは半分くらい冗談で、力の三将だけはストーリー終盤の敵。

 一部の四大魔獣より後に戦うことになる、強敵だからだ。

 彼らの強キャラっぷりは本当に四大魔獣並みで、だからこそ他の八凶星と違って印象に残ってる。

 そんなのと北部に入ってすぐにエンカウントとか、俺達の運勢はどうなってんだ!?


「大して思い入れは無いんやけど、それでも同僚の仇。せめて、同じ八凶星のウチの名前を心に刻んで死にぃや」


 そうして、『魔妖星』フォクスフォリアは、俺達に魔法の照準を合わせた。

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