46 大陸北部

「ひぃいいいいいい!?」

「『火炎球ファイアボール』! 『火炎球ファイアボール』! 『火炎球ファイアボール』ぅ!」


 通り道としてちょっと寄っただけでも、何やら慌ただしいという雰囲気を肌で感じた『聖地メサイヤ』を転移陣にて通り過ぎ。

 俺達はメサイヤ神聖国北部国境地帯へと転移して、そこから徒歩で目的地である『グリモワール魔導王国』に向かっていた。


 なんで徒歩かというと、驚いたことに大陸北部には一般の乗合馬車とかが一切通っていないからだ。

 当代魔王の侵攻に数百年間晒され続け、今やたった三つしか残っていない北部の国々を繋ぐ交通手段は、国がガッチガチに警備を固めた輸送隊とかだけ。

 何故なら、北部は街道にすら大量の魔獣どもが湧いて出る。

 この大量というのは、百匹とか二百匹とか、そんな可愛いレベルではない。

 道を歩いている限り、延々とエンカウントし続けるのだ。


 現在、俺達がメサイヤ神聖国最北端の町を旅立ってから一週間。

 一時間に一度は襲撃に合い、三時間に一度は大規模な群れに出くわし、一日に一度は化け猫級の強敵に襲われ、飯を食う間も寝る間も無い。

 確かに、これは一般商人とかが旅したら、一瞬で骨すら残さずに食い尽くされるだろう。


 さすがはゲーム終盤のマップ。

 さすがは魔王城だけじゃなく、魔王軍の支配領域になって野放しにされた無数のダンジョンからも魔獣があふれる超危険地帯。

 城壁に囲まれた町の中以外は地獄と聞いてたが、その噂に一切の誇張は無かった。


「ハァ……ハァ……! 無理……死ぬ……!」

「大人しく輸送隊にくっついていけるタイミングを待つべきでした……!」


 ミーシャが息も絶え絶えになり、ラウンは弱音をこぼした。

 ぶっちゃけ、俺も全力でラウンに同意したい。

 次にメサイヤ神聖国からグリモワール魔導王国への輸送隊が出るのがまさかの一ヶ月後だと知って、それなら修行ついでに徒歩で行こうなんて言い出したバカは誰だ?

 ユリアだ。


 北部舐めてた。

 こんなことなら、内なるユリアに全力で抵抗しておくべきだった。

 この超危険地帯を単独で闊歩できるのはSランク冒険者くらいだって聞いて、それなら正真正銘Sランク冒険者のバロンもいるし大丈夫だろうとか思った一週間前の自分をぶん殴りたい。


「ハッハッハ! 若いというのにだらしないぞ諸君!」

「……バロンさんは元気そうですね」

「うむ! 何故かは知らないが、体が羽のように軽くてね! 今なら何でもできそうだ!」

「……加齢臭のキツいおっさんのくせに」

「加齢臭……!?」


 ああ、せっかく元気だったバロンにミーシャが会心の一撃を入れてしまった。

 とはいえ、あの程度ならすぐに復活するだろう。

 何せ、バロンの調子が良いというのは本当だ。

 決して強がりなんかじゃないってことは、数字が証明している。


―――


 バロン・バロメッツ Lv36


 HP 824/824

 MP 746/746


 筋力 1034

 耐久 758

 知力 780

 敏捷 1261


 スキル


『剣術:Lv41』

『氷魔法:Lv37』

『回避:Lv40』

『迎撃:Lv28』

『筋力上昇:Lv31』 

『俊敏超上昇:Lv16』

『斬撃超強化:Lv13』

『氷属性強化:Lv32』

スラッシュ:Lv44』

『受け流し:Lv46』

氷結フリーズ:Lv38』

氷壁アイスウォール:Lv30』

氷結斬フリージング・スラッシュ:Lv39』

『状態異常耐性:Lv23』


―――


 たった一週間で、もうレベルが上がってる。

 明確に強くなってんだから、そりゃ体が軽くも感じるだろう。

 ゲーム終盤の地獄はキツいが、恩恵もまた大きい。

 ポ○モンのチャ○ピオンロードみたいなもんだ。


 ちなみに、その恩恵にあやかって強くなってるのはバロンだけじゃない。

 少し前までレベル35だったミーシャは、この一週間の入れ食い状態+タコこと『洗教星』オクトパルス撃破の経験値を足してレベル40まで上がり、ラウンのレベルも30まで上がった。

 それでもグロッキーなのは、相変わらず身体能力のステータスが低いからか、それとも精神的な問題か。

 年齢による経験の差で、バロンが俺達若造よりも遥かにタフっていうのはありそうだ。

 おっさん最強説、あると思います。


 なお、仲間達がこれだけ強くなってんのに、ユリアのステータスには一切の変化無し。

 この一週間だけで千を超える魔獣を駆除し、化け猫クラスを複数体葬ったというのに、我がステータスの数値は初期の頃から1として伸びず、新しいスキルが発現することもない。

 ここはゲームじゃなくて現実なんだから、ワンチャンシステム的な限界を超えられるんじゃないかと思ってたんだが、どうやら儚い希望だったようだ。


 強いて変化した部分があるとすれば、内なるユリアの感覚がまた強くなってきて、ポンコツ動作アシストが、もうポンコツとは呼べないくらいのレベルになってきたことくらいか。

 喜ばしいことではあるが、チャン○オンロードの恩恵かと言われると首を傾げる現象だな。

 というか、そろそろ本格的に俺いらないんじゃ……?


「ん?」


 と、そこで俺の目に、とある光景が映った。


「皆、喜べ。第一目標が見えてきたぞ」


 遠目に見えたのは、この地獄を耐え抜いてきたんだろう立派な城壁。

 恐らく、グリモワール魔導王国側の国境の町。

 目的地は首都だからまだ到着じゃないが、休憩ポイントに到達したのは間違いない。

 グロッキー状態だったミーシャとラウンは、地獄に仏、砂漠でオアシスを見つけたかのように歓喜の表情を浮かべた。

 が、次の瞬間……


 突如、青白い巨大な火の球が前方に出現し、それが城壁に向かって射出され、「チュドォオオオオオン!!!」という凄まじい音を立てて炸裂した。

 どう見ても、ここらの強獣どもですら比べ物にならない威力の攻撃だった。


「「「「…………は?」」」」


 やっと辿り着いたと思った休憩ポイントがいきなり爆撃されるのを見て、俺達は揃って間抜けな声を上げてしまった。

 どうやら、この地獄に慈悲は無いらしい。

 ほ、北部怖ぇ……!

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