26 ぶっ倒す!!
「『せり上がれ、紅蓮の障壁』!!」
降り注ぐ矢の雨を前にして、最も素早く最適解を選び実行したのは、ミーシャだった。
「『
いつもは縦横数メートルくらいの壁として出す魔法を、今回は多大な魔力を込めたのか、このボス部屋全体を覆うカマクラのような形で発生させた。
ミーシャの絶大な火力によって、矢は俺達に届く前に全てが熔解。
こいつも化け物じみてきたな。
めっちゃありがたい!
「助かったぞ、ミーシャ!」
「お礼言ってる暇なんかないわよ!」
まあ、ミーシャの言う通りか。
何か対策を考えないと辛い。
回れ! 知力99!
「ユリアさんはトリックスターに突撃してください!」
だが、俺が何かを考えつく前に、ラウンからそんな言葉が飛んだ。
「少しの間だけなら、ダンジョンボスは僕達が抑えます! その間にあいつを!」
彼はピエロにめっちゃ煙幕の出る煙玉を投げつけ、ほんの僅かな間だけ奴の視界を奪ってゴーレムの操作を乱し、その間に言葉を繋いだ。
膝は震え、目には涙が溜まっている。
それでも、彼は戦えていた。
「ラウン、お前……」
「行くよ、グラン! 最後くらい、僕も君の隣で戦わせてくれ!」
ラウンが震える声でグランに共闘を持ちかける。
グランはチキンハートと罵った相手のそんな姿に目を見開き、次の瞬間には悪どいことを考えてるインテリヤクザの顔でニヤリと笑って、
「……ふっ、いいだろう。足を引っ張るなよ!」
「うん!」
ラウンとの共闘を、笑顔で受け入れた。
「カハッ!?」
「おい、いきなりどうした、カナン!?」
「なんでもありません。ただの発作です。ありがとうございます」
「はぁ!?」
なんか、唐突にカナンが鼻血を噴き出すという心配になる光景も見られたが、まあ、大丈夫だと思いたい。
「わかった! 即行でケリをつけてやる!」
俺はラウンの作戦に乗った。
あのピエロを早急に黙らせなきゃならないのは確かだ。
それに、ラウン含めた良い奴らが既に甲冑ゴーレムの方に向かってしまった以上、その背中を狙おうとしてる取り巻きゴーレムの対処も誰かがやらなきゃならない。
俺達がピエロへの道をこじ開けるついでに叩いておくのが一番良いというか、もうそれしかないだろう。
「ミーシャ! 援護を頼むぞ!」
「任せなさい! 『焼けろ、焼けろ、焼けろ! 熱を孕んで燃え上がれ!』」
ミーシャが上級魔法の詠唱を始める。
また罠で狙われるのが怖いが、そこはラウンの教示を今日まで吸収し続けてきたミーシャの罠察知能力を信じる!
「ハァッ!!」
そうして、俺はピエロに向かって、その前にいる取り巻きゴーレムどもを蹴散らしながら突っ込んだ。
ラウン達の背中を狙おうとしてる連中を大剣でぶった斬って、一撃で倒せる奴は倒し、無理な奴はせめてふらつかせて移動速度を下げておく。
後は頼れる相棒がなんとかしてくれる!
「『
俺の背後で、ミーシャの放った火炎の奔流が、取り巻きゴーレム達を飲み込むのがわかった。
それを置き去りにして、俺は駆ける。
10トンを超える装備に身を包んでも、欠片くらいしか衰えない馬鹿力を駆使して全力で駆ける。
そんな俺を、ピエロは笑顔で出迎えた。
「凄い速さですね〜! 力も凄いし、武器も素晴らしい! ですが〜」
ピエロがガバッと、露出魔のように着ていた服をはだけた。
『奇怪星』の名に恥じぬ、突然の奇行。
突然の変態行為。
何事かと思ったが、その狙いはすぐに察した。
奴の服の下に、小型のドラゴンが巻きついていたのだ。
「己の力を過信し、これを避けられない距離まで近づいたのは失策でしたねぇ!」
小ドラゴンの口の中に炎が発生する。
ミーシャの上級魔法のモデル。
小型とはいえ、正真正銘の龍の息吹。
「『
獄炎が放たれた。
現時点のミーシャの最高火力を遥かに超える熱量。
盾で防ごうとも、鎧で防ごうとも、包み込むような炎が俺を焼く。
「アッハッハッハッハー!! 火力特化の『ミニチュアドラゴン』! 攻撃範囲こそ狭いですが、威力だけなら四大魔獣にすら匹敵する龍の息吹! 我が主より賜った私の護衛です!」
ピエロが笑う。
勝利を確信して笑う。
確かに、こんな切り札があったんじゃ、余裕ぶっこいてたのもわかるってもんだ。
火力だけならレベル40に匹敵するミーシャを遥かに超える大火力とか、直撃すれば人類最強でも大ダメージだろう。
ゲームでも使ってきてたかは覚えてないが、とりあえずこいつを序盤の敵だと思って油断したら死ぬ。
それだけは確かだ。
「アーッハッハッハッハッ……………………は?」
けどまあ。
お前、最後の最後に。
「判断を誤ったな、『奇怪星』トリックスター」
炎の中から無傷の俺が飛び出す。
マントは燃え、鎧は赤熱し、鎧の下に着てた服は全焼してエッチなことになってるが、肉体へのダメージはゼロ。
それどころか、せっかくの故国の紋章が刻まれたマントをオシャカにされたユリアがブチ切れてるので、怒りで覚醒して逆にパワーアップだ。
「な、何故!?」
ピエロが慌てる。
その気持ちはわかる。
お前の判断は、普通に考えれば何も間違ってない。
敵の一番強い奴がノコノコ近づいてくるまで切り札を隠し、初見殺しで確実に仕留める。
ああ、正しいよ。
ただ、残念なことに……
「私は頑丈さにだけは自信があるんだ」
この体は、あらゆる実用性を度外視して、才能以外の全ての伸び代を耐久に振ったネタキャラなのだ。
それだけが、お前の誤算。
ああ、そうとも。
お前の言う通り、俺はこの力を過信してるともさ。
所詮は貰い物の力でイキる転生者もどきだ。
だが、そんな傲慢な過信を打ち砕けるだけの力を、お前は持っていなかった。
それだけの話である。
「死ね」
必☆殺!!
女騎士スラッシュバスター!!
要するに、ただ全力でマッスルを使っただけの斬撃がピエロを襲う。
上から叩きつけるような一撃。
それが奴の体を真っ二つに両断し……
「あべしっ!?」
んん!?
両断できなかったぞ!?
なんか、バリン! っていうガラスを砕いたような音だけ聞こえたが、ピエロの体には傷一つついてない。
斬撃の威力で地面に叩きつけられただけだ。
まさか、こいつ、見た目に反して甲冑ゴーレム並みに硬いのか!?
「ちょ!? 待っ!?」
いや、でも、なんかめっちゃ焦ってるな。
無敵ってわけじゃないのか?
とりあえず、もう一回斬りつけてみる。
「あふんっ!?」
やっぱり、斬れない。
また、バリン! という音が聞こえてきて、ピエロはノーダメージ。
けど、今回は音の発生源がわかった。
手につけてる変なリングだ。
そこにハメ込まれてたデカい宝石みたいなのが、まるでピエロのダメージを肩代わりするように砕けた。
リングの数は二つ。
左右の手に一つずつ。
そして、攻撃を無効にした回数も二回。
なら、ひょっとして次は……
「ぎゃああああああ!?」
あ、やっぱり斬れた。
咄嗟に身を守ろうとして体の前でクロスされた両腕を斬り飛ばして、体に巻きついてた小ドラゴンも仕留めた。
だが、小ドラゴンが盾になったせいで、致命傷は負ってない。
人型生物を斬った嫌な感触が俺を襲っただけだ。
「ギャオオオ!!」
「む!?」
と、そこで小ドラゴンが最後の抵抗をした。
体を斬られてピエロの体に巻きつけなくなり、地面に落ちながらも、護衛という役割を最後まで果たすかのようにブレスを吐き出す。
今回は熱量ではなく、俺を吹き飛ばすことを優先したのか、ミーシャの『
咄嗟に盾で受け止めたが、このゼロ距離じゃ受け流しまではできず、少し後退させられた。
そして、これがマズかった。
「ゼェ……ゼェ……! ああ、痛いですねぇ……!」
両腕を失ったピエロが、バッタみたいに跳ねて俺から逃げた。
「あなたの顔は覚えておきますよ……! 名も知らぬ女騎士さん……!」
奴の前の地面から、ゴーレムの大軍が生まれる。
今さら、その程度の壁で逃げられると思ってんのか!
大人しく諦めんかい!
そう思ってたんだが、俺がゴーレムの壁に数秒足止めされてる間に、突然ピエロの足下に穴が空いた。
落とし穴!?
自分の足下にだと!?
「さらばです! またお会いしましょう!」
「待て!!」
ユリアの感覚が怒りに任せて、咄嗟に大剣を投擲したが、当たる寸前でピエロは落とし穴の中に消えた。
しかも、その穴が瞬時に塞がる。
に、逃しちまった……!
「ッ〜〜〜〜〜!!」
その瞬間、ユリアの残留思念から、ドロドロとしたピエロへの怨嗟が湧き上がり、俺の心まで蝕んでいく。
いやぁあああああ!? やめてぇえええええ!?
そのドロドロやめてぇえええええ!?
「先輩! 今は怒るより、こっち手伝って!!」
「ッ!」
だが、ミーシャの声によって、ドロドロの感情はなんとか心の奥に沈んでくれた。
た、助かった……!
ありがとう、ミーシャ!
お前は俺の恩人だ!
そんな恩人に報いるべく、俺は大剣を拾い上げて甲冑ゴーレムに向かっていった。
ピエロは逃したが、まだダンジョンボスが残ってる。
まだ安心するには早い。
もうひと踏ん張りだ。
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